累は優しく私を抱きしめて愛していると繰り返し囁いていくれた。私も愛していると伝えることができて幸せな気持ちだった。
ただ、初体験にありがちな痛みで最後まではできなかったけど抱きしめ合うだけでも幸せな時間だった。
「累ごめんね。最後まで…えっと…」
「大丈夫だよ。結菜は眠ってて。俺ちょっとシャワー浴びてくるから」
そう言って累はシャワーを浴びに行ってしまった。私は心地いい疲れで眠くなり、本当は累が帰ってくるのを待ちたかったが、そのままウトウトと眠ってしまった。
どれくらい眠ったのだろうか。目を覚ますと目の前にスヤスヤと眠る累がいた。
(まつ毛長い、彫刻みたいに綺麗)
まるで名工に作られた彫刻のようなその顔に触れたくなってそっと手を伸ばす。頬に触れるとうっすらと目を開いて累は私を強く抱きしめた。
トクトクと穏やかな心音が聞こえてくる。石鹸の清潔な香りのなかに柔らかく香る累の匂いに酔いそうだった。
(落ち着く。累の匂い。大好き)
私はまたゆっくりと眠りに落ちた。
次に目を覚ますと今度は累が私の寝顔を見ていた。
「おはよう。昨日は結局食事もせずに眠っちゃったね」
「うん…あ…まだ服を」
私は生まれたままの姿なので恥ずかしくなって毛布の中に潜り込む。だけど累はそれを許してくれず毛布を剥ぎ取ると私の頬にキスをしてくれた。
「ごめんね。俺出ていくからゆっくり支度して。まだ肌見られるの慣れてないから恥ずかしいよね」
「うん…ありがとう累」
累の配慮に感謝して累が部屋を出てから私は身支度を整えた。
洗面台に立って昨夜つけられた赤い跡を見て私は顔が真っ赤になった。
(あああ!!!私…やってしまったのね。まだ完了してないけど、蓋を開けてしまった。幸せだけど恥ずかしい)
私は一人で身悶えながら顔を洗って髪を溶かし、軽くメイクしてからリビングに行くとクロワッサンと綺麗な形のオムレツ、コーンスープが用意されていた。
「美味しそう」
「昨日食べ損ねたからお腹空いてるよね?はい。コーヒー」
累がドリップしてくれたブラックのコーヒーを手渡してくれる。ドリップしたコーヒーはブラック派なので累がブラックを渡してくれたことが嬉しかった。
「累は私のことすごくわかってくれていて嬉しい。今日の朝食も私が好きなものばかりだし。ありがとう」
すると累は私の額にキスをおとす。
「結菜に嫌われたくなくて必死なんだよ。俺は白鳥と一緒。水面下で必死に足掻いているんだ」
全くそうは見えない。緊張している私と違って累は落ち着き払っているようにしか見えない。経験値が違うのだろうけど、私だけ動揺しているのが少し悔しかった。
累も席に着くとコーヒーを飲んだ。累はコーヒーにミルクと砂糖をたっぷり入れている。朝は頭がぼーっとしているから甘いもので脳に働きかけているらしい。私はコーヒーの香りを楽しみながらクロワッサンを齧る。サクサクしてほのかに温かい。バターが効いていてかなり美味しい一品だった。次に滑らかに焼き上がっているオムレツにフォークを刺すととろりと半熟で中にチーズが入っていた。私好みの焼き加減。一口食べるとほのかにクリームの味がした。ホテルで食べる朝食のような豪華な朝ごはん。それを特別な今朝に用意してくれたのが嬉しかった。
「累…ありがとう。私最後まで…」
「結菜。大丈夫だよ。時間はいくらでもあるんだから。焦らずゆっくり進もう」
それをきいて自分から言い出したことなのに恥ずかしさが再燃して顔がまた紅潮してしまった。
累はそれに気づいているのにあえて指摘せず静かに朝食を食べすすめていた。私が恥ずかしがっているのを気付いていて、でもそれを指摘せずにいてくれるのがありがたかった。今は心に余裕がないから。私は再び朝食を食べ進める。おいしさとお腹が満たされる幸福感で私はたまらなく幸せだった。
「ありがとう。色々甘えてしまって。でも嬉しいし幸せ。累…大好き」
私がそういうと累は私をまっすぐ見つめて微笑んでくれた。その笑顔はとろけそうなくらい甘くて穏やかな表情だった。
「結菜。あまり煽らないでくれるかな…。朝食を食べたら出かけようと思っていたけど、またベッドに戻りたくなってしまうから」
「えっ!!それは…今日は…」
外に出ましょうといいかけて、その言葉を飲み込んだ。私は覚悟を決めてここに来たのだ。だから最後まで…いきたいと思った。
「いいよ…今日はずっとベッドで…」
私がそう言うと、累は握っていたスプーンを机に置いて立ち上がり、私を抱っこしてベッドに連れて行った。
「結菜ありがとう。俺もまたここに戻りたかったんだ。大切にするから、体の力を抜いて」
優しくしてくれる累に私は心から感謝しながら身を任せた。