私は累と手を繋いで歩いていたが、ふと累が私の手を話して先に歩くと、別の女の人と手を繋いで歩いて行ってしまった。
私は呆然としてそこに立ち尽くし、いつの間にか泣いていた。消えた累と女の人の向かった方角を見てただ泣いていた。
「な…結菜…」
ハッと目が覚めると私の手を握る累がいた。私は思わず累に抱きついて首筋に顔を埋めて泣いた。
しばらくして落ち着くと、私は累は私の頭を撫でながら優しく聞いてくれた。
「怖い夢でも見た?」
「うん…累がどこかに行っちゃう夢。目が覚めたら累がいてくれて本当にホッとした。お願い。どこにも行かないでね」
「当たり前だよ。何があっても結菜の隣は誰にも譲らない。俺だけの場所だ」
累はそう言うと優しく私の髪の毛をすいてくれる。私はうっとりと目を瞑って累の顔を見上げると、ぎゅっと強く抱きしめた。
(ああ。ここに累がいてくれるだけで本当に嬉しい。熱で辛くても、累がいてくれるから…辛くない)
私がそう思っていると、累は身をそっと離して体温計で私の体温を測った。
「体が熱いと思ったらまた熱が上がってるね。39度3分か…解熱剤飲んで、飲み物は…まだポカリが残ってるか」
累は薬袋から解熱剤を取り出すと私に手渡してポカリの蓋を開けて渡してくれた。
「なんだか体が寒いの…いっぱい布団かぶっているはずなのに…」
「熱が上がる時は体が寒く感じるんだよ。とりあえず薬を飲んで眠って」
累は緩くなった冷えピタを張り替えながらそういった。それから冷凍庫から氷枕を探してきてくれてタオルを巻いて私に手渡してくれる。
「これ頭の下に敷いて、高熱が続くとしんどいだろうけど、少しでも冷やさないと」
「うん…ありがとう…累。こんな時だけど。このキャビネットの一番上の棚開けて」
私はベッドの横に置いてあるキャビネットの一番上をさし示した。
累は言われた通りそこを開くと、そこには貴重品がしまってある棚だったからちょっと戸惑って言った。
「結菜。こんな貴重品の入った棚を施錠しないのは不用心だよ?ここに何があるの?」
「ん…そこに鍵が何個か入ってるでしょ?そのうちの1個を累に持ってて欲しいの。この部屋の合鍵。ずっと渡そうと思っててタイミングがなくて…」
「結菜…ありがとう。じゃあこれからはいつでも結菜の部屋に来てもいいの?」
「うん…いいよ…累が来てくれるなら嬉しい」
そう言うと、薬が効き始めたのか眠くなってウトウトし始めた。累が私の頭を撫でてくれるのも気持ちよくて、いつの間にか私はまた眠りについた。
今度の眠りは深くて、夢も見ずに数時間眠っていたようだった。目覚めた時に隣に累はいなくて、時計を見ると7時になっていた。
熱を測ると38度まだ下がっていたが、まだ頭はフラフラする。ポカリがなくなっていたので、新しいものを取りにベッドから降りるとリビングに出ると、ソファにすわって仕事をしていた累が私に気がついて歩み寄ってきた。
「目が覚めた?どうしたの?お腹すいた?」
「ううん。ポカリがなくなったから新しいのを撮りに来たの」
「LIMEしてくれたら俺が持って行ったのに。新しいの持って行くからベッドに戻って、まだ肌が熱い。熱高いんでしょ?」
「あ…でも汗かいたからシャワーは浴びたいかも」
「そうか…じゃあシャワー中に倒れたら怖いから近くて待ってるよ。行こうか」
私は脱衣所にパジャマと下着、タオルを置いてあるのでそれを準備して浴室に入るとシャワーを浴びた。汗でベタついたからだにシャワーが気持ちいい。その間、累は脱衣所の外で私のことを待っていてくれているので手早く髪や体を洗って体を拭いてから脱衣所の扉を開けた。
「大丈夫?しんどくなかった?」
「ううん。汗流したらさっぱりしたよ」
「そっか。じゃあ髪の毛乾かそうか。リビングに行こう」
累はドライヤーを持って私を連れてリビングに向かった。
ソファに座ると累は優しい手つきで私の髪の毛を乾かし始める。毛が絡まないように優しく髪の毛を乾かしていく。私は心地よくて目を閉じて累の手つきにうっとりとした。
「結菜は頑張り屋さんだから仕方ないけど、こんなに高熱が出るほど頑張るなんて、だめだよ…ねえ、退職して俺と結婚しない?」
突然の申し出に私は驚いた。だが熱で頭がぼーっとしていたからうまく思考がまとまらない。
「ううん。だめ。まだ結婚はできない。それに仕事もやめられない。ごめんね」
私ははっきりと断った。累は後ろにいるからどんな表情をしているのか分からなかったけど、私が断った時少し動きが止まったので軽くショックを受けた様子を感じた。
「そっか…結菜はまだ結婚とかは考えられないか。というか。弱ってる時に卑怯だったよね。ごめん」
「ううん。累が私を気遣ってくれているの、わかってるから。ありがとう」
私がそう言うと累はまた髪の毛を優しく撫でながら髪の毛を乾かし始めた。綺麗に乾くと最後に仕上げのブラッシングをして累は私をベッドルームへ連れて行く。
「解熱剤を飲んでから六時間は空いてるからもう一度飲んで、おやすみ」
そう言って解熱剤を渡してくれたので、私はそれを飲んで眠りについた。