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第111話 どこから食べる?

「可愛いね!モルモットってこんなに大人しいんだ」


 私が膝に乗せてもらったモルモットを撫でていると累は私とモルモットの動画を撮っていた。


「累は触らないの?」


「ううん。撫でるけどその前に記念撮影したくて」


 ひとしきり動画と写真をとって満足したのか一緒になってモルモットを触り始めた。


「可愛いなあ。動物ってどうしてこんなに癒されるんだろうね」


 優しい笑みを浮かべて累はモルモットに触れる。

(あ…なんだか優しい微笑みだな。写真撮りたいけど膝にモルモットがいるし、目に焼きつけおこう)

 いつか子供ができた時もこのような慈しむような瞳で子供をみるのだろうか。私はそう考えてハッとした。ずいぶん先の話しなのに勝手に空想して。累が色々複雑な思いを抱えているのに身勝手だと反省した。

 やがて時間が来てモルモットが返却されると累はすごく寂しそうな顔をしてふれあいコーナーから出ていった。


「はあ。モルモット可愛かったね」


 私がそう言うと累も同意する。


「パンダマウスも良かったな。小さくて、でもすぐ脱走しようとして」


 パンダマウスはモルモットと比べて活発で、すぐに器から出ようとして二人で慌てて戻していたのだ。その時の必死な累の顔は初めて見た顔だったから愛おしかった。

 歩きながら周りを見るとところどころにたんぽぽが咲き始めていた。まだ寒い日が続いているが、季節は確実に春に向かっているのだと実感させられる。

(そういえば野菜コーナーに山菜が並ぶようになったなあ)

 いつも買い物をしている最寄りのスーパーでは山菜が陳列されるようになっていた。累は苦いのが苦手なので手には取らないのだが、季節を感じていつもそれを嬉しく多いながら見ていた。


「累は本当に小動物大好きだよね。でもお別れが辛いから飼わないんでしょ?」


「うん。小さい命は短いからね、それに今は結菜がいてくれるし、結菜がいてくれたら他に何もいらないんだ」


 累は大真面目にそう言うので私は照れてしまって赤面して俯きながら歩いた。


「あ!ぞうだ!見て結菜!」


 はしゃいだ子供のようの声で累が私に声をかける。俯いた顔を上げるとそこには大きな像が3頭いて、砂浴びをしたり、ご飯を食べていた。

 大きいが優しい目をしたこの動物を累は心から愛してるようで、キラキラと少年のような目で見つめていた。周りは子供が並んでいる中で一人大きな大人が混じっているのはなんともシュールな絵面だったが、可愛かったので私はその光景を写真におさめた。

 ゾウの後、お猿さんコーナーを見て、しばらく歩くとカンガルーコーナーがあった。そこには大きめな食堂があって、11時と少し早いが混む前に昼食を済ませるために食堂に向かった。

 累はパンダカレーとオカピオムライスを注文していたので、私はあったかいものが食べたくてカンガルーラーメンにした。


「楽しみだね。どんなものが来るのかな?」


「写真では可愛い見た目だったからあとは味…」


 累は子供のようにウキウキしながらそう言った。私はそれが可愛くてくすりと笑う。

 すると累は私が何に笑ったのか分からなかったようで首を傾げていた。その仕草も体の大きな累には不釣り合いで可愛かったのだが、これは私だけが見れる特権なので内緒にすることにした。


「まだ席が空いていて良かったよね。早めに来て正解だった」


 まだ11時なのに、席は結構うまっていて、私達みたいに混む前にと早めに来る人が多いことに驚いた。そのほとんどが家族づれだったので、おそらく何度もここに来たことがある人が昼時の混み具合を知っていて早目に来たのだろうと推察できた。

 呼び鈴がなったので食べ物を取りに行くと、おいしうなラーメンがお盆に乗っていた。私はウキウキしながら席に戻ると、席にはパンダカレーだけ置かれていて累はいなかった。おそらく一度に運べないのでもう一度取りに行っているところなのだろう。

 座って待っていると累がホクホク顔で戻ってきた。


「ご機嫌だね。期待通りだった?」


「うん。すごく可愛い。写真撮らないと」


 そう言ってパンダカレーとオカピオムライスの写真をとってから、ハッとした顔をした。

 どうしたのかと疑問に思っていると、累は困った顔をして言った。


「こんな可愛いのどこから食べたらいいのか…困った」


「ふふ。じゃあ端っこから少しずつ食べたらどうかな?崩れちゃうのは残念だけど食べてもらえなかったら2つとももっと無念だよ」


 可愛い。とっても。私なんて豪快に真ん中に箸を突っ込んでラーメンを啜っていると言うのに。累は可愛い食べ物達をあわれんでどうやって食べるかに苦心するとは。

(本当に子供みたいに可愛い。大好き)

 愛おしさで心が満たされる。ちょっと前まで忘れていた感情がとめどなく溢れてくる。ああ。感情ってこんなに素敵なものだったんだと改めて感じると私は喜びに打ち震えた。 



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