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第131話 世良

「実は俺の女性不信は母親が原因で…。俺母子家庭なんですけど、母親が男を取っ替え引っ替えしていたのをみて育っていたから女の人に対していい印象は持っていなかったんですよ。でも高校の時、好きになった女の子と付き合うことになって、俺なりに大切にしていたのですが、俺の親友とセックスしているのを見てしまって。俺、怒ったんですけど彼女は逆に俺のことなじってきて。どうも付き合って長いのに一向に手を出さないから不安になったところを相談していた親友と流れでそう言う関係になったらしく。親友と彼女を一気に失ったんです」


「それは…大変だったね」


 愛花は気の毒そうに言ったが世良はまだ喋り続けていた。


「次にできた彼女も数ヶ月付き合った後、5股されて俺は末端扱いだったことがわかって…。どうも俺のことは見た目が綺麗なアクセサリー感覚だったから全然好きじゃなかったそうなんです」


「アクセサリー」


 私も言葉を失った。彼の女性遍歴はあまりに不遇すぎる。愛花も同じでどう言ってあげたらいいのかわからないらしく言葉に窮していた。


「すみません。重い話をしてしまって。でも話せたことで少し気持ちが楽になりました。今まで誰にも言えず、ずっと溜め込んでいたので」


 世良はさっぱりとした表情でようやく荷が下ろせたという顔つきをしていて、確かに重い話ではあったが聞いてあげることができてよかったと思えた。


「そっか。大変だったんだね、でも世の中にはそんなにひどい人ばかりじゃないよ。結菜みたいなお人よしだっているしね」


「そうですね。泉川先輩が二人いたらよかったのに」


「ん?」


「いえ。なんでもないです」


 ちょっと不穏な発言に私と愛花は顔を見合わせた。


「ちょっと…もしかしてあんたまた?」


「私何もしてないよ!」


 ヒソヒソと二人で話していると世良が遠慮がちに言った。


「あの…泉川先輩のお友達で独身の方っていらっしゃいますか?泉川先輩の友達ならもしかしたら…と思うのですが」


 世良が真剣に聞いてきていたので色々と考えを巡らせたが、いいと思う子には彼氏や旦那がいて独身や独り身の子は性に奔放で世良におすすめできる人はいなかった。


「ごめんね世良君。今思いつく人いないなあ」


「そうですか。残念です」


 世良は対して残念そうではなくそう言った。

 でも彼の心の傷は深そうなので私は一ついい案を思いついた。


「ねえ世良君、もしよかったらセラピー受けてみない?知り合いにお医者様がいるから仲間でいい人を紹介してもらえるかもしれないの」


「本当ですか?それなら受けてみたいです」


「わかった。ちょっと待っててね」


 私はドキドキしながら久しぶりに良平にLIMEした。セラピーを受けたい後輩がいること、いい医師がいたら紹介して欲しいことを入力して思い切って送信を押した。

 しばらく後、良平から医師の名前とHPのアドレスが送られてきた。そこにはメッセージで“貸し1”と書かれていた。


「今HPと先生の名前を教えてもらえたよ。世良君のLIME教えてくれたら送信するから連絡先交換しようか」


「ありがとうございます」


 そう言って世良とLIMEを交換すると、世良は早速HPをチェックしていた。


「あの…泉川先輩。俺一人だと不安なのでできれば一緒に来てもらえませんか?」


「いいよ!少しでも力になれたらいいんだけど」


「じゃあ予約できたらお伝えします」


 そう言うと世良は嬉しそうに微笑んだ。


「あ!そろそろ帰らないとお昼休み終わっちゃう」


 私はスマホの時計を見て慌てて残りのご飯をかき込んだ。


支払いを済ませて店から出ると夏日の外はむわりと暑く、まだ長袖を着ていた三人は暑さのあまり腕をまくった。


「あっつ〜。こんなに暑いなら半袖着てきたらよかった」


「だね。完全に洋服間違えた」


 私が言うと世良は私を見る。


「泉川先輩の半袖姿見るの楽しみにしています。肌が白いから淡い色が似合いそうですね」


 確かに私は淡い色が好きだがそんなことを言われると少し戸惑う。だから私は曖昧に微笑んで何も答えなかった。


 午後の業務が終わり、定時で上がろうとすると世良が駆け寄ってきた。


「泉川さん同じ線ですよね?駅までご一緒させてください」


 キラキラした笑顔で言われるととても断れずに一緒に駅まで歩くことになった。


「世良君女の人苦手なのに私と一緒で本当に大丈夫?」


 心配そうにするが世良の顔色はよかった。むしろ紅潮していて、生き生きと輝いて見えた。


「いえ。泉川さんと一緒にいると心が和むんです。今までこんなこと感じたのって初めてで…。泉川さんが指導係になってくれてすごく嬉しいんです。これからもよろしくお願いします」


 世良はキラキラした笑顔で私にそう言う。

(まずいことになってない?もしかして…いや。でも私の思い過ごしという可能性も)


 今までの経験から言うと、世良君に惚れられた可能性があるが、もしかしたら勘違いで先輩として尊敬しているとかだったら恥ずかしいし、取り合えず牽制の意味もかねて累の話をふることにした。


「そう言えば、私今週末から彼と同棲することになったから一緒に帰れるのも後少しかな」


 そう言うと世良は明らかにがっくりした様子で呟く。


「そうですか…彼氏さんとはそこまで深い仲なんですね」


(危ない。やっぱりそうだった。累の話をしてよかった)


 だけど方恋されている状態で研修やセラピーの付き添いをして大丈夫だろうかと今更ながら不安になったのだった。


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