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第110話 動物園で

「明日さ、動物園に行かない?」


 夕飯の片付けをしていると累からそう提案された。動物も大好きだし、動物園に行くのは類とのデートで行った室内動物園以来だから楽しみになってきた。


「うん!いこ!またあそこに行くの?」


「ううん。今回は郊外にある普通の動物園。ちょっとさ、ゾウが見たくて」


 テレビではちょうどアフリカの生物の特集をしていて、それで見たくなったそうなのだ。

(累って結構影響されやすいよね)

 今日のカフェにしてもそうだ。他の人がおすすめしたり、何気なく見たものを取り入れたいと言う欲が強いのかもしれない。


「じゃあ明日は動物園ね。楽しみだなあ。子供の頃以来だよ」


「実は俺はちゃんとした動物園初めてなんだ。子供の頃に遠足で行く機会があったんだけど、母親がさ…行かせてくれなかったんだ」


 また累の悲しい過去を垣間見て私は胸が締め付けられる。


「じゃあ明日はとびきり楽しもう!お弁当より現地で限定メニュー食べた方が楽しそうだからそうしていい?」


「うん!もちろんだよ。結菜ありがとう」


「ここからだったらズートピアとかどうかな。オカピがいるんだって。見てみたいんだ。きっと可愛いんだろうな」


 急に子供に戻ったように動物園のホームページを見ながら計画を練っている姿がたまらなく可愛くて愛おしかった。


「他にはどんな動物がいるの?」


「そうだなあ。キリンもいるし、あ!ミーアキャットだって。結菜好きなんじゃない?」


「好き!可愛いよねあの立ち姿。楽しみだなあ」


 二人で顔を寄せ合ってホームページを見る。すると累が私の頬にキスをする。そのまま見つめあってふふッとお互い笑い合った。


「相思相愛ってこんなことを言うのかな」


 累が言うと私は同意する。


「うん。お互い考えてることわかってて、そうなんだと思う」


 それを確認すると累はまた子供っぽい笑顔を見せる。この心を守ってあげたい。満たされなかったことを満たしてあげたい。私はそう考えると累に言った。


「じゃあ明日は早いからもう寝たほうが良いんじゃないかな?」


時計はもう11時になっていた。


「本当だ!アラームセットして…よし!開園一時間前までには行けるようにしよう」


二人は布団に潜り込むと夢も見ずにぐっすりと眠った。

翌朝アラームで起きると私は顔を洗ったり髪の毛をセットしたりメイクをしたりと大忙しだったが、累は着替えを済ませてカバンを用意して私の支度が整うのを待ってくれていた。


「朝のコーヒーはコンビニで買おうか。行こう」


「わかった。朝ごはんもね」


 お腹が空いていたら楽しめない。なんせ園内がすごく広いらしいから。途中に見つけたコンビニに入って朝ごはんとコーヒーを買ってそれを車内で食べてから、累はまた車の運転を始めた。

 相変わらず累の運転は丁寧で乗り心地が良い。私は朝早かったこともあり、一瞬ウトウトしかけたがハッとして意識を戻す。


「眠かったら寝てていいよ。もうすぐ着いちゃうんだけどね」


「いつも運転任せきりなのにごめんね。寝ちゃって」


「いいよ。結菜の寝顔好きだから。だって可愛いんだよ。赤ちゃんみたいになるの」


(それは累も同じだけど言わないほうがいいよね)

  私は累にひとしきり謝っていると車は目的地の駐車場についた。


「さあ!チケット買いに行くぞ」


 鼻息荒く累が言うと、車は既に結構止まっていて、チケット売り場も入場待ち行列もできていてびっくりしてしまった。


「すごいね…まだ一時間前なのに」


「甘く見てた。まだガラガラだと思っていたのに」


 でも楽しみなのに違いはない。私たちは列の最後尾に並んでチケットを買い、入場待ちの列に並んだ。ホームページを見ながらオリジナルメニューを見たり、園内にどこにどんな動物がいるかを確認した。ここではモルモットとパンダマウスに触れるらしいので、最初にそのチケットを取りに行くことにしようなどと楽しく話していたら、開園時間になったらしく人が進み始めた。私と累も手を繋いで園内に入る。右手に回ったら目的のふれあいコーナーがあるらしくそこに向かって歩くのだが。


「つかないな…」


「遠いね…」


 驚くほど園内は広く、歩いても歩いても目的地につけない。それでもめげずに歩いて行くとようやく目的のふれあいコーナーについた、運よくすぐに触れるチケットがラスト1枚残っていたので、近くにあった販売機でお茶を買ってベンチに腰掛けて順番が来るのを待つことにした。隣では元気そうな子供が親に楽しみ楽しみと嬉しそうに駆け回っていた。

 累はその光景を見て微笑んでいる。


「家族…憧れる?」


「うん。なんか、いいね。ああいうの。俺も…結菜とああなれるかな?」


「きっとなれるよ。ううん。してみせる」


 私は累の手を握る。強く強く。そうすることで累に安心感を与えてあげたかったのだ。私たちは大丈夫だと。

 しばらく待っていると順番が来て私たちは呼ばれた。簡単な説明があってモルモットを膝の上に乗せてもらうとすごく可愛くて夢中になってしまった。


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