「最後、解決したのにあんなに悲しい真実だったなんて」
「愛が深い話だったね。ちょっと原作を読んでみたくなったから、この後近所の本屋に行かない?駅前にある小さな本屋さん」
「うーんでも私は風邪の設定だからやめておく。累一人で行ってきて」
「OK、じゃあお土産が何がいい?」
「バニラアイス!」
この後の予定が決まって、私は引き続き見きれていなかった恋愛ドラマを見ることにして累は出かけしまった。がらんとした部屋はやはり寂しい。人の気配があるだけでどうしてあんなにもくつろげる空間に変わるのだろう。
私は累にゲームセンターで撮ってもらった大きめのぬいぐるみを抱えて寂しさを誤魔化しながらドラマを見た。そのドラマは一人の女の子が複数人の男の子に惚れられて、誰を選ぶかという青春ドラマ。本来なら視聴者層が高校生、大学生のものだったが、気になって見ると結構面白くて見続けていたのだ。物語は完結しているので、ネットでネタバレを喰らう前に見切りたいと思っていたから今日の突然の休暇は都合がよかった。
ドラマでは幼馴染、金持ち、イケメン、ストーカー気質、俺様、モテ男とさまざまな要素の男子が主人公にアプローチをかけていくが、主人公はとんでもない鈍感娘でそれらがからぶるのが面白くもあり、かわいそうでもあった。
(ああ!こんなにわかりやすくアプローチしてくれてるのに!)
何度そう思ったかわからない。途中助長だなと感じることもあったが、クライマックスで選んだ男の子はなんと幼馴染だった。幼少期からずっと守ってくれていたから。気づかなくてごめんねと謝りながらキスをするシーンで涙しているところに累が帰宅した。
「へえ…結菜は幼馴染とくっつくのでそんなに感動するんだ」
「へ?違う…これはドラマのお話で」
「ふーん」
累は明らかにご機嫌を損ねてしまったようだがアイスとスプーンを持ってきてくれた。
「原作本買えた?」
恐るお恐るきくと累は買ってきた本を見せた。それは例の映画の原作と作者が一緒の別作品の2冊だった。
「あの作者が他にどんな話を書くのか気になって。買ってみた。結菜も読む?」
「ありがとう!私活字好きなんだよね。時々無性に欲しくなるんだ」
私の部屋には大きな本棚があってそこには小説から漫画まで色々な本が眠っている。忙しくてなかなか手を出せないが、積読が山ほどある。
「ふふ。積読を差し置いて俺の貸したのを読んでもらえるのってちょっと嬉しいかも」
(あ。ご機嫌が治った)
ほっとした。ちょとしたことですぐ期限を直してくれるのでチョロいときもある。
受け取った本はミステリーで探偵物だった。
(あ。この探偵好きかも。性格がちょっと難ありだけどそこがクセになる)
二人して夢中で読書していたらあっという間に1時間くらい経過していた。
(そろそろ甘いものが欲しくなるよね)
私はキッチンに立つとあったかくて甘いカフェオレを入れて、ロータスのビスケットを数枚添えてリビングに戻った。
「頭を使うから甘いのにしたよ」
カフェオレを差し出すと類はふわっと微笑んで口付けしてきた。
「累?もう。驚いてカフェオレこぼしちゃうところだったよ?」
「ごめん。この小説を読んでたらどうしてもキスしたくなっちゃって」
このミステリーは愛する人を助けるために殺人を犯した人の報われない純愛が描かれている話だったのだ。
(だからって…突然はびっくりするよ)
私は座ってカフェオレを飲みながら小説のページを捲る、集中して見ていたからからまた時間がずいぶん経って夜ご飯の時間になっていた。
「累、今日はデリバリーにしようか?小説読んじゃいたいよね?」
「賛成。俺はカツ丼が食べたい」
「あ!それなら割引チケット持ってるから私もそれにするね、類は…」
「大盛り二人個で」
苦笑してしまった。相変わらずの食欲。私は宅配サービスで注文を済ませて小説の続きを読む。なんとなく累に甘えたくて肩にもたれかかると累は私のことを膝に頭を乗せて膝枕してくれた。
「重くない?」
「全然。ありがとう」
「そっか」
たったこれだけの会話なのに幸福感で満たされる。人が近くにいてくれるだけで嬉しいのに、それが累でしかも膝枕だなんて最高だった。本を読んでいたが、だんだんと活字を追えなくなって私はいつの間にか眠っていた。
しばらくして身じろぎするとそこはベッドの中で隣には眠っている累がいた。長いまつ毛に整った顔立ち。まるでよくできた陶器の人形のようだった。
改めて、累は本当に私とは段違いにハイスペックなのによく私に飽きないな。あんなことがあったのに諦めないでそばにいてくれたし、戻ったらこうして家まで来てくれて、私のためにいっぱい。いっぱい。頑張ってくれて。
(なのに私何も返せてないよ)
心の中で小さな棘が胸を刺す。それは小さすぎて取れないとげ、きっといつか自然と取れるのを待つしかないもの。累の寝顔に私はごめんと謝ってもう一度眠りにつこうと布団に潜った。