今、良平とは以前とは違った関係になってしまって、気軽に一緒に飲むことができなくなった。それはお互いの為だったが、私が生まれる前からずっと一緒だったお兄ちゃんと一緒にいられなくなった喪失感は大きい。
「結菜ごめんな。俺が告らなかったら一緒にいてやれたのに。俺はもうただの幼馴染でいられなかったんだ。お前が寂しい時、辛い時、一緒にいてやれないのがすごく辛いよ」
「良平…ありがとう…私にとって、良平は今でもずっとお兄ちゃんのままなの。それは変わらない。好きになれなくてごめんね…」
私は泣かないようにグッと目に力をこめて言った。ここで泣いたらせっかくの穏やかな雰囲気を壊してしまうのが怖かったし、良平に嫌な思いをさせるから。
「結菜お姉ちゃんは優しいね。良平、もう諦めてただのお兄ちゃんに戻りなよ。私も累のこと諦めて妹に戻るし、立場同じだからできるでしょ?」
花が言うと良平は花の頭をワシワシ撫でた。
「お前は大人だな。俺は全然諦めがつかないよ。これから時間をかけてこの思いを消化していくつもりさ。まあ。今は気になる女の子もいないし。のんびりやるよ」
「そんなこと言ってたらあっという間におじいちゃんになっちゃうよ?」
「それもいいかもしれないな。忘れられないんだ。生まれる前から恋をしていたように思う。お腹に手を当てて、蹴ってくれた瞬間から。ずっと、ああ。なんて愛おしいんだろうって、この子は俺が生涯守り抜いていくと誓ったんだ。今はもう他の男がその役についてしまったけれど、それでも愛してる」
良平の思いは暖かくて慈愛に満ちていた。
そんな彼の手を取れなかった自分を少し攻めたけど、累を好きになってしまった私にはどうすることもできない。ただ、今まで通りお兄ちゃんとして接するしか方法がなかった。
「良平くんいいね。俺好きだな。君みたいにまっすぐな男。今度一緒に飲みに行かないか?話聞くぜ」
英二がそう言うと良平力無く微笑んで頷いた。
「累も。結菜ちゃんのこと、こんなに思ってる男が身を引いたんだ。それくらいの覚悟を持って結菜ちゃんのことを愛しぬけよ?決して不幸にするな。不安にさせるな。お前のエゴで傷つけるな。わかったな?」
今までのおちゃらけた雰囲気とはガラリと変わって英二は累にそう言った。その表情は真剣で、真っ直ぐ累を見つめていた。
「英二…良平…わかった。もう結菜のことを悲しませることはしない。何があっても結菜のことを愛し続けるし、傷つけない。約束するよ」
そっと手を差し出して良平と手を繋ぐ。
「この手で君の大切な結菜を守ってみせる。心も身体も両方だ。何者にも傷つけさせない。俺も、愛してるんだ。結菜のこと。良平の気持ちを知って、今まで自分本位で結菜を傷つけてたってわかったから。だから、ごめん。俺に託してくれてありがとう」
私はいつの間にか涙を流していた。良平と累の気持ちを知って。私がどんなに愛されているのか眼前に突きつけられてしまったから。今までのお気楽な気持ちで受け取っていい気持ちではない。真剣に受け止めて、そして累のことを愛し抜かなければ2人に対して不義理になると思った。
「私も…累のこと真剣に愛する。もう迷わない。もし累が道を間違えたら私が叱って一緒に歩ける道を探す。もう逃げない。だから安心して良平。私、累のこときちんと愛するから」
「それが聞けて良かったよ。もう、俺につけ入る隙を見せないでくれ。期待してしまうから」
コーラをグイと飲んで良平は微笑んだ。私は良平のその優しさにまた救われる。いつでも私を守ってくれていた良平から私は離れようとしている。もうあの暖かな手を取ることもできない。それでも私は累の隣に立っていたかった。
「ありがとう。良平」
私はこれで最後になると思いながら良平にハグをしてすぐに身を離した。