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第133話 付き添い

 翌日会社に行くと世良が笑顔で挨拶してきてくれた。


「昨日予約をしたのですが、来週末の10時からです。でもいいんですか?彼氏さんも同伴してもらって」


「うん。待合室で待ってるだけだから大した負担ではないよ」


「それでも嬉しいです。一人で病院に行くの…勇気がいったので」


「それならよかった」


 私は世良に微笑むと今日の業務について説明を始めた。

 引き継ぎは順調に進んでいる。私が教えたところはすでに一人で業務をこなしているからやはり世良は優秀だった。


「世良君は本当にすごいね。すぐに昇進して私より上にいっちゃいそう」


「そんな…泉川さんの教え方がいいからですよ。俺の実力ではありません」


(謙遜して。本当に世良君はきっと昇進してこの部署からもいなくなちゃうんだろうな。私が世話した人が昇進しちゃうのはちょっと嬉しいかも。頑張って指導しないと)


 わたしは決意を新たに業務の指導を進めた。


「ここがわからないのですが…」


 世良は椅子をカラカラと私の椅子に近づけて業務について質問してきた。その時膝と膝が触れ合って世良は顔を赤くして咳払いする。


「泉川さんすみません。ちょっと近すぎましたね」


「ふふ、そうだね。どこがわからないの?」


 私はさしてきにも止めず、業務の指導をしていたが、世良はせつなげな表情で私を見ていた。


「どうしたの?何か心配事でもあるのかな?」


 私が聞くと世良は顔を真っ赤にして言った。


「なんでもありません。大丈夫…です」


 わかりやすく照れられてしまうと私は正直ちょっと困った。でも昨日彼氏と同棲すると牽制しているので大丈夫だろうとタカを括っていたのでその後も世良が軽く手を触れ合わせたり、ピッタリくっついて動いたりすることも気にしないでいた。


(きっと雛鳥が親に甘えるように私に甘えてきてるだけだから。あまり気にしないでおこう)


 そう思うと私は無心で業務の引き継ぎを行った。


 お昼休みになると世良はまた一緒に食事を従ったが、男の先輩に誘われたのでそっちに行っておいでと送り出してわたしは愛花と二人で今日はカレー専門店に来ていた。インド人の店主が経営している本格的なそのお店はとても美味しくてお気に入りだった。


「それにしても世良君結菜にべたぼれだねえ」


「うう。やっぱりそう?私の思い違いであってほしいと思っていたんだけど、こうもアピールされると…」


「累さんとの同棲の話はしたの?」


「昨日ね。それでもこうだからもう気にせずかわしていくことにしたんだよ」


「そっかあ。かなりご執心なんだね。まあ今までの女性遍歴を考えると、優しくて可愛い結菜に惚れるのもわかる気がするけど」


「ええ!私そんなに可愛くないよ。普通で地味顔だし」


「あんた今までそんなこと思って生きてきたの?鏡ちゃんと見てる?結菜は可愛い部類に入るからもうちょっと自分のこと客観視した方がいいよ、ちなみに私はちゃあんと客観視してるから美人でも人を寄せ付けないオーラ出して栄一筋でいけてるからね」


「愛花はすごいなあ。尊敬する」


「だいたい結菜は誰にでも優しくしすぎるのがダメなんだよ。勘違いさせて可哀想に」


 愛花は累と同じことを言った。やはり私は人に手を差し伸べすぎなのだろうか。だけど困っている人がいたら助けずにはいられない。そういう性分だから仕方ない。


「だって、困っている人がいたら助けないと…私もいろんな人に助けてもらって生きてるから他の人に恩返しをしているつもりなんだけどな。両親には誰かに助けてもらったら代わりに誰かを助けてあげなさいって言われて育ったし」


「ああ。ご両親の教育のせいなのね」


 愛花はようやく納得してくれたようだった。私が誰彼構わず助けるのが不思議だったのだそうだ。


「そういえばお母さんもお父さんも今でもモテてお互い相手を牽制するのが大変だって言ってたなあ」


「親に似たんだね。結菜」


 愛花は呆れ笑いをしながらナンを契ってカレーにつけて食べる。

 私もナンをカレーにつけて食べた。スパイシーな香りと味でとっても美味しい。


「ん〜美味しい。悩んでる時は美味しい料理を食べるに限るね」


 私が言うと愛花も同意してくれた。


「それにしてもセラピーにも付き添い行くんでしょ?あれはどうなったの」


「それがね。累もいくことになって」


 私が言うと愛花はまた呆れた顔をした。


「大の大人に二人も付き添いってどうなの?世良君ちょっと甘えすぎじゃない。断った方がいいんじゃないの?」


「そうも考えたんだけど、そしたら世良君セラピーにも行かない可能性があるから、ちゃんと行ったか見張ってたいんだよね」


「お母さんか」


 愛花は呆れてまたカレーを食べ進める。

 時計を見ると話し込んでいたからだいぶ時間が経ってしまっていたので、私と愛花葉は急いでカレーを平らげた。


 オフィスに戻るとすぐに世良が走り寄ってきて業務の引き継ぎをしてほしいと訴えてきたので、午前中の続きを教えることになった。周りは世良が私に懐いていることを微笑ましく見ている様子だったのだが、私は心中複雑だった。


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