『ー…まさか、本当に懐柔するとはな』
翌朝。俺は地上部隊基地の通信ルームにて、経過報告を行っていた。…そして、報告を聞いたブラウジス閣下は驚愕の表情をする。
「自分も、こんなにスムーズに行くとは思っていませんでしたよ。…これも、『彼女』のおかげです」
正直、カノープスとカノンが居なかったらかなり『無理ゲー』だっただろう。…ホント、感謝しかないな。
『…なるほど。
ーで、その後は?ある程度、-情報-は入手出来たのか?』
「勿論です。
ー先日報告しましたが、『キャット』達は今回のトラブルの『メイン』なのは間違いないです。…つまり、通信システムへの『ウィルス混入』や『違法カスタマイズ』のサポート。そして、先日の『特殊な光学兵器』の運搬を『強制』させたりする事も可能な訳です。
なにより、『実行犯』も『マインドコントロール』されている可能性もあります」
『……あれだけの-凶行-を躊躇なく実行出来たのは、そもそも自我が無いからか。確かに、考えられる』
「また、『キャット』達は更に驚くべき能力を持っていました」
『…なんだと?それは?』
「『リモートコンタクト』です。
どうやら、『キャット』達はコネクター無しで『オーナー』とコンタクトしていたのです」
『…っ!?そんな、-それ-はまるで…ー』
「ー遂に、『連中』は『私達の数歩後ろ』まで迫って来たのですよ」
閣下は衝撃を受け、俺は久しぶりに嫌な汗を流した。…まさか、『デビュー』して僅か数ヶ月でここまで『進化』するとは思わなかった。
『…なんという事だ。…いや、だからこそ-連中-は新たな-兵器-を大事に教育したのだろう。
…ちなみにだが、-場所-は?』
「…残念ですが、該当ポイントは-解体済み-でした。恐らく、『キャット』達が捕獲された時点で『退去』を始めたのでしょう」
『…やはりか。…しかも、ただ退去するのではなく解体までやるとは。
どうやら、-意識改革-も同時に行われているようだ…』
閣下は、やれやれといった表情を浮かべた。…はあ、ホント『面倒』なったな。恐らくは、近い内に『俺達』が乗り込んで来ると予想しての『大改革』なんだろう。…けれど、結局のところトラブルは『余裕』で処理されてるし苦労して生み出した『新兵器』は速攻で懐柔されてるときてる。
まあ、要するにまだ『脅威』ではないし…いずれ行う『解放作戦』に、全く懸念はないのだ。
『ー…その建物は誰の所有だったのだ?』
「…調査チームによると、かなり前に倒産した企業の所有物件でした。それを、『連中』のダミーカンパニーが買い取っていました」
『…そうか……』
閣下は、非常に苦々しい顔になる。
ー現状、連盟内には『所有者無し建物』がそれこそ星の数ほどある。そして、そういう場所は大概『イリーガル』な連中のアジトになったりして治安悪化の要因となったりするのだ。
当然、最初は『全て解体すべきだ』という声が各所から聞かれたが…凄まじいコストが掛かるので、行政は先送りにしていたのだ。
しかし、最近になって帝国政府は『様々な新規カンパニー』に安値で買い取って貰うようにしたのだ。結果、『そういう建物』が無くなったのだが…。今度は別の問題が発生した。
…なんと買い取り希望のカンパニーの中に『怪しい』のが混じり始めたのだ。
だから、チェックは非常に厳しくしたのだか…それにより、圧倒的に『人手』が足りなくなったのだ。
『ー…全く、上手くいかないモノだな』
「心中お察しします、閣下。…とりあえず、報告は以上になります。
尚、現在は『キャット』達がどういう『教育』を受けて来たのかを調査中です」
『…分かった。…ありがとう、同志プラトー』
「いえ。
それでは、失礼致します」
『ああー』
そこで通信は切れ、俺は後片付けをして通信ルームを出た。
「ーっ。お疲れ様です、エージェント・プラトー」
すると、ウェンディ少尉が直ぐに駆け寄って来た。…いや、『軍人』な上まだ若いから当然だがホントに元気だな、この人。
昨日も、地上に戻って来たのはかなり遅い時間でそして今朝も早くから起きているにも関わらず、シャキッとしていた。
「それで、この後はどうされますか?一度、拠点に戻りますか?」
「そうですね。お願いしますー」
「ーっ!エージェント・プラトー」
とりあえず、やるべき事は終わったので基地を出ようとしていると…隊員がこちらにやって来た。
「良かった。…実は、先程ラバキアテレビ局の局長殿よりエージェント・プラトー宛にメッセージが送られて来ました。
謹んで、代読させて頂きます。
『ー先日は、私の友人が大変お世話になりました。本当に、感謝してもしきれません』…以上です」
「…(まあ、『家族』だから伝わってるか。)。
わざわざ、ありがとうございます」
「いえ。
ーそういえば、今日は『若手』の方々が『第2の試練』に挑む日でしたね。…『我々』も、心中よりエールを送っています」
お礼を言うと、隊員はふと『今日の予定』を告げ『星系軍』を代表してエールを送ってくれた。…バタバタしていて忘れがちだが、俺達の本来の目的は『こっち』だ。
「(やっぱ、エールを貰うのは良いな。…そして、それだけ『注目』や『期待』をされてるって事だ)…ありがとうございます。それでは、失礼致します」
「失礼しますはい」
俺は再度礼を言い、少尉と共にお辞儀をして基地を後にするのだったー。
◯
「ーおはようございます、皆さん」
『おはようございます』
数時間後。俺達『クイズメンバー』はホテルのロビーに集合し、『改めて』朝の挨拶をする。
『……』
まあ、当然『ファーストステージ』をクリアしたライバル達も居た。…そして、彼らは直接的ではないにしろこちらに意識を向けていた。
「まあ、今さら言うまでもありませんが『ミス』だけはしないように気を付けてましょう。
ーもしもミスをしてしまったら、『顔役達』…特に『連盟で最も強く美しいマダム』にお説教されてしまいますからね?」
「「…分かってます」」
「「…き、気を付けます」」
「了解です…」
俺の言葉に、ランスターの2人は真剣に頷き新入り達は冷汗を流した。
『……』
そして、周りのライバル達はちょっぴり同情や安堵して来たりしていた。…どうやら、『プレシャス』が厳しいって事が大分伝わって来たようだな。
「ーお取り込み中、失礼致します。
只今、ホテルの地下パーキングに送迎カーが到着致しました」
そんな中、ホテルのスタッフが俺達やライバル達の元にやって来て『迎え』の到着を教えてくれる。
「ありがとうございます。
ーでは、行きましょうか」
『了解です』
そして、俺達をはじめとする参加者達は一斉に移動を開始した。
「ー皆様は、こちらにお願い致します」
「ありがとうございます」
『ありがとうございます』
それから少しして、地下パーキングに案内された俺達は指定のカーに乗る。
「ーあ、おはようございます皆さんっ!」
『…っ!』
「おはようございます、ユーリ『お兄さん』」
すると、ドライバーシートから戦闘班班長補佐のユーリ中尉の元気な挨拶が聞こえた。…当然、知らなかったメンバーは驚くが俺は笑顔で返事をする。…多分、局長殿か地上警備部隊司令官辺りが気を遣ってくれたのだろう。
「それでは、前のカーが動きしだい出発ですのでしばらくお待ち下さい」
『……』
「…ちなみにだが、俺は何も聞いてないぞ。
多分、『上』の気遣いだろう」
『…っ』
すると、メンバーは俺を見て来る。当然だが、俺は何も聞いてないので予想を口にした。
「ー流石ですね。今回の『シフト』は、地上警備部隊の配慮です。
ー担当された責任者曰く、『その方が少しでもリラックス出来るだろう』との事です」
『…あ』
「有難い事だ」
「…っと。それでは、発進します」
「お願いします」
『お願いします』
警備部隊の配慮に感謝していると、前のカーが動き出したので俺達の乗るカーも会場に向けて動き出すのだったー。