『ーふぅ…、危ない危ない。あと数秒遅かったら、今頃地上は大惨事だったなぁ』
俺は、独り言…ではなく目の前に居るサーシェス幹部に向かってオーバーな『安心』のリアクションをとりながらコメントした。
『…………』
当然、男からの反応はない。…ヘルメットの中
の様子は分からないが、間違いなく驚愕の表情をしている事だろう。
『…いや~、まさか此処だけでなく-廃棄衛星-すらも違法改造していたとはな~。
通りで、星系軍が感知出来ないワケだ』
俺は、尚も続ける。…するとー。
『ー……あり、得ない。…此処だけでなく、衛星すらも見抜くなど……』
ようやく男は反応した。…まあ、予想通り『現実』を受け入れなれないでいるが。
『見抜けるんだな~、それが。
ーお前等は、-導き船-をナメ過ぎている』
そんな男に、俺はバカにしたようなリアクションをして…直後怒りを声に乗せた。
ーこの間…『サードトラブル』の際に発生した謎の大規模『フラッシュ』だが、その正体はルリームイールの『廃棄衛星群』をサーシェスが違法改造したモノだった。
しかも、このエネルギープラント同様星系軍に感知されないテクノロジーが搭載されており、なかなか発見できないでいた。
…そんな時、『ドラゴン』と『トラ』の『エージェント』達が自発的に『サポート』を申し出てきたのだ。
なので、『2人』に賭けてみる事にした。
まず、『ドラゴン』はセカンドトラブルの際に受けた『フラッシュ』の発生ポイントをシャロンと共に割り出し、『トラ』はそのポイントにある約30基ある廃棄衛星の全てのエネルギー残量を確認。
結果、10基の廃棄衛星に『あり得ない量』のエネルギーが残っている事が判明したので直ぐに調査を実行。数時間後には『違法改造』が証明された。
なので、後は『破壊』するだけだが…厄介な事にその衛星群には、『危険』を感知すると残量エネルギーを全て使って地上に『フラッシュ』を照射するプログラムがセットされていたのだ。…あの時は流石に、直ぐに解決策が出てこなかったな。
でも、衛星の外で待機していたカノープス…いや、中に居た『トラ』が何かを伝えようとしていたのだ。
『ーエネルギーをチャージし続け、オーバーフローを起こし内部から破壊する』
それが、『トラ』…すなわち『エージェント・タイガー』の出したプランだったのだ。
だから俺は直ぐに許可を出し、『トラ』も即座に実行し…今ようやく、『ミッション』は成功したのだった。
『ー…バカな、バカな、バカな、バカな……。
あの船は、どれだけの-進化-を遂げたのだ…』
『…さあ、-全てのカード-を失ったお前に最早抗う手段はない。
これで、チェックメイトだ』
絶望する男に、俺は堂々と『コール』する。けれど、俺はソイツとの距離を詰めず…ソイツと俺が居る『特殊なルート』の壁を指差す。
『ーGAOO!』
『HIHINN!』
直後、その部分に亀裂が入り『ミドルサイズのドラゴン』が突入して来た。更にその後ろから、『リトルレッグ』も突入して来た。
ーしかも、『ウマ』にはマスクで顔を隠しナイヤチ風の『ドウギ』を身に付けた人物がライドしていた。
『ーようこそ、マダム。大丈夫でしたか?』
『ええ。道中は、とても快適でした。……ー』
俺は、仰々しいお辞儀をしつつ問いかける。すると、『マダム』は機嫌良く返して来た。…そして、『ウマ』を降りたマダムは男を見る。
『ーっ!?…な、何者だ、お前』
直後、男はマダムの放つプレッシャーに気圧され後退りした。…まあ、『黒幕』を前にして怒りを顕にしない人間なんていないよな。
『…おや、分かりませんか?
ー私は、貴様達の-非人道的行為-によって迷惑を被った方の友人ですよ』
マダムは淡々と…けれど少しずつ、怒りのボルテージを上げながら男の問いに答えた。
『…なん、だと……』
『今回、こちらのマダムがどうしても自身の手でお前を-叩きのめしたい-と頼んで来たので急遽セッティングしたんだ。
いや、大変だったな』
『……は?…っ、まさか、ここまでが全部お前のプランの内だったというのか…?』
『なんだ、今気付いたのか?
