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第136話 ちゃんと

 しばらく待っていると累がシャワーを浴びて上半身裸のまま頭を拭きながら出てきた。


「結菜の髪の毛乾かしてあげるからこっちにおいで」


 ソファの端っこに座っていた私に累はドライヤーを持って手招きしたので私は累の懐に潜り込んで後ろを向く。


 累は私の髪が絡まないように丁寧にブローしてくれる。その優しい手つきが気持ちよくて私は目を閉じて累の手つきに集中した。


「痛くない?」


「ううん。気持ちいいよ」


 累はいつもそうやって気遣ってくれるけれど一度だって髪を引っ張られて痛い思いをしたことはなかった。


「累は髪の毛乾かすの上手だね」


「そうかな?結菜に痛い思いさせないように気をつけてるだけだけど。そう思ってくれているなら嬉しいな」


 累は仕上げにブラシを使って形を整えるようにブローしていく。そうして累がブローしてくれると髪の毛がサラサラになるので私は毎回感嘆の息を漏らす。


「累すごいなあ。私自分でやったらこんなにツヤツヤの髪の毛にならないのに。何かコツでもあるの?」


「コツというか。温度を上げすぎないで丁寧にブローしたらこうなるよ。結菜はもしかして最大の温度でやってる?」


「うん。早く乾かしたくて」


「はは。それで髪がびっくりして固くなっちゃうんだよ。低音でじっくり。今度試してみて」


 累は私のそばから身を離し、ドライヤーを置きに浴室へと歩いて行った。

 そして戻ってくるとまた私を背中から包み込むように抱き抱えると頭に顔を埋めて甘えるようにすりすりとほおを擦り付けた。


「結菜の匂い安心する。これからは毎日こうしていられるんだね。嬉しいな」


「ふふ。流石に毎日は無理でしょ?お互い仕事が忙しいんだから」


「そうだね、でも時間を作って2人で食事したり会話したり、こうやって髪の毛を乾かしてあげたいんだ」


 累は私の髪の毛を一房とってキスをした。

 愛されているという実感が湧いてきて私はなんだかソワソワした。

 でも一方的に愛されるのもよくないと思ったので私も累の胸に頭をもたれ掛からせるとすりすりと逞しい胸に甘えた。


「コーヒー。淹れるの上手になったね。美味しいよ」


 累はコーヒーを飲むと私を褒めてくれる。私も飲んでみたけど、昔に比べたら幾分かマシになっていた。最初の頃は本当に薄くてお湯みたいなコーヒーしか入れられなかったから大進歩だ。これで累が仕事に疲れた時にコーヒーを淹れてあげられるようになったことが嬉しかった。


「ふふ」


 私は嬉しくて笑うと累は不思議そうに首を傾げる。


「何かいいことでもおもいついた?」


「ううん。美味しいって言ってもらえるコーヒーを淹れられるようになったから。子から累が仕事に疲れた時は私がコーヒーを淹れてあげられるのが嬉しくて」


私がそういうと累はまた甘い空気を出して私からコーヒーを取り上げると机に置いて私を抱きしめ始めた。


「累…苦しいよ」


 お互いの隙間がないくらいきつく抱かれて私がくすくす笑いならが訴えると累は甘い声で答えた。


「だって結菜が可愛いこと言うから。どれだけ俺のこと好きにさせたら気が済むの?」


「そんなこと…でも嬉しい。累に好きって言ってもらえるの大好き」


 そう言うとまたさらに力強く抱きしめられる。流石に苦しくてもがくと累は手を緩めてゆったりと私を胸の中に閉じ込めた。


「いつまでもこうやって結菜を閉じ込めていられたらいいのにな」


冗談じゃなく本気でそう言っているのがわかると私はくすくすと笑った。


「カゴの鳥じゃないんだからそれは無理だよ。私は閉じ込められるのは好きじゃないな、広い世界を見ながら累と一緒にいたい」


「そうだね、俺もそんな結菜が好きだよ。羽ばたいて、広い世界で傷ついても、めげずに頑張る頑張り屋さんな君が好きだ」


累はそう言うとつむじにキスをしてほっぺをぷにぷにと触る。


「ちょっと〜!やめて」


「だって結菜のほっぺが柔らかそうで美味しそうだな〜って」


 そう言うと累は私のほっぺにガブリと噛み付いた。


「ひゃ!」


 私が驚くと累はくすくす笑う。痛くないけどほっぺを噛まれるなんて思ってもみなかったので驚いた。


「もう!驚いたよ!ほっぺに噛み付くなんて動物みたい」


「ごめんごめん。だってあまりに美味しそうだったからつい」


 累は猛禽類みたいな目で私を見る。そんな目で見られたら、私はかられるのを待つ小鼠のようになってしまった。


「累はいつも私のことを驚かせる…わたしもたまには累のこと驚かせたいなあ」


「いや。結菜には俺の方が驚かされてるよ。どんどん結菜のこと好きになる男が現れて俺はその度に肝を冷やしているのがわからない?」


「あう…それは…ごめんなさい」


 素直に謝ると累は私を撫で回した。


「素直でよろしい。でも本当に。俺のこともっとしっかり見て。俺が好きなのは結菜だけだし、結菜にも俺のことだけ思って欲しいんだ。お願いだよ」


「私は累のことだけしか好きにならないよ。こらからもずっと。忘れていた時期は本当に申し訳なく思っているけど、今はちゃんと累のこと好きでