「花は累に執着しているけど大学で交際申し込まれることないのか?」
良平が聞くと花はふふんといった様子で応える。
「まあ2分の1の男子からは告られたけど全部振ったよ。だって累くらいカッコいい男ってなかなかいないもん」
「じゃあ俺やっぱりいいんじゃないか?累くらいかっこいいよ?強いし」
英二が自分推しをすると花は嫌そうな顔をして手で制する。
「いやまじで無理だから。デリカシーについてもっと学んできたら考えなくもないけど」
そういうと累が驚いたように言った。
「花…熱でもあるのか?英二のこと毛嫌いしていたのにすごい変化だな」
「累まで!だって今回は英二の働きのおかげで結菜お姉ちゃんが幸せになれたから、ちょっと見直しただけ。だって、私は何もできなかったから…」
「そっか…英二のおかげだもんな。俺も英二に頭が上がらないよ」
累はそう言うと英二に手を差し伸べた。グータッチしながら笑う2人からは強い絆を感じる。
「累。お前英二さんのこと大切にしろよ。なかなかいないぞ、ここまでおせっかい焼いてくれる人」
良平が言うと累は頷く。
「そうだな。とりあえず、今度ご飯奢らせてもらう。それくらいしかできないから」
「気にしなくていいのに…まあ、累と飯行けるのは嬉しいからOKしとくわ」
英二は気さくに笑いながらつまんだ煮物を食べた。
「うっま!良平くんのお母さんいい腕してる!これはファンになっちゃうなあ」
「美味しいよね。私もファンなんだ」
私も筑前煮もつまんでもぐもぐ食べた。
「確かに美味しいね。お母さんの味ってこういう感じなんだ…良平くんが羨ましいよ」
少し寂しそうに累が言うと良平は累の頭に手を置いて髪の毛をくしゃくしゃにした。
「いつでも食いにこいよ。母さんも喜ぶからさ」
「はは。君は本当にいいやつだな…」
累は力無く笑う。
「累…ねえ、これから手料理が食べたくなったらいつでも言って。私頑張って作るから。もちろん佐和子さんには及ばないけど…少しは…累の心の支えになりたいの」
「結菜…ありがとう。こうして仲直りして、結菜の手料理を食べられる約束もできて、今すごく幸せだよ…やっぱり俺には結菜が必要なんだって実感してる」
「累…」
累は心から嬉しそうに笑った。その笑顔を見ていると心がギュッと締め付けられるようだった。
(累はお母さんの愛情に飢えているから、私が少しでも補えたらいいんだけど)
どんなに頑張っても母にはなれないし、なるつもりもないけど、あいた心の穴を少しでも塞いであげたかった。
「結菜、お袋に料理習いにくるか?」
良平が私たちの会話を聞いてそう提案してくれた。
「え…流石にそれは都合良すぎて申し訳ないから…」
片想いしている人が別の人のために作る料理を上達させるために、料理を習いに行くなんてずうずうしすぎる。さすがの私もそれはできなかった。
「そっか…。その間に少しでも俺に振り向いてもらえたらって思ったのに。残念」
悲しげに微笑む良平に良心が痛む。どうして私はこの一途な幼な時を愛することができなかったのだろうと思うが、心が求めるのは累ただ一人なので良平に靡くことなどできなかった。
「良平、私、この先何があっても累だけしか愛せないと思うの。ごめんね。だから良平は私のことなんて忘れて…」
すると良平は首を振る。
「この先どうなるかわからないけど、今の所俺も結菜以外の女の子を好きになる予定はないよ。ごめんな。お前の負担になってる自覚はあるけど、この気持ちは止められないんだ」
「良平…」
私の優しい幼馴染な力無く微笑んだ。