目が覚めて一番に体温を測ると7度台まで下がっていた。昨日のような体の重だるさは感じないし、これならあと1日休めば仕事に復帰できそうだった。
ベッドから抜け出してリビングに入ると、累はすでに起きていて、キッチンで何かを作っていた。
「累。おはよう」
「ああ。結菜。昨日より顔色が良くなったね。熱は?」
「37度5分まで下がったよ。今日休みを取ったら明日から会社に復帰できそう」
「それならよかった。今野菜のスープを作ったから朝ごはんにしようか。ダイニングで食べられそう?座るのが辛かったらベッドに運ぶけど」
「ううん。微熱はあるけど体はもう軽いから大丈夫。気遣ってくれてありがとう」
私は累の手伝いをしようとキッチンからカトラリーを取り出そうとすると累に阻まれる。
「結菜は病人なんだから座ってて。心配だから!」
「はあい」
累に怒られてしまって私は渋々ダイニングテーブルに座る。累はテレビでニュースを見ていたようで、私もそれをぼんやり眺めた。朝のニュースの合間には、芸能人がスイーツや食べ物のお店を紹介するコーナーがあり、私はそのコーナーが好きでいつも見入ってしまうのだが、今回は私の好物のスイーツを特集していた。
「わあ。美味しそうなパンケーキ…」
ポツリとつぶやいただけなのに累はすぐに反応してテレビに映る店をすぐにホームページで調べてくれていた。
「この店はちょっと遠いけどいけない距離ではないから、今週末一緒に行ってみよう。テレビで特集されたからきっと人がすごいだろうけど」
「ふふ。私並ぶのは嫌いじゃないよ?だって待ってる間のワクワク感がたまらないじゃない」
「結菜のそういうとこ好き。なんでも楽しめる。すごいことだよ」
「そうかな?でも楽しみ。あ!このトッピング全部のせのスペシャルが食べたいなあ。予約制か…」
すると累は素早く電話をかけていたがまだ店が営業時間外だったため営業時間になったら必ず予約をゲットすると張り切っていた。
その間も私はお腹が空いてきて、クウとお腹がなってしまった。
「ふふ。お腹すいたのに待たせてごめんね。お待たせ。野菜スープだよ」
累が出してくれたスープには様々な野菜が食べやすいように細かく刻まれて入っており、焼きたてのクロワッサンもついていて食欲をそそった。
「美味しそう!累の手料理ってなんでも美味しいから朝から食べられるの幸せだな」
私がそう言うと累は微笑んで答えた。
「結菜がそう言ってくれて嬉しいよ。スープはおかわりがあるから、欲しかったら言ってね」
そう言いながら累はエプロンを外して自分の分のスープとクロワッサンを盛ったお皿を持ってダイニングテーブルに乗せた。
それはどんぶりに並々と注がれたスープと山盛りのクロワッサン。朝からよく食べるなあと感心してしまった。
「じゃあいただきます」
「いただきます」
2人で手を合わせて食べ始める。スープには私の大好きなトマトがふんだんに使ってあり、野菜とベーコンの風味がいい味を出していてとてもおいしかった。クロワッサンも焼きたてでサクサクしていて中はしっとりしているのでおいしかった。
夢中で食べていると累は私の顔を見て微笑んだ。
「どうしたの?」
「いや。子供みたいだなって思って。ここ。クロワッサンのかけらがたくさんついてる」
累はそう言ティッシュではらってくれた。
「あ…ありがとう。美味しそうでついかぶりついたけど、一口サイズにちぎって食べたらよかった」
「いいと思うよ。それだけお腹が空くってことは元気になってきてるってことだからね」
累はそう言うともぐもぐと食事を食べすすめていた。たくさんあったスープもパンも私が食べている間にあっという間になくなって。先に食べ始めた私の方が食べ終わるのが遅くなってしまった。
「累は本当に食べるのが好きなんだね。でも太らないのが羨ましい」
「はは。俺はトレーニングしているからね。朝も毎日一時間は走ってるし。食べる分運動してる感じかな」
「ええ!一時間も走るの!?」
それならこのプロポーションも納得だ。累がジム通いをしているのは知ってたが、まさか毎日一時間もランニングしているなんて思ってもみなかった。
(でも朝走るのは楽しそう。でもいつもギリギリまで寝てるから私には無理だなあ)
仕事で疲れていて朝起きられないのが悩みなので、本当は私も走りたいけど無理だと諦めた。
「累はすごいね、そういえばこんな時間にうちにいても大丈夫?新しく社員さん入れたのに累が遅れたら困るんじゃないの?」
「ああ。大丈夫。2人にはオフィスの鍵を持たせてあるから。今日は少し遅れることは伝えてあるし。心配ないよ」
「そっか…なんだか2人に悪いことしちゃったな」
「そんなに気になる?もしかして工藤君のこととか?」
累が試すような口調で聞いてきたので私は冷静に答える。
「彼は関係なく新入社員でいきなり社長が遅れてきたら戸惑うだろうなって思っただけだよ。安心して。彼とは2回しか口聞いたことないから」
累の嫉妬が可愛くて私は笑った。