ーでなければ、最初のエンカウントの時点で全員取っ捕まえてるさ』
『………』
俺の小馬鹿にしたような返しに、男は心底唖然としていた。そんな男に、俺は『最後の言葉』を放つ。
『…さあ、ネタバラシはおしまいだ』
『覚悟なさい』
それと同時に、マダム…シュザンヌ伯母様は前に出る。
ーその両手には、いつの間にかグリップの付いたバトン状の武器…『旋棍(トンファー)』を装備していた。
実は、先程までライドしていた『ウマ』にマダム用の武器も乗っけていたのだ。
『…っ!ナイヤチアーツの使い手かっ!?』
『しかも、マスタークラスの実力者さ』
『……ー』
それを聞いた男は、衝撃のせいか動けなく…なんて事はなく恐らく『エスケープ』の準備を始めているのだろう。
『ー本当お前らの-データベース-には、-諦め-ってワードは無いんだな』
『ーっ!?』
俺がそう言った直後、手元に『趣味の悪い小型マシン』が出現する。…当然、男のエスケープは失敗に終わった。
『ーGAOO!』
『はい、良く出来ました。100点満点です』
そして、『それ』をやった『ドラゴン』は俺の足にすり寄って来る。なので、その頭を撫でて誉めてやる。
『GAOO!』
『…フフ、お利口な上可愛いですね。
ーそれに引き換え、貴様は阿呆で醜悪だ』
マダムは微笑んだ直後…聞いたことのない低い声と口調で男を威圧する。そしてー。
『ー…っ』
マダムは攻撃の体勢になり、直後素早く駆け出し男との距離を詰める。…早い。『ウサギ』を用いてなお捉えづらいとは。
相手からしたら、まさに『消えたかと思った次の瞬間には目の前に現れた』…って感じだな。
『はぁっ!』
『グホッ!?』
そんな事を考えていると、マダムは男に初撃を与える。…そして、男は衝撃を受け止められず後方に吹き飛んだ。
…これの何が凄いって、マダムはパワードスーツなしでガチガチに防御した男をぶっ飛ばしているのだ。
ーつまり、マダムも『初代』や俺と同じように『リミッター』を自在に外せる人って事だ。…ただ、マダムは『出身』故のアビリティかもしれないな。
『ーせいっ!』
考察する中、マダムは自らがぶっ飛ばした男に余裕で追い付き…トドメの一撃を打ち込んだ。
『…っ……』
男は、悲鳴を出さずに通路の床に叩きつけられそのまま動かなくなった。…うわ、スッゲー。
俺は慎重かつ素早くマダムの元に近付き、その足元に倒れた男を見る。…その分厚いアーマーの腹部は小さな穴が出来ていた。
…いや、確かに『トンファー』は『硬いやつ』で作っているが穴を開けたのは間違いなく、マダムの『実力』だ。
『お見事です、マダム。……?』
『………』
俺は立ち上がり、マダムに声を掛ける。…けれと、先程までプレッシャーを放っていたマダムは無言だった。
『……あの、どうされました?』
『…オ……っ、プラトーさん。急な参加を許可して頂いた上、もう1つ-頼み事-をする身勝手さをどうかお許しください』
もう一度声を掛けると、マダムはそんな事を言って来た。…あー、直前の雰囲気と言動とアクションを思い返して恥ずかしくなったのか。
まあ、正直今まで伯母様に抱いていた『イメージ』は崩れたな。もし、俺が今見た光景を彼女の身近な人物…『家族』に話したりしたら、俺のようにビックリするかちょっと怖がられるかの反応をされるだろう。
だから、伯母様は『身勝手なお願い』をしなければならないのだ。…今後も、『家族』と良好な関係を保つ為にー。
『(ー…やっぱ、俺の『家族』は『素敵な人』ばかりだな。)
ーご安心を、マダム。元より、-サポーターの素性-に関する事は公開や報告しなくても良い事になっているんです。
肝心なのは、-トラブルが無事に解決したかどうか-…なんですから』
『…っ!…そうなんですか……ー』
それを聞いたマダムは、少しだけ安心したようだ。…でも、まだ俺の事をじっと見てくる。
『勿論、私も今見た事は-星になるまで-他言しませんよ。
ーだって、私は帝国の-特務捜査官-ですから』
『……。…そうでしたね。
…すみません、疑ってしまって』
『お気になさらず。
ーこちら、エージェント・プラトー。ミッションコンプリートを宣言する』
すると、ようやくマダムは安心してくれた。そして、俺はオープンチャンネルで終了のコールをするのだったー。