どれくらい時間が経っただろうか。気づけはもう日が傾きかけていた。
累は終始優しかった。多少の痛みはあったが最後に結ばれた時は好きな人と一体になった感動と幸せでいっぱいだった。
肌を合わせて眠る幸福感は格別で、私達はウトウトしたり目が覚めたらキスしたり、のんびりと休日をベッドの上で過ごした。
だがそろそろ帰宅しないといけない時間になって、シャワーを浴びて身支度を整えると、累に車で家まで送ってもらう。車内も甘い空気で満たされて。とにかく幸せでたまらなかった。
「累と離れるの…寂しくなっちゃった」
私がそう言うと累は穏やかに微笑む。
「俺もだよ。もっと触れていたいけど…明日は仕事だからね。我慢する」
そんなことを言いながら車を走らせ、私の家の前に着くとどちらともなくキスをして車から降りる。そして累の車が走り去るまでそこで見送った。
(今度会えるのは週末。楽しみ)
幸せな余韻に浸りながら帰宅したら、私は思っていたより疲れていたようで、パジャマに着替えてすぐにベッドに入った。その時累からお休みLIMEが届いたので、おやすみなさいと、ありがとうのメッセージを送って眠りについた。
翌朝、スッキリ目覚めると朝食をとって準備をして会社に向かった。
(今日は仕事に集中できるかな。昨日のこと思い出しちゃって顔がニヤける)
そんなことを考えながら出社すると、愛花が私を見て、目をまんまるにしてから、ポーチを掴んでいきなり私の手を引いてトイレに引き込んだ。
「な!?なに!?」
驚いていると愛菜はポーチからコンシーラーを取り出して私の首筋に塗り始めた。
「え?え?」
「キスマーク丸見え。次からは見えないところにしてってお願いしたほうがいいよ」
言われて初めて気づいた。そういえば昨日累はそこを執拗に吸っていたことを思い出した。
「まあ、執着心の権化みたいな人だから見せびらかしたかったのかもね。私は気にしないけど、そういうのでからかってくる人もいるから」
私は愛花の心遣いに感謝をする。確かにいかにもしました!と宣言するような印を周りに見せて歩くのは恥ずかしかった。
「愛花ありがとう。実はね。昨日」
「わかってる。ついになんだね。今。幸せ?」
「うん!すっごく幸せ」
そう言うと愛花は嬉しそうに笑ってくれた。愛花には色々お世話になってばかりだから、今日のランチは奢ろうと思って赤い印が綺麗に隠れたところをそっと指でなぞる。
(ここに累が…もう。いたずらっ子みたい)
累には困ったものだ。次にするときは見えないところにお願いしようと考えてふと顔が赤くなる。もう次を期待しているなんて、なんだか恥ずかしい。
「結菜。次のことを期待するのが恥ずかしいと思っているかもしれないけど。それは当たり前の感情だから気にしない方がいいよ」
愛花は優しく微笑みながら言ってくれる。
(私の考えはお見通し…か)
愛花の言ってくれることは私が気にしていることだった。だからその気持ちを和らげてくれる愛花の言葉が嬉しかった。
「ありがとう愛花。私、まだ慣れてなくて…これから困ったことがあったら相談してもいい?」
「もちろん!なんだか学生の頃に戻ったみたいで新鮮だわ」
(愛花は学生の頃からこんな話を…すごい。大先輩だ)
私はいつまで経っても愛花に頭が上がらないと思った。
ランチの時間になると、2人で連れ立ってお気に入りのベトナム料理のお店に入った。
「愛花、今日は私の奢りね。累のことで色々相談に乗ってもらったから」
「いいの?気にしなくていいのに。でもありがとう!遠慮なくごちになります」
愛花は無理に遠慮すると私がムキになるのがわかっているのですんなり申し出を受けてくれて嬉しかった。
「ありがとう。愛花」
私は嬉しくてお礼を言うと愛花はニコッっと微笑んで何を頼むかメニューを見ながら選び始めた。私もメニューを見るとお気に入りの生春巻きと他になんびんか頼んでシェアすることにした。
「で、どうだった?感想聞きたい!」
愛花はワクワクしながら私に聞いてきた。
言うのはちょっと恥ずかしいけど色々と親切にしてもらっているので全部内緒は筋が通らない。私は勇気を出して話すことにした。
「えっとね。最初は本当に驚いたけど、でも…通じ合えて本んとうに幸せだったの。愛花が背中を押してくれた意味がわかったよ。心だけでも通じ合えるけれど、やっぱり、肌を合わせるのって全然違う」
「そうでしょう?お互いの体温を感じるとそれだけで幸せな気持ちになる。私も栄とほぼ毎日してるけど全然飽きないしもっと欲しいって思っちゃうもんn」
私は驚いた。一日だけでもぐったりしたのにそれを毎日。やっぱり大先輩は格が違う。
「ふふ。驚いた?でも同棲して一緒に暮らしてるとね。どうしても我慢できないの。私と栄がそうなだけで累さんがどうかはわからないけど、結菜がまた同棲したらそうなるんじゃないかな」
「うう〜ん。私の体持つかな」
私は想像するだけでお腹がいっぱいになってしまった。