「落ち着いた?」
累は優しく私を抱きしめて髪を撫でてくれる。それが心地よくて私はようやく涙が止まった。
「うん…なんだか、今までのこと、ずっと苦しかったこと、全部の涙があふれて止まらなかったの」
「辛かったね。俺が力になれなくてごめん。結菜が苦しんでるのはわかっていたけど、どうしてあげればいいかわからなかったんだ」
累は苦しそうにそう言うとさらに強く私を抱きしめる。その力強さが私には心地よくて頬を擦り寄せて甘えた。
「いいの…累がいてくれたらそれだけで…いいの」
そう言うと累が突然私にキスをした。深いキスをしてきた。
「結菜はわかってないよ。俺は酷い男だ。病み上がりの結菜に酷いことしようとしている」
キスの合間にそう言うと、累は結菜のパジャマのボタンを外し始めた。
「累…いいよ…」
私は累の背中に手を回して2人でシングルベッドに入り込んだ。
それからしばらく後、私は体から力が抜けてウトウトとまどろんでいた。
しばらくするとシャワーを浴びていた累がお盆にお粥を乗せて部屋に入ってきた。
「お腹空いたでしょ?これ食べて」
私は慌ててブラをつけてパジャマを着ると持ってきてもらったお粥を受け取ってお粥を一口食べた。
「あったかくて美味しい」
「よかった。おかわりもあるからね」
累は優しい瞳で私を見つめていた。その瞳が私をソワソワさせる。愛し合うたびにさらに好きと言う感情が増していく。何回してもなれなくて、終わった後はまともに累の顔を見られないのだが、累はそんな私の反応が可愛いと言って喜んでくれるのが救いだった。
「ねえ累…あのね…私累のこと大好きだけど、その…ああいうことには慣れてなくて…ごめんね」
「謝る必要はないよ。慣れてない方が可愛くていい。ずっと慣れないで。今のままいてくれたら嬉しいよ」
累はそう言って私の頬を撫でた。
「そっか…無理しなくていいんだね…よかった」
私は累が初めての人なので普通がどうなのかわからないけれど、きっと累は優しいんだと思う。それに、無理に慣れなくていいと言ってくれるのも助かる。だって慣れるには時間がかかりそうだったから。
幸せな時間ではあるけれど、終わった後の気恥ずかしさはどうしても慣れない。
「あ。おかゆ全部食べたんだね。おかわりいる?」
累に声をかけられて黙々食べていたお粥が空っぽになっていることに気がついた。
まだお腹が空いていたから私は累におかわりをお願いすると体温を測る。36度5分。完全に平熱に戻っていた。
(明日からは仕事に戻れそう。今はまだ時間も早いし、寂しいけど累も仕事があるからお泊まりはおしまいかな)
そう考えていると今度は梅干しを乗せたおかゆを持った累がきてくれた。
「さっきと少し味が違う方がいいかと思って。どう?食べられそう?」
「うん!私梅干し大好き。ありがとう累」
「よかった。じゃあこれ食べて、食べ終わったらシャワーしよう」
「ふふ。なんだかお母さんみたい」
私は累があまりに甲斐甲斐しく世話をしてくれるのでつい笑ってしまった。
累は微笑んで“それもいいかもね”と笑い返してくれた。
シャワーから出ると累は帰り支度をしていた。
「そっか。もう帰っちゃうんだよね」
「ごめんね。もっといてあげたいけど結菜も明日から会社だし、俺も新入社員の教育をしないといけないから。今週末のパンケーキ。予約取れたから食べにいこうね」
「本当!?すごい累!楽しみに仕事頑張るよ」
私がガッツポーズを取ると累は私にデコピンをした。
びっくりしていると累は優しい口調で言った。
「過労で熱が出たのにがんばっちゃダメでしょ?ほどほどにね」
そうだった。過労で熱が出たのをすっかり忘れていた。つい頑張るが口癖になっていたからそう言うところから直していかないとまた倒れることになる。私が倒れたら周りにも迷惑をかけるし、これからは働き方をセーブしようと心に決めた。
「私、頼まれたらなんでも受けちゃってたけど、これからはちゃんと断るよ。でないとまた倒れちゃうからね」
私がそう言うと累はうんうん頷く。私がようやく納得したので安心したのだろう。もう累に迷惑をかけないように働き方を工夫しようと心に決めた。
「さてと。そろそろいい時間だから俺はもう帰るね。戸締りしっかりするんだよ?」
「わかった。ちゃんと鍵をかける。チェーンもね」
「よろしい。じゃあ週末にね」
累はそう言うと鞄を持って玄関に向かった。その背中を見て私は思わず抱きつく。子供みたいに甘えてしまって少し恥ずかしいけど、1秒でも長く累と一緒にいたかったのだ。
「結菜…こんなことしちゃダメ。帰りたくなくなっちゃうから」
「ごめんね。でもちょっとだけ。週末まで会えないから。ちょっとだけぎゅってさせて」
私は累の逞しい背中に顔を埋めて累の優しい体温を感じて心を落ち着けようとした。すると累は振り返って私を優しく抱きしめてくれた。
「大丈夫。すぐ会えるから。ね?だからいい子でいて。今日はここでお別れだけどまた会えるんだから」
「うん…ありがとう。累…大好き」
そう言って私達はしばらく抱きしめあった。