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第112話 いつも

「ん〜味も美味しい」


 しばらく悩んでいた累は結局お尻の方から食べることにしたようで少しずつ食べすすめていた。

(可愛い。なんだか子供みたい)

 最初から最後まで慎重に食べすすめていって、いつもよりゆっくりなペースで食べすすめ、完食したら手を合わせてごちそうさまでしたと言っている姿が、やはり子供のようで可愛らしかった。


「美味しかったみたいでよかった。混んで待ってる人もいるし、もう出よう」


「そうだね、ちょっと見ない間にすごい行列!」


 累は食べるのに集中して周りが見えてなかったようで長蛇の列に驚いていた。


「今ちょうど12時だから、ちょっと前から急に人が増えてあっという間にこんな列になったんだよ」


 私が説明すると累は早めに来てよかったねと言った。


 レストランを出ると、累が嬉しそうに指差した。


「あれ、オカピかな?」


私もその方向を見て奥にちらりと見えたシマシマのお尻に思わず笑顔になった。

 やがてオカピの展示ゾーンまで来ると人混みの中にシマシマのお尻が見える。順番を待ってようやく見れたが、馬のような見た目だがお尻のシマシマが特徴的で、優しい目をした可愛い動物だった。

 親子で展示されていたのだが、子供も大人とほぼ同じ大きさまで成長しているので親子と言われるまでわからないくらいだった。

 草を食べたり地面を臭ったり、自由にゆったり過ごしている姿は可愛くていつまでも見ていられたが、他の人にも譲らないといけないため、早めに切り上げて列から離れた。


「オカピ可愛かったね。目が優しくて」


「ああ。まつげも長かったね。でもやっぱりお尻だけシマシマなのがいい」


 累もオカピを気に入ったようで名残惜しそうに振り返って、人混みの隙間からちらりと見えるオカピを見ながらそこを去った。


 お目当ての動物はまだいる。そう。ミーアキャットだ。

 昔から大好きで、動物園に行くと絶対見に行っていた。累は実物を見るのは初めてらしく楽しみだと言って二人でミーアキャットの展示スペースへと向かった。

 やはりというか、混雑していてなかなかミーアキャットを見ることができなかったが、しばらく待っているとようやく最前列に行けてミーアキャット見ることができた。


「可愛い!これがミーアキャット」


 累は感動してその可愛さにメロメロになていた。ガラスの前でウロウロする子、固まって団子のように寝ている子。立ち上がって周りを見回す子。色々なポーズを見ることができて私も満足だった。累は特にガラスの前でウロウロしている子が気になったようで、ニコニコしながらその動きを目で追っていた。


「結菜。ミーアキャットってなんか自由な感じがしていいね。可愛いし。見てるだけで癒される」


「だよね。私も大好きなの。ふふ、仲間同士集まって団子で寝てるところか可愛い」


 累もそちらを見ると微笑む。


「仲間の温もりが心地いいんだね。気持ちはすごくわかる。温めあうのって安心するしいいよね」


 まるで自分のことのように語る。累も私と肌を寄せて眠るのが落ち着くということなのだろうか。だったら嬉しい。自然と私は累の腕に手を回してピッタリとくっついた。累は私の頭をポンポンと撫でてから待っている人がいるからとミーアキャットの展示コーナーから離れた。 

 腕を組んだまま歩いて行くとキッチンカーで揚げパンが売っていたので食べることにした。


「揚げパンなんて小学生以来だな。美味しそう」


 出来上がった揚げパンを受け取ると近くのベンチで座って食べた。


「懐かしい味がする。きな粉揚げパン」


「うん。瓶の牛乳が欲しくねるね」


 久々に食べるきな粉揚げパンは小学校の楽しかった時間を思い出させた。でも累はどうなんだろう。楽しい記憶があったらいいんだけれどと気を揉んでいたら、累は私の気持ちに気づいたのか、ゆっくり話し始めた。


「小学校の頃は学校だけが楽しみだったから揚げパンで思い出せてよかった」


「累は小学生の時どんな子供だったの?」


「うーん。どっちかというと大人しい方だな。友達はみんな活発でね。いつも引っ張ってもらってた。中でもかっちゃんという子がいてその子はみんなのリーダーでね。なぜか俺のことを気に入ってくれてて、いつも遊びに誘ってくれたり、班行動の時とか、組み決めの時はいつも誘ってくれてありがたかったんだ。途中で引っ越してしまったから今はもう連絡を取り合っていないけれど、今でもいい友達だったなって思うよ」


「そっか。かっちゃんって子がいたから累は孤独じゃなかったんだね」


「うん。今でも時々会いたくなるよ」


 そう言って寂しげな顔で笑った。なんとかかっちゃんと合わせてあげたいけど、私にできることが何もないのが残念だった。


「結菜は気を使わなくていいんだよ。いつも俺のことを考えてくれてありがとう」


 累は私の思考を読むようにそう言って頭をポンポンと撫でてくれた。私は累の役にたちたくてたまらないことがわかっているから気を使わなくていいと言ってくれているようでたまらない気持ちになった。


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