「敬語はな〜、なんかちょっと距離を感じるんだよ。せっかくこうして分かり合えたんだから。もう一歩踏み込んで敬語とさん付けをやめて親密度を上げるのをお勧めする」
(確かに一理ある。累さんに対して敬語のままずっと付き合うのは何だかよそよそしい感じがしていたから、これを機会に変えるのもいいかも)
「田村さんありがとうございます。私、さん付けと敬語やめてみます」
「本当?じゃあ名前呼んで欲しいな」
累が優しくいうと、私は少し緊張しながら呼んだ。
「う…うん…累…」
私が累の名前を呼ぶと累は嬉しそうに微笑む。
「嬉しいな。結菜が俺のこと呼んでくれる…それだけですごく活力がわくよ」
「そんな大袈裟な。普通に名前を呼んだだけだよ?」
私が砕けた喋り方をするとまた累が嬉しそうにした。
「いいね。なんだか結菜がもっと身近に感じられて嬉しい」
「だろ?やっぱり仲良しカップルはこうでなくちゃ」
「ふーん。英二すごい役立ってるじゃん」
花は素直に田村を褒めるとまた田村ははにかむ。
「花ちゃんから褒められると嬉しすぎて心臓が痛い」
田村は胸をギュッと握りしめて感動しているようだった。
「うざ。これくらいで喜びすぎ」
「だってさあ。今までと比べたら一気に関係が進んでるんだよ?誰だってこうなるよ」
2人を微笑ましく眺める。もう4人とも緊張が解けて穏やかな空気になっていた。
「ねえ。せっかくだからピザでもとって4人でご飯にしない?」
「サンセーい!本当は結菜お姉ちゃんの手料理がいいけどそれはまた今度に取っとくー」
花が賛成すると田村がスマホで宅配サービスの画面を見て言った。
「あ、ちょうど割引クーポンがあるし、それもいいかもな」
「じゃあどのピザにしようか?」
わいわいと楽しくピザを選び、注文している間に軽くつまめるポテトチップスを皿に開けて出した。
「結菜お姉ちゃん家っていつもこういうの常備しているの?」
「うん。良平やななみや愛花がフラッと遊びに来ることがあるから」
「結菜お姉ちゃんのそういう細やかな気配り好き!私もフラッと遊びにきてもいい?」
「もちろん!あ、でも悟飯が食べたい時は事前に連絡してね」
「はーい」
私と花が楽しそうに話していると田村が割って入ってくる。
「なんか本当の姉妹みたいで微笑ましいな。まあ。将来そうなるんだろうけどな」
「もう、また蒸し返さないで下さい!」
「はは。あ!それと俺にも敬語やめて、なんか一人だけ除け者にされてるみたいで寂しいから」
「あ!確かに!ごめんなさい。じゃあ田村さんも普通に喋るね」
「さんもいらないし、英二でいいよ」
「あはは…流石に名前よびすてはハードルが高いよ」
「英二、結菜を困らせたら許さないぞ」
累が田村を睨むので私は慌ててフォローする。
「全然困ってないよ!でも累の友達と仲良くなれて嬉しい」
「それならいいけど…無理しないでね」
累は納得してくれたらしく大人しく引き下がった。
その時インターフォンが鳴った。
「あれ、もうピザ届いたのかな?」
私がインターフォンに出るとそこには惣菜を持った良平が立っていた。
「良平、今開けるから待ってて」
すると累がぴくりと反応する。
「結菜、良平くんにも入ってもらったら?」
「いいの?ありがとう!」
私はウキウキしながらドアを開ける。そこには佐和子さん特製のお惣菜を持った良平が立っていた。
「良平、今。色々あって累と花ちゃんと累の友達が来てて、これからピザ取るから一緒に食べない?」
「はあ!どういう状況だよそれ…俺がいても邪魔にならないか?」
「うん!累が一緒にどうかって」
「ああ…そういうことか。わかった。じゃあお邪魔するよ」
良平はお惣菜を持ったまま部屋に入ってきた。
「いらっしゃい。片思いのお兄さん」
花が少し棘のある言い方をして迎え入れる。どうも花は良平を少し苦手としているようなのだ。
「ああ。ストーカー娘か。久しぶり」
「その言い方ムカつくなあ。でも結菜お姉ちゃんの大切な友達だから許す」
花はそういうとクンクンと鼻を動かした。
「なんかいい匂いがする」
「良平がお母さんの佐和子さんがお裾分けを持ってきてくれたんだよ。すっごく美味しいの。今小皿とお箸持ってくるね」
「じゃあお邪魔します」
良平はそういうと入り口付近に腰掛けた。