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ディナー前

「ーふう」

 数10分後。地下パーキングに停めてある『ウマ』に戻って来た女史と俺は直ぐに中に入る。そして俺は、ため息を吐きながら『マスク』を外した。

「お疲れ様でした。

 ーさて、少し遅いですがディナーに行くとしましょう」

 女史は、労いの言葉を掛けてくれその後に次の予定を告げる。…実は、先にこちらの要件を片付けておきたいと女史が言ったので、ディナーはまだなのだ。

「ええ。…場所はどちらですか?」

「フードブロック(飲食店区画)、R-25です」

「分かりました。

 ー『エージェント・ホース』」

『ー了解シマシタ。ソレデハ、シートベルトヲ展開シマス。…展開完了。

 発車致シマス』

 それを聞いた俺は、『エージェント』に呼び掛ける。すると、エアウィンドウが展開し『エージェント・ホース』が映し出された。

 そして、女史と俺にシートベルトが装着された後『ウマ』は発車した。


「…報告は聞いていましたが、随分と『可愛いらしく賢いサポーター』ですね」

『恐縮デス、マダム・クルーガー』

 すると女史は、『初対面』となる『エージェント』についての感想を告げる。直後、またエアウィンドウが展開し『エージェント・ホース』が映し出される。

「…本当に、凄いですわ。…『副産物』というのは、トコトン常識外れですね」

「全くです。…まあ、パイクントにあった『手掛かり』も相当な規格外でしたからね。

 まあ、そのお陰でこうして『頼りになるサポーター』が増えたのですから『リスク』以上のリターンですよ」

『…光栄デス、マスター』

 女史の言葉に、俺も同意する。その際、自然と『エージェント』を褒める流れになる。…それを聞いた『エージェント』は、本当に嬉しそうにしていた。

「……」

 すると女史は、彼女を慈しむような表情でじっと見た。…あ、そういえばー。

「ー…っ。…ダメですね。『彼女』を見ていると『あのコ』を思い出してしまいます」

 俺の視線に気付いた女史はハッとし、心中の奥に閉じ込めていた本音を口に出した。


 ー『あのコ』とは、女史の前の船…スピカ号のメインAIである『スピカ・ハート』の事だ。

 実は、そのAIも管理人格があるの高性能タイプなのだが…『エージェント・ホース』と同じように実に可愛いらしい『モデル』だったのだ。

 まあ、当然女史やクルー達は『妹』のように可愛いがっていたが…『あの事件』で、本体であるコアユニットにリペア不可能の大きなダメージを受けてしまったのだ。

 しかも、高性能タイプ故に『シスタータイプ』も存在せずまたバックアップも出来ない状態だったので、女史とクルー達はその『妹』を船と共に星にする事を決断したのだった。


「ー(…『あの後』は、しばらく女史やクルーの人達も随分と沈んでいたな。まあ、1ウィーク後何とか切り替えていたが。

 やっぱり、『家族』が星になるのは誰だってツラいよな……)…ところで、行き先はどんなショップなのですか?」

 少し中の空気が重くなってきたので、話題を変えるべく行き先の事を聞いてみる。

「…っ。…此処に来た時、毎回利用しているところです。

 かなり歴史が長くメニューも豊富で、またとてもリーズナブルなんですよ」

 すると、女史はこちらの気遣いを察知し直ぐに表情を穏やかなモノに戻した。そして、ショップの事を説明する。

「へぇ。…あ、でもそんなところだと混雑しているんじゃないですか?」

「大丈夫ですよ。

 ーいわば、『知る人ぞ知る』ところですから」

 ほんの少し不安になるが、女史はそんな事を口にする。…つまり、グルメサイトとかトラベルサイトには掲載されてないタイプか。

「そこは、スタッフの数が少ないですからね。あんまり人気になると手が回らなくなり、きちんと『サービス』出来なくなるとかでそういうサイトにはアップしていないそうなんですよ」

「…なるほど。…なかなかの『こだわり』があるショップですね」

「ええ。そのおかげか、私のようなファンもたくさんいますから問題なく経営出来ているようです」

「…いやはや、本当に女史は様々な『素敵』なショップを知っていますね」

「…フフ。やはり、地上の美味しい『フード』は長いアドベンチャーの疲れを癒す楽しみの1つですから」

 そのリサーチ能力に改めて驚いていると、女史は大切な言葉を口にした。

「ですねー」


 ーそんな素敵な時間を過ごしている内に、『ウマ』は目的地に到着した。

「ーいらっしゃいま…っ!?マ、マダム・クルーガーとオリバー選手っ!?」

『ーっ!?』

 そして、歴史を感じさせる小規模のショップに入るとコックスタッフが挨拶してくる…が、直後彼は驚愕した。当然、他の客もこちらを見て来る。……おや?

「ー……」

 しょうがないと思っていると、一際ビックリした様子の『知り合い』の女性…ウェスパルドさんと目が合う。

「ーああっ!マダム、すみませんっ!コイツ、ついこの間入ったばかりなので…」

 すると、カウンターの奥から年配だが快活なご婦人が出て来た。…そのご婦人もコックスタイルだったので、多分コックリーダーだろう。

「…へ?…あの、リーダー。も、もしかしてこの方、リピーターなんですか?」

「ああ。

 ーウチの『スタートシーズン』からの、ベビーリピーター様さ。…ほら、アンタは仕事に戻りな」

「は、はいっ!」

 リーダーのオーダーに、彼は慌ててカウンターに入って行った。…すると他の客もこちらから視線を外し、食事を再開した。


「…申し訳ありません。『また』、お騒がせしてしまいまして」

「…いえいえ。元はといえば、私がちゃんと教育してなかったのが悪いんですから。

 ー…っと。では、フードチケットをご購入して下さい」

 それを見た女史は、少し申し訳なさにする。…多分、利用する度にちょっとした騒ぎになっていたのだろう。

 すると、リーダーのご婦人も申し訳なさそうに謝って来た。…やはり、ショップとしてはお客様に気持ち良く利用して貰いたのだろう。

 そして、リーダーは直ぐに切り替えてチケットマシンを丁寧な所作で指し示した。

「ええ。…あ、オリバー」

「…はい?」

 頷いた女史は、いつも通りの柔らかな微笑みを浮かべた顔でこちらを見て来る。…そしてー。

「ー『此処』は、私がまとめて払うので食べたいモノを選んで下さい」

「…っ(…マジか。…まあ、そう仰るならー。)

 ー女史の『オススメ』を、お願いします」

 女史は自然な感じで『オゴる』と言って来た。当然俺は驚くが、厚意に甘える事にする。そして、あまり時間を掛けないように返答した。


「……」

「分かりました。それではー」

 すると、リーダーは少し驚いた顔をする。…そんなにおかしい事を言ったかな?ぶっちゃけその方が『より旨いモノ』を食べられると思うのだが。

 一方女史は、特にリアクションせずにショップ内を見渡す。

 ーどうやら、カウンターシート以外は空いていないようだ。

「…『あそこ』で待っていて下さい」

「(…っ!)はい」

 俺は指し示されたシートを見てビックリする。何故ならそこの直ぐ近くには…『彼女』が座っていたのだ。…けれど、拒否するワケにもいかず俺は頷いた。

「ー…っ!」

「…隣、失礼しますね」

 そして、少しゆっくりとそこに近く。…すると彼女は俺に気付き、またビックリした。なので断りを入れてから、隣のシートに座った。

「………」

「(…まあ、ほんの数時間前にバトルした相手が隣に座ったら誰だって気まずいよな~。…どうしよう。…っ!)」

 当然、彼女と俺の間に微妙な空気が流れる。…それをなんとか解消すべく俺はとある事を思い付いた。


「ー…そうだ。実は、『とある人』から貴女へのメッセージを預かっていたんです」

「…え?……っ!」

 すると、彼女は必然的にこちらを向く。…そして直ぐに、『察し』て驚く。

「…『ー情報提供、感謝する。貴女のおかげで無事に解決する事が出来た。』…以上です」

 そして俺は端末を起動し、さもメッセージを読んでいるように見せかけながら『お礼』を伝えた。

「……。…ねぇ、もし可能ならばー」

 彼女は、とても驚いていた。まさか、『感謝』を言われるとは思っていなかったのだろう。…すると、彼女は何かを言おうとするー。

「ーお待たせしました」

「…っ!……」

 けれどその時、ちょうど女史がこちらにやって来た。…そのせいか、彼女は『本題』を言い出せないでいた。

「……?どうかしましたか?」

「…いや、そのー」

 当然、女史は俺の隣に座りながら彼女へ質問する。…まあ、やはり『ビッグ』な人なので彼女は余計言い出しにくくなった。

「ー…もしかして、『ボス』へのメッセージを頼みたいのですか?」

「…っ!」

「……ああ、『そういう事』ですか」

 なので、彼女の『本題』を予想しサポートしてみた。すると、ビンゴだったようで彼女はビックリした。…そして、女史はそれだけで大体の事を察したようだ。

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