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第108話 幸せな拘束

翌朝、私は早朝に目覚めてしまい、まだ寝ている累を置いてそっとベッドから抜け出そうとした。

すると累が私の腰に抱きついてきて強く引き寄せる。

バランスを崩した私は累に覆い被さるような形になってしまった。


「累、重いでしょ?今どくから手を離して」


 お願いするとさらに強く抱きしめられる。起きているのかとも思ったが、累は相変わらず規則正しい寝息を立てて私にしがみついていた。

(累が起きるまでこのままでいるしかない…か)

 ちょっと恥ずかしかったが、累が人肌恋しくてそうしてくれているのならいつもお世話になっている少しの恩返しになるので私は観念して累を抱き込むように手を背中に回してポンポンと叩いた。

 累は寝顔がいつも子供っぽくて可愛い。そのことを指摘するとちょっとご機嫌斜めになるので本人の前では言えないが、私は大好きだった。

 それからずいぶん時間が経って今度は私が寝こけてしまっていた。起きると累が私の腰に手を回して私のことを見ていた。


「おはよう。累…」


「朝方俺寝ぼけて結菜のこと拘束してた?ごめんね」


 目が覚めて私のことを抱きしめていて気づいたらしく謝ってきた。だけど私はそれも嬉しかったので問題ないということを伝える。


「ふふ。子供みたいで可愛かったよ。甘えたい時はいつでも甘えて」


 そういうと累は顔を赤くして布団に潜り込む。


「ああ〜〜!!もう俺は…結菜の前ではかっこよくありたかったのに」


「ふふ。残念でした。もう見ちゃったから」


 たまには私が意地悪になるのも悪くない。しばらくはこのネタで累をからかうのもいいかもと思っていたら、急に累が私に乗り掛かって体重をかけてきた。


「累?苦しいよ」


「ん…俺だって苦しい。ねえ。このまま結菜のこと…」


「私?どうしたの?」


「…いや。なんでもない。ちょっとシャワー浴びてくる」


 累はベッドから抜け出すとさっさとシャワーを浴びに行ってしまった。

(変な累。朝シャワーとか珍しい)

 でもその間にいつもやってもらっている朝食の用意ができると思いつくと私はウキウキしながら朝ごはんを作り始めた。


 シャワーから累が出てきたタイミングでご飯をよそうと累の元に運ぶ。


「これ、結菜が作ってくれたの?」


「うん。いつも累がしてくれるから、たまには私が作りたいなって思って」


 並べられたおかずは全部累の好きなものばかり。だからか累は喜んで美味しい美味しいと食べてくれた。


「ご馳走様!こんなに美味しい朝食を食べたのは初めてだよ」


「ふふ。じゃあ今度から私も朝食を作るね」


 食器を片付けながら言うと累は横から食器を取り上げる。そしてそれをさっさとキッチンに持って行ってしまった。


「累?片付けするからすわてっていいよ」


「いや、食事を作ってもらったんだから片付けは俺に任せて。お願い」


(私が累のお願いに弱いのを知ってて…)

 累は意図的にそう言ったのだろうから、私はもう彼にお任せするしかなく、仕方なくソファに座ってニュースをつけた。

 ニュースでは世間の辛い情報や嬉しいお知らせの様々なことが報道されている。それらを見て私は喜んだり胸を痛めたり、忙しなく感情を動かしていた。

(ちょっと前まではこんなに感情が動くことがな買ったからニュースはリハビリになっていいかも)

 私はそう思いながらニュースを見ていると、今おすすめの観光スポットの一つに期間限定のカフェが出てきた。

(すごく可愛いし、美味しそう!行ってみたいなあ)


「今日はここに行こうか。並んで入るのも楽しそうだし」


 いつの間にか洗い物を終えた累がエプロン姿のまま立ってスマホを操作していた。


「いいの?嬉しい」


「ふふ。喜んでくれるならそれで…じゃあ支度ができたらすぐ出よう」


 そうして今日の目的地が決まった。私はウキウキしながらお気に入りの服に着替えて、累も洗濯乾燥を済ませた自分の服に着替えてから(寝巻きは父のものを使用していた)家から出てそのお店に向かった。家から数駅離れたその街に着くと人の多さに圧倒される。その中でも今日のニュースになったせいもあるのか、カフェは1時間待ちだった。列の最後尾にならぶと店員さんがメニュー表を持ってきてくれる。メニューはどれも美味しそうで、累は甘いもの好きだけあってほぼ全部のメニューを食べ尽くしたいと豪語していた。

(流石に全部はお腹パンクしちゃいそう。私がストッパーにならないと)

 子供の面倒を見る親の気持ちになってしまった。

 それを見透かした累は少し不満そうに私の頭を撫でる。


「結菜、今俺のこと子供扱いしようとしただろ?」


「え!?そんなことないよ?」


 とぼけたけど動揺を見透かされてあっさり嘘を見破られてしまった。


「だって…だってえ…」


「俺だって節度は持ってるよ。多分。我慢できるよ。多分」


(怪しい。これほっといたら本当に全メニュー頼みそう)

 私はふうとため息をつくと言った。


「る〜い!多くて5個それ以上は許可できません」


「ええ!たったの5個?10種類はあるのに半分に絞るの?」


「当たり前だよ。こんなの全部食べたら絶対気持ち悪くなる」


「うう…わかった…我慢する」


 そう言った累のがっかりした表情が子供みたいで私はクスリと笑ってしまった。


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