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 ーSide『イリーガル』


「ークソッ!どうなってやがるっ!」

 暗闇の中、粗暴そうな男…『サーシェス』の重役は近くの壁を殴る。直後、パワードグローブによって殴られた部分が凹んだ。

(なんで『アジト』がバレたんだ?『コイツら』のショップのスタッフや、近隣住民は俺達の事に気付いていないハズなのに…)

 男は、自分の部下達に混じって逃走する例の2人を見ながら何故『こんな状況』になっているのか必死に考えた。

 ーおよそ30分前。『女性マリオット』が所有するショップに、地上警備部隊の特殊制圧チームが突入して来たのだ。当然、そこの『地下ルーム』に潜伏していた男の部下と『レプリカ』と『キャット』は抵抗虚しく捕縛された。

 しかし、その時ちょうど通信をしていた事で男は事態を察知し素早く『準備』を指示し、数分の内にショップからエスケープを果たしていたのだ。

 そして、何故『マリオット』2人も一緒に連れて来たかというと…これもまた『制限』のせいだ。

(ー…クソ、まさか『デメリット』を実感する事になるとはな)

 本来ならば、『こうなった』時点で2人は置き去りにされるハズだった。何故なら、『駒』としてカウント出来ないし…何より地上部隊の戦力分散に役立つからだ。

 けれど、そう出来ない事情があった。


 ー何故なら、催眠を解除してしまうと『キャット』への『報酬』を出さなければならないからだ。これは、必ず解除後『30分以内』にやらなければならず…もしそれが出来ないと『キャット』達は、凶暴化するのだ。

 当然、緊急事態の中そんな事をやってる暇はないので…仕方なく、『マリオット』状態のまま連れて来たのだ。


(ー性能や従順さが『進化』したのは良い。だが、何故こんな『デメリット』が……っ!)

 苛立つ男だが、遠くから聞こえて来たサイレンの音にハッとする。…しかし、男や部下達が慌てる事はなかった。

(…まあ、『感知される』事はないがな)

 そして、『通り過ぎた事』を確認したおかげか男は冷静になった。


 ー現在、男達は地上ではなく地下のルートで移動しているのだ。…それも、例によって『副産物』由来のノイキャンマシンによって掘られ、その上『非常識』なシステムが搭載された逃走ルートなのだ。

 まず、『入り口』は1度使用すると即座に『自爆』する。これにより、フタはただの『デカイゴミ』と化しその上降りるルートも消滅する。

 更に、ルート自体に特殊な『コーティング』が施されておりあらゆる感知システムをもってしても、利用者は勿論ルートすら発見する事は困難を極めるのだ。

 極め付けは、ルート内に等間隔で設置されている『スピーカー付きモニター』だ。…これにより、利用者サイドは地上の様子を手に取るように把握し冷静なエスケープを可能にするのだ。


(ー…新たな『規則』のおかげて、命拾い出来たな。流石は、プレジデントだ)

 男は内心でトップへの敬意を深めると共に、再び行動を開始した。

 そして、特に何事もなく『出口』の1つにたどり着いた男達はまず地上の様子を確認する。

(…まあ、当然『見失った』か。…かの忌まわしき『カノープス』とあの男も、流石に『これ』は感知出来なかったようだな)

 部下が操作する一際大きな監視モニターを見ながら、男は嘲笑を浮かべた。

『ー問題ありません』

『良し。ロック解除』

『了解』

 部下が報告して来たので、男はオーダーを出した。すると、モニターから電子音が鳴った。

 それから、男と部下達は悠々とエレベーターで『地上付近』に移動する。

 ーそこは、明らかな廃墟だった。

(…ククク、まさか星系軍もあの男もこんな所に『こんなモノ』があるとはー)

『ーおわっ、ホントに出てきた…。…まさか、廃棄されたエネルギープラントの下層フロアを-違法利用-するなんて……』

『つくづく、-厄介な連中-ですね』

 勝利を確信した男の耳に、突如として知らない声が聞こえて来た。

『……は?』

『…っ!社長、上ですっ!』

 当然、男は唖然とし…直後、部下が斜め上を指差した。

 ーそこには、大きな2体の『バードドローン』が空中にてホバリングしており…軽量パワードスーツに身を包んだ2人の人物がライドしていた。


『………バカな。何故、此処にチェイサーが…』

『ーっと。

 まあ、当然の疑問だよね。…いつもなら、あんた達ごときに教えたくはないんだけど今回は特別に教えて上げるよ』

『まあ、その前にー』

 男は、目の前の事実を受け入れられなかった。

 すると、2人の人物は『バードドローン』から飛び降りて床に着地し…次の瞬間、男達の視界から消えたのだったー。



 ○



 ーSide『カノープスクルー』



 ー彼女…エネルギー調達役のアンゼリカがこのプラントに『違和感』を抱いたのは、『カノープス』がラバキアに到着して直ぐの事だった。

 彼女は、いつものように『役割』…『サポーターの好物』の原料となるオンリーワンマテリアルを引き取るべくノースエリアにあるマテリアル採掘場に向かっていた。

 その道中、彼女と『コンテナレッグ』は廃棄されたエネルギープラントを見つけたのだが…彼女も『ウマ』も妙な違和感を抱いたのだ。

 なので、彼女はまずノースエリアを担当する地上部隊に確認を取った。…すると、『そこ』は所有者が失踪したらしく解体に着手出来ないようなのだ。

 …その時点で、彼女の頭には『嫌な予感』が浮かんでいたので通信中に『キャプテン』へ報告し、指示を仰いだ。

 当然、『キャプテン』は直ぐに申請と許可を取ってくれたようで通信中急に相手が代わり、『調査依頼』をして来たのだ。

 よって、彼女は至急『そこ』に向かい…地下フロアにて強烈な『反応』を感じた。けれど、肝心の『モノ』までは彼女と『イヌ』をもってしても発見する事は出来なかった。

 だから、彼女は『要注意』とだけ報告する事にしたのだったー。


 ーそんな彼女と、『マネージャー』であるカノンは地下フロアの床に着地した瞬間…凄まじいスピードでサーシェス幹部一味に接近する。

『ーフギャッ!?』

『ぐあっ!?』

 そして、ある程度『ザコ』を力任せにぶっ飛ばし例の2人を保護。その後、床に降下して来た『トリ』に2人をホールドし再び空中で待機させた。

 この間、僅か1分である。

『ーっと』

『ふう…』

 そして、彼女達は連中から距離を取った。

『ー…ば、バカな。何者だ、キサマら…』

 男は、目の前に居る『異質』な2人に唖然としていた。…何故なら、2人が『あり得ないほど速く』動いていたからだ。それに加えて、『タダのパンチ』のみで相当な重量のパワードスーツを装備した部下達を軽々とぶっ飛ばしたのも、信じられなかった。

 ーそれ可能にしているのは、強化された『ウサギ』のボディとフット部分にフュージョンされた『トラ』の脚。なにより、彼女達自身の『ポテンシャル』だという事を男は知る由もなかった。


『ーそうですね。所属くらいは、名乗っておきますか。

 私は、カノープスライトクルーです』

『右に同じく』

『……』

『う、ウソだ…』

『ヤツは、-ここの事-すらも把握していたというのか…』

 カノンが告げた瞬間、男と部下達は驚愕と絶望を味わった。…つまり、最初から『敗北』していたのだ。

『ーああ、そうだ。…1つ-忠告-しないといけないんでした』

『……?』 

『しまったっ!お前達、直ぐー』

『ーFGYAAA!』

 そんな彼らに、更なる『不幸』が訪れる。…先ほどまで沈黙していた2体の『キャット』が当然獰猛な『鳴き声』を出したのだ。

『な、なんだっ!?』

『社…ぐあああっ!?』

 慌てふためく男の部下は、強烈な一撃を喰らってしまい先ほど『クルー』がぶっ飛ばしたお仲間よりも遠くに吹き飛んだ。

『わあああっ!?』

『クソがああっ!やってくれたなあーーっ!』

 それを見た男と部下達は、激しい混乱に襲われその場から好き勝手にエスケープを始める。勿論、男も『クルー』に罵声を浴びせながら逃げていた。

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