「いいなあ。良平は一途で、私は累を完全に諦めたから対象がいなくて寂しい。いっそ振られたもの同士私たち付き合ってみない?」
花が良平に冗談で言うと良平は花のおでこをデコピンした。
「お前まだ学生だろう。俺にとってお前はまだガキだから相手にならないよ。もっと大人な女になってから出直してこい」
良平はそう言うと困った顔で笑った。
「でもまあ。お前が累や結菜に異常な執着してないことがわかってホッとしたよ。ストーカーはもう懲り懲りだ」
「それについては反省してる…」
良平がやれやれと言った様子で言うと累も苦笑いした。
「それにしてもあの淡白な累が一人の女の子をこんなに好きになるなんて、人生何が起こるかわからないモンだな」
英二が言うと累も頷く。
「それについては俺自身も驚いてる。まさかこんなに心動かされる人に出会えるなんて思ってもみなかったから」
「学生時代もそうだったもんな。モテるのに女の子相手にしないから男の方が好きなんじゃないかって噂が立つくらいだったから」
確かに累さんのルックスで彼女がいなかったら勘繰る人がいてもおかしくはない。だけど累はさらっとそれを流す。
「そうだね、だから高校からは髪の毛をもっさりさせて目を隠してメガネして顔を隠して生活するようになってから。周りから色々言われなくなってスッキリしたんだ」
「そうそう。あの変化は驚きだったよな。でも鋭いやつもいて、それでも突してくる女子と付き合って結局淡白すぎるからと一方的に振られてを繰り返して、本当に累はダメなやつだった」
デリカシーのない英二に言われるくらいだから当時の累は酷かったのだろう。私としては過去の彼女の話は聞きたくなかったので内心モヤモヤしながら話を聞いていた。
「まあ、そんなこんなで結菜と出会えたから、俺の人生も捨てたもんじゃないって思ってるよ」
「本当に、累は結菜お姉ちゃんと出会わなかったら一生独り身だっただろうからね。累は結菜お姉ちゃんのこと大切にしないとダメだよ」
花が累に釘を刺すと、累は苦笑いをした。
今の累の表情は明るくてくらい過去とは決別できた様子で私は心から安心した。
(これでもう累がおかしい方向にむくことはないだろう。もし向きかけても私が正してあげればいい)
累が寂しければ一緒に過ごせばいいし、一緒にご飯を食べて少しでも暖かな時間を共有できるようにしたかった。
「累、これからたくさん2人の思い出を作っていこうね。そうしたらもう寂しくないでしょ?」
「うん…そうだね。結菜ともっと一緒にいたい。いろんなところに行って、いろんなものを見て。感動や笑いを共有したい」
「私も同じ気持ちだよ。累と色々なことを共有したい…いっぱい思い出を作ろう」
累と見つめあってしばし2人の世界に浸っているとピンポンとインターフォンがなった。
「あ!ピザが届いたのかも」
慌ててインターフォンに出るとピザの配達員の人が立っていた。
「すぐ開けます。お願いします」
私は慌てて玄関に出るとピザを受け取りリビングに戻ってきた。
「良平も一緒に食べるよね?多めに注文してたから遠慮なく食べて」
「いいのか?ありがとう」
良平はピザが好きなので嬉しそうに笑った。机はお惣菜でいっぱいだったので、来客用の予備の折りたたみの机を出してピザを並べ、麦茶を出してきてみんなで美味しくピザを食べる。人間関係が複雑な者たちの集まりだったが、それはとても楽しい時間だった。
「うまいなあ。本当はここにコーラがあれば最高なんだけど」
「コーラ3本ならあるよ?欲しい人いる?」
「え〜私も欲しい!」
花が元気よく答える。すると英二も手をあげる。
「俺ももらっていい?やっぱピザにはコーラだよな」
それを聞いた良平は英二に向かってニヤリと笑う。
「おっ!お仲間!俺もピザにはコーラが一番会うと思ってるんだよね」
「だよな。カロリーの暴力だけどこれが最高なんだよ」
2人意気投合しているところに台所から持ってきたコーラを手渡す。
「あ〜私結菜お姉ちゃんと同棲した〜い。居心地良すぎる」
花がそう言ってピザを齧ると良平も頷く。
「居心地がいいんだよね。妙に。俺も隣に住んで手間取りも一緒なのに、こうなる前は頻繁にビール飲みにきてたくらいだったからな」
その頃を懐かしむように良平は目を細める。私も良平とただの幼馴染だった頃を思い出すと思わず涙が溢れそうになって、それをグッと堪えた。