「ーすみません。お待たせしました」
「お疲れ様です、エージェント・プラトー」
『お疲れ様ですっ!』
同日夜。俺は、地上警護隊基地に来ていた。…ちなみに、『セカンドステージ』は全員クリアだった。
出来れば、皆でまた祝勝会をしたかったが今日で『片付けられる』かも知れないのでこっちに来たのだ。
「…それで、本当なのですか?
ー『首謀者』の拠点を捕捉したというのは…」
『……』
そして、俺が座ると地上指令は真っ先に確認して来た。当然、ミーティングルーム内の視線もこちらに集中した。
「はい。
まずは、経緯から説明しましょう」
勿論、俺は堂々としながら例のメモリケースをテーブルの上に置いて説明を始める。
「これは、本日午前に『プレシャス』の若手の1人である『オリバー』が『ライバル』から受け取ったモノです」
『……?』
「…っ、『例の番組』のチャレンジャーか」
『…っ!』
最初、メンバーは首を傾げていたが指令の言葉にハッとした。
「はい。ちなみに、彼女はラバキア出身の『クイズクイーン』です」
「…っ!ネリエル=ウェスパルドかっ!」
『……』
『情報提供者』の素性を知った指令とメンバーは驚愕した。…まあ、普通結び付かないよな。
「…っ、静かにしたまえ。…すまない、続けてくれ」
「いえ、皆さんのお気持ちは良く分かります。
ー正直私も、『聞いた時』は凄く驚きましたから」
指令は直ぐに、メンバーを落ち着かせ続きを促して来た。…まあ、俺も同じ気持ちだったのでフォローを入れた。そして、少ししてから説明を再開する。
「そして、『これ』の中身ですが彼女の知り合いの所持する『商業ビル』の住所になります」
『……』
「……まさか、その中に『犯人』の拠点が?」
「はい。…ああ、勿論彼女はきちんと所有者か『代理人』に許可を取っていました。そして、同行補佐をしてくれている第1遊撃部隊の情報班が実際に確認を行ったので、この『データ』の捜査利用は法的に問題ありません」
「…流石だ。
ーでは、『見せて』くれ」
「了解ですー」
すると、モニター操作担当の軍人が傍に来たのでこちらで編集したメモリを渡した。
ーそして、数分後。モニターに、『犯人』の姿が映し出された。
まず、容姿だが…片方は『若作りな男性』。そして、もう片方は『小綺麗な女性』だ。
…そう。先日、レイラ少尉が掴んだ情報の中にあった人物達が『首謀者』であると証明出来たのだ。
「…この2人が、今回の『首謀者』というわけか」
「間違いないでしょう」
「捜査担当はどうだ?」
「はっ!
ーこの2人が所有する『商業施設』に、事件の少し前から『怪しい連中』が出入りするようになったと、近隣住民から情報を得ています。
ですから、私もエージェント・プラトーと同意見であります」
捜査の責任者は、手短に報告をしつつ俺に同意してくれた。…いや、本当仕事が早い。
「ありがとう」
「はっ」
「…それにしても、この2人は何故『こんな大事件』を引き起こしたのだろうか?」
すると、指令は率直な疑問を口にした。…だから、俺はもう1つの『証拠』を取り出した。
「…それは?」
「隔離施設から送られて来た、『キャット』達のデータですよ。…これを見て、私は1つの仮定を立てました」
「…『仮定』?」
「恐らく、『首謀者』であるその2人は強力な『催眠』によってコントロールされているのでしょう」
「……は?」
『……っ』
当然、指令は唖然としメンバーはまたしてもザワザワとしてしまう。
「まあ、あくまで『仮定』の話です。
ーですが、果たして普通の人生を歩んで来たであろう人が『些細なトラブル』で『凄まじい憎悪』を抱く事があるでしょうか?
それも、『中心』となる人物のみならず関係者や星系防衛にまでも『報復対象』とする事があるのでしょうか?」
『……』
「…少なくとも、私はそんな狂人に遭遇した事はありません。
ー『連中』以外には」
『……っ!』
「…まさか、この2人は『かの組織』の人間にコントロールされていると?」
「…恐らくは。ただ、その確認は実際に2人を拘束してからですね」
『……』
「…なるほど。…では、一応そちらのデータも見せてくれ」
「了解です」
そして、別の軍人が来たので彼にメモリを渡した。
「ー…これは」
「まず、『キャット』のアビリティですが大体予想通りでした。
1つは『催眠導入』。額のクリススタルを10秒以上見た相手を催眠状態にするアビリティで、これが『全て』の根幹になります」
『……』
それを聞いて、何人かが『失態をおかした』顔をした。…多分、実際に『被害』に遭ったのだろう。
「2つ目は、『認識阻害』。
最初のアビリティを受けた者から、自身を認識出来なくするモノです。これは、単に『見えない』だけではなく記憶にも『ロック』が掛かる恐ろしいモノです。
地上本部や、イーストエリア支部。そして商業エリア基地の人員が『気付けなかった』のは、『これ』が原因でしょう」
『……』
そして、メンバーは僅かに顔を青くした。危険性は、十分に伝わっただろう。…ただー。
「ー恐ろしいのは、『ここから』ですよ」
『……っ』
モニターに表示された『キャット』の情報は、『次のページ』に移った。
「3つ目は、『意識誘導』。
これも、最初のアビリティを受けた者…以降は『パペット』と呼びますが、それらの『意識』を都合の良いように誘導するモノです。
これが、地上部隊のほとんどがやや『過激な思想』になっていた原因です」
『…っ』
メンバーは、恐ろしさ半分『屈辱』半分といった複雑な表情だった。
「そして最後は、『隷属化』。
これは、『パペット』から『意思』を奪い自分の『マリオット』にするモノです。…恐らく、2人は『これ』を受けているのでしょう」
『………』
「…本当に、『恐ろしい存在』だな。
もし、エージェント・プラトーが居なければ我々は真実にたどり着けずに、この事件は『最悪な結末』を迎えていただろう。
いや、そればかりか『秩序崩壊のトリガー』を引いていたかもしれない」
すると指令は冷や汗を流しながら、『起こり得た最悪のIF』を口にした。…いや、マジでそうならなくて良かった。
「…?…まだ、何かあるのか?」
すると、未だ座らない俺を見て指令が不安そうに聞いてくる。
「…はい。
実は、この4つの『脅威』のアビリティは『後ろほど厳しい制限』があるのですよ」
『……っ!』
「…なんだと?……つまり、『弱点』という事だな?」
直後、沈んでいた空気は息を吹き返したように明るいモノに変わる。特に指令は、期待に満ちた瞳で軍人らしい表現をした。
「その解釈で間違いありません。
ー『制限』の1つは、『対象人数』です。
これは、『前2つ』にもありますが…特に、『3つ目』は最大5人。『4つ目』に至っては1体につき『1人』にしか使えません」
「……」
「次に、『出力』。
どうやら、『3つ目』と『4つ目』は相当なエネルギーを消費するようで同時には使えないようです。なにより、『2つ目』はおろか『ベースアビリティ』すら使用不可となります」
『……』
「そして、最後に『静止』。
『キャット』達は、アビリティ使用中一切身動きが取れなくなるのです。勿論、余計な『エネルギー』を消費しないという理由もありますが…どうやら、『催眠』のコントロールには凄まじい集中力が必要なようです。
だから、地上基地に居た『キャット』達はあんなにも簡単に捕獲出来たのですよ。
ー以上で、報告を終わります」
『……』
「素晴らしい。…本当に、エージェント・プラトーは最高の捜査官だ。
良くぞ、ここまでの事を調べ上げてくれた」
すると、指令は賛辞を送って来た。…そして、厳然たる表情でメンバーを見る。
「さあ、我々も負けてはいられないぞ。度重なる『失態』によって失われつつある誇りと信用を取り戻すだけでなく、平和な『日常』をもたらす為にも必ずや『元凶』を絶つぞっ!」
『イエス・コマンダーッ!』
指令の言葉に、全員が敬礼と共に力強い返事をする。…ああ、どうやらマジで『今日』で終わりそうだ。
「エージェント・プラトー。どうか、最後まで助力を頼む」
「勿論ですとも。
ー『若手達』には、安心して『最後の試練』に挑んで欲しいですからね」
「ありがとう。
ーそれでは、このまま『ブリーフィング』を始める」
『ハッ!』
そして、遂に『ケリ』を付ける準備が始まるのだったー。