「そんな現実的なことまで考えてくれて助かるよ。俺は正直今頭の中お花畑で冷静に思考できないから。現実的なところは結菜にお願いします」
子供みたいなことを言う累が可愛くて私は思わず笑みをこぼした。
(良かった。累も同棲に前向きになってくれて…でも嬉しいな。行ってきますもおかえりやただいまが言える生活。何年ぶりだろう)
結菜が大学に進学して生活が落ち着いた頃、両親は海外に行ってしまったのでその温かい声かけがまたできるようになることが嬉しくてたまらなかった。
「家事は当番制にする?お互い得意なことを分担とか。色々考えないこともあるよね。あと、私の家の家具。持っていくのは私の部屋にあるものだけにしようと思ってるんだけど、それで大丈夫かな?食器は足りてる?」
「ああ。それで構わないよ。ただ。食器は揃っている方が嬉しいから今使っているものを買い足して使おう。それにご両親にも挨拶しないとね。今海外だよね?結菜仕事が休めるなら一度会いに行ってご挨拶がしたいんだけど」
「ええ!ハワイだよ?電話とかでもいいんじゃないかな?」
「いいや。こういうことはきちんとやりたいんだ。ねえ。お願い」
私はそう言われて。直近である連休にちょっと大変だけど2泊か3泊でなら泊まりに行けそうかなと考えた。スマホで飛行機の空きを確認すると、なんとか席は確保できそうだった。
「うん。飛行機も空いてるし、お父さんとお母さんの都合を聞いたらいけるかも。連絡とってみるね」
「よろしくね。ああ。嬉しいなあ。結菜と同棲とか夢みたいだ」
「オーバーだよ。そんなに興奮してたら毎日身がもたないよ?」
累は確かにと言って笑った。その笑顔に影はなく、純粋に私との同棲を楽しみにしてくれているのがわかって嬉しかった。
(でもお父さんもお母さんも私の恋愛には口出ししてきたことないから、すんなり話が進みそう)
ウキウキしながらメールでお父さんとお母さんに連絡をとった。するとすぐに返信がくる。
『飛行機はこちらで手配してあげるから今月末にある連休でこちらにきてはどうだろうか?大丈夫そうなら返信をして』
「お父さんとお母さんから?」
「うん。今月末の連休はどうかって。飛行機はお父さんとお母さんが手配してくれるらしいしそこは甘えちゃおうよ」
「ううん。本当は俺が出したいけど、お父さんとお母さんの親切心を無碍にできないし。代わりにお土産は豪華にしよう」
累は早速お土産を検索し始めた。
(急に決まったことなのにこんなに熱心にしてくれて嬉しいな!今月末なんてあっという間だから楽しみ)
『飛行機ありがとう!お土産いっぱい持っていくから楽しみにしててね』
『それなら日本食系が嬉しいわ。あと和菓子!』
『了解です。お母さんが好きだった和菓子と日本食持っていくね』
私はメールでお母さんとお父さんとやりとりしながら真剣に何を持っていくか悩んでいる累を見て、愛しさが募った。
「お待たせしました。グラタンとハンバーグです。お暑いので気をつけてくださいね」
タイミングよく料理が運ばれてきたので、お互い一度スマホを置いて運ばれてきた料理を頬張る。ハンバーグは肉汁がたっぷり詰まっていてとても美味しい。
サラダも累がおすすめしてくれた通り、自家製ドレッシングが美味しくてパクパクと食べてしまった。
「ふふ。二人とも料理に夢中で全然話さなくなっちゃったね」
心地いい沈黙を思わずやぶってしまう。すると累もふっと笑って言った。
「お腹空いてたから夢中になってたね。はあ。ここのグラタンのソースが絶品なんだ」
「わあ。そんなに美味しいの?」
興味を示すと累はグラタンを一口大にすくうとフーフーと息を吹きかけたあと、私の方にスプーンを差し出してきた。
「味見してみて。美味しいから」
わたしはそれがありがたくて口を大きくけて一口でパクりとグラタンを食べる。すると濃厚なホワイトソースが絶品で累が無言で食べていたのがわかった。
「ん〜!すっごく美味しい!ハンバーグも肉汁とデミグラスソースがマッチしていて美味しいけど。グラタンもソースが濃厚で美味しいね!」
素直な感想を述べると累は嬉しそうに微笑んだ。
(美味しいと思ったものが一緒だと尚更美味しく感じる。ふふ。なんだか嬉しいな)
音楽と同じで味覚が似ているのも一緒に暮らしていくには重要。お互い料理を作るので、その味付けが好みのものでなかった時に困るからだ。
「累と好きな味が一緒で嬉しいな!これなら一緒に暮らしてもお互い料理して美味しいって言って。言われて楽しく食事できそうだね」
「ああ!確かにそうだね。結菜がすごく前向きに同棲について考えてくれているから嬉しいよ。ご両親に挨拶に行って、そのあとだから来月か再来月には引っ越してきてくれる?」
「うん!お父さんとお母さんの了承が得られたらすぐにでも。実家から離れるのは寂しいけど、累と一緒だから…」
「うん。本当は俺が行ったほうがいいんだろうけど、良平くんに悪いしね…」
(あ…ちゃんと良平のことも考えてくれていたんだ。嬉しいな)
もう気軽に会うことはできないけど。良平は大事な友達で幼馴染なことに代わりない。いくら告白された身とはいえ、隣の家で別の男と同棲するんてデリカシーのないことはできなかった。
「ああ…でも佐和子さんの差し入れが食べられなくなるのは残念だな」
「ああ。良平くんのお母さんの…それは…ごめんね」
累はすまなそうに眉根を下げた。
それをみて私はしまったと思ったが遅い。また累に不快な思いをさせてしまった。
「ごめんね、私の今の発言は忘れて」
そう言うと累は悲しそうな顔をして微笑んだ。