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第62話 一緒に暮らそう

「お待たせ!迎えに来てくれてありがとう」


 累が運転する車の助手席に座りながらお礼を言うと、彼はニコッと微笑んでくれる。


「いつも一人で乗ってのが寂しいけど、隣に結菜がいてくれるだけで車の免許持っててよかったって思えるよ」


「ふふ。オーバーだなあ」


 累はウキウキとご機嫌で、車内には今注目を集めているアーティストの曲が流れていた。

(あ…私もこの人好きだな。音楽の趣味合うかも)

 意外なところで共通点を見つけて私はすごく嬉しくなった。


「累もこのアーティスト好きなの?」


「ああ!最初は配信で流れてきた曲を聞いてから気になって検索してみたら、好みのかんじで。結菜も好き?」


「うん!聞いていて明るくなるから好きなの。嬉しいな。累と同じ人が好きだなんて」


(音楽の好みが合うかどうかって結構重要だよね。家で音楽流す時、どのアーティストの曲を流すかで揉めないから)

 愛花から同棲話を焚き付けられていたので、自然と思考がその方向に向いてしまう。だけど言い出すのが難しくてモジモジしていると累が気がついて不思議そうに言った。


「なんだか落ち着かないけど、どうしたの?」


「あ…えっと。愛花と栄くん今度同棲を始めるんだって」


「早いね。よっぽど相性が良かったんだ」


「うん。もうラブラブなんだってそれでね、愛花から私たちは同棲しないのかって聞かれて…」


 ちょっと卑怯な話し方だった。本当は堂々と累と一緒にいたいから同棲したいって言うべきなのに、断られることが怖くて濁してしまった。

(ああ。もっと素直に可愛く同棲したいなって言えたら良かったのに)

 後悔してももう遅い。出てしまった言葉は取り消せないから。


「結菜は同棲したいって思ってるの?」


 累はしばらく考えたのち、静かな声で訪ねてきた。思いの外冷静な声だったので少し怯んでしまったが、思い切って言った。


「したい…です。こうしてたまにしか会えないの…寂しい。今一人暮らししていて、家に帰っても誰もいなくて、帰ってくる人もいないことが寂しいから…できれば同棲したいなって思ってる」


 すぐにOKをもらえるかと思っていたが、累はなかなか答えてくれなかった。

(どうしよう。やっぱり自分の時間を大切にしたいから同棲もできないって思ってるのかな?)

 ドキドキしながら答えを待っていると累は深くため息をついて言った。


「どうしよう…結菜が可愛すぎてどうにかなりそう…一緒に暮らすんだよね?もちろん俺の家で。夜も一緒に寝て、朝起きてご飯一緒に食べて。結菜が会社から帰ってきたらおかえりっていって…そんな幸せ。本当にあっていいの?」


静かだったのは同棲を持ち出してもらったことの幸せを噛み締めていたかららしい。そしてその口ぶりからすると答えはOKということだろう。


「えっと…答えは?」


「もちろん!俺も結菜と同棲したい!あっと、今は運転に集中しないと。浮かれて俺今信号見逃しかけた。ちょっと…冷静に慣れるまで待ってくれるかな?」


 思いの外喜んでもらえて嬉しくて私は頬が緩みっぱなしになる。しばらく車を走らせると。とあるレストランに着いた。レトロな外観と色褪せた食品サンプルが良い味を出している。


「わあ!ここが累のおすすめのお店なの?」


「うん。仕事の打ち合わせでたまたま入った店なんだけど、料理もスイーツも美味しくてね。あとコーヒーもいい」


「わあ!楽しみ。おすすめは?」


「デミグラスソースのハンバーグが絶品だよ。セットのサラダもドレッシングが自家製だから一緒に頼むといいよ」


 食品サンプルで見るハンバーグは美味しそうで食欲をそそられた。累はグラタンの気分らしく、店内に入ると予約してあった席に通されてすぐに注文を伝え、コーヒーだけ先に出してもらうようにお願いしてくれた。


「それで…同棲のことだけど…正直ずっと結菜と一緒にいられることが嬉しすぎて冷静に考えられないんだ。今の俺のマンションは使ってない部屋2室あるからそこを結菜の部屋にして…ただ夜は一緒に眠りたいから俺の寝室のベッドをキングサイズのものに買い替えて…」


 熱心に同棲について語ってくれる累が可愛くて私は微笑みながら頷く。


「うん。夜は一緒に寝たいね。キングサイズだったら2人寝ても余裕だしいいかも。私が今使ってるベッドは念のために私の部屋に置いておくね」


「え…念のためにって…もしかして喧嘩した時とかに別の部屋で寝るってこと?」


 ショックそうにしょんぼりする累にあわててフォローを入れる。


「あ!違うの。昔両親と住んでたときね。お父さんかお母さんがインフルエンザにかかってしまって。そういうときのために使ってない部屋にベッドを置いて隔離室にしていたの。そのおかげで家族はかからずにすんでいたから。累と共同生活を始める時も念のために用意しておいた方がいいかなって」


 私がそういうと累はなるほどと言った様子で頷いた。



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