『ーそこまでっ!ペンを置いて下さい』
終了を告げる電子のベルが鳴り、試験総監督のアルファイド博士がコールした。
『ーだあああっ!』
『ムリ~!』
直後、会場の至るところから悲痛な叫びが聞こえて来た。…多分、自信が無いか空欄だらけになってしまったのだろう。
ー実際、今回の問題は『ファーストステージ』と比べモノにならない位の難問揃いだった。…いや、マジで『スペシャルトレーニング』をしていて良かった。…っ、さてー。
心底ホッとしていると、スタッフ達がタブレットを回収していく。それと同時にパーテーションが解除されたので改めてメンバーの様子を見た。
「「……」」
「「「……ふう」」」
まず、ランスターの2人だが少し落ち着きがなかった。
テスト後の休憩中は割と元気だったのだが、最後の『古代の習慣』は自信が無いのだろう。
一方、『新入り』の3人は落ち着いていた。というか、3人はどの科目の後も随分落ち着いていた。
恐らく、自信があるか『出し切った』故に堂々としているかのどちらかだろう。
『ー回収が完了しました。それでは、これより採点を始めますので一旦会場から出て下さい』
そんな事を考えていると、タブレットの回収が終わったのでスタッフがアナウンスする。
『ー…はあああ』
『マジ、自信ない…』
俺達チャレンジャーはそれに従い、速やかに会場から出始める。…その大半は、深いため息を吐いたり項垂れたりしていた。
『ー……』
『…ほう』
けれど、極一部のライバル達は非常に落ち着いていたし幾つかのグループはこちらを見て称賛の声を漏らした。…はあ、やっぱり『メインステージ』では彼らとやり合う事になるだろう。
「ーあ、空席発見しました」
やれやれと思いながら会場の外に出ると、ミリアムが直ぐに報告して来る。なので、俺達は人のウェーブがバラけるのを待ってからそこに向かった。
「ー…ふう。やっと終わった」
「ですねー…」
「お疲れ様でした。…とりあえず、ドリンクで疲れを癒しましょう。それじゃあー」
そして、ランスター達は真っ先にドカッと座り新入り3人は静かに座った。…けれど、俺は座らずに買い出しとして名乗り出る。
「…っ、お願いいたします」
「……。…すみません」
「…ありがとうございます」
「「……」」
すると、メンバーは『何か気付き』つつ見送ってくれた。…はあ、出来るだけ平静を装っていたがしっかりバレてるな。いや、本当『修行不足』だ。
俺は、ちょっと反省しつつドリンク自販機に向かった。
ー実は、2つ目のテストが終わったタイミングで『セキュリティチーム』から緊急報告が飛んで来たのだ。
『ーメインステージの屋上に、大規模な-破壊装置-が設置されている』…いや、メール見た時はマジで焦ったな。おかげで、3つ目の『古代の政治・法律』は落ち着いて取り組めなかった。
だが、イリーナ班長の迅速な対応のおかげで装置は処理チームと『サポーター』達によって無事に解除されたので、5つ目は何とか集中できた。
しかし、未だ『問題』の根本的な解決には至っていない。…はあ、まさか『関係者』も『魔の手』に落ちていたとは。
彼女らの予想では、『ガードマンもしくは出入りの業者が-催眠-に掛かっていて無意識に-装置-をセッティングしたのではないか』…という事だが、多分間違いないだろう。
そうなると、速やかに『解除』する必要があるだろうが…『カウンター』を考えると、慎重にやらなれけばならない。
ーはあ、早いとこ『黒幕と実行犯』を捕まえないとな~。出来れば、『メインステージ』の前に。…っと。
密かに決意をしていると、自販機コーナーに着いたので意識を切り替える。そして、ライバル達の後ろに並んだ。
『ー…っ』
『……』
当然、彼らはこちらに意識を向けて来るが俺は気にせず順番が来るのを待った。
「ー…うわ、出遅れたな」
そんな時、後ろから女性の声が聞こえた。…多分、彼女もライバルの1人だろう。
「…っ!ねぇ、そこの背のデカイ『有名人』さん」
「……あの、もしかして私ですか?」
すると、何を思ったか彼女はこちらに近いて来て呼び掛けて来る。…とりあえず、周りに『背の高い人』はいなかったので振り返った。
ーそこには、派手な髪と衣装の小柄な女性が立っていた。
「そう、貴方だよ『有名人』さん」
「…いや、貴女の方がよっぽど『有名人』じゃないですか?」
彼女の言葉に、俺は内心かなり驚きながら返した。…実際、沢山の『メディア』に出ている彼女の方が世間一般の認知度は高いだろう。
「…っと、すみません」
「ああ、ゴメンゴメン」
すると、目当ての自販機が空いたので一旦会話を終了しメンバーの好物を購入する。そして、それを愛用のバックに入れとりあえずライバル達のジャマにならない位置に移動した。
「ーっと。…あ、悪いね」
そして、少しして彼女も商品の購入を済ませまたこちらにやって来た。
「…それで?
ー『ルリームイールが生んだクイズクイーン』が、一般人の俺に何の用ですか?」
とりあえず、ストレートに『理由』を聞いてみる。
ーそう、彼女はネリエル=ウェスパルド。またの名を『クイズクイーン』。…つまり、『連盟中のクイズレディ』の頂点に立つ女性である。
「あら、光栄ね。…とりあえず、歩きながら話しましょう」
すると、彼女はニコリと笑い歩き出した。…なんだろう?…単に、『宣戦布告』ってワケでもなさそうだ。
彼女の纏う空気が凄く真剣なので、俺も真面目になる。そしてー。
「ーまずは、『お礼』から。
『貴方達』のおかげで、『最高のステージ』にチャレンジする事が可能になったわ。
だから、ありがとう」
彼女はふと足を止め、クルリと振り返り心からの感謝を口にした。…多分、彼女も随分とハラハラしていた事だろう。
「…俺は、『大した』活躍はしていませんよ。
主に、『サポーター』の人達が頑張ったのですから」
内心、ちょっと嬉しいが『いろいろ考慮』して『フェイク』を口にした。
「それでもだよ。…そもそも、貴方達がクイズショーに参加しなかったら『その人達』だって来なかったワケだし。
だから、やっぱり『ありがとう』を言いたいかな」
「……。『どういたしまして』」
「うん。…それで、もう1つは『情報提供』の為だ」
俺が感謝を受け取ると、彼女は微笑む。…けれどまだ、真剣な雰囲気は纏ったままだ。そして彼女は、もう1つ…『本題』に入った。
「(…『思わぬルート』でもないのか。何せ、彼女は『地元住人』なのだから。)
…伺いましょう」
「……。…『コレ』を」
返事をすると、彼女は一旦周辺を確認してから胸ポケットから素早くメモリケースを出し俺に渡して来た。なので、俺も素早く受け取りジャケットのポケットに入れる。
「…今渡したヤツには、『知り合い』の所有物件の住所データが入っている」
「……はい?」
それを確認した彼女は、こちらが聞かずとも内容を口にした。…当然、俺は首を傾げる。
「…まあ、いきなりそんな事言われても分からないよね。でも、貴方達の『ボス』ならきっと直ぐに『理解』してくれるハズだよ」
彼女はそう言ってくるが、『当人』である俺には……いや、まさか『そういう事』なのか?
「…?どうかした?」
「…あ、そういえば1つ確認したい事があるんですが、『許可』は貰ってますよね?」
『核心』に迫っている予感がしていると、彼女はふとこちらを見て来た。…とりあえず、誤魔化しの意味も込めて『確認』した。
「…ああ、きちんと持ち主や『代理』には貴方達に情報を渡す事を話した上で開示して貰っている」
「…なるほど。なら、大丈夫ですかね」
「…そう。では、どうか宜しく」
「ええ。きちんと、『ボス』にお渡しします」
そして、『確認』が終わったタイミングで彼女の仲間と思わしき女性達が見えて来たのでそこで解散した。…さてと。
その後、メンバーの元に戻るまでの間に俺はセキュリティチームに報告をするのだったー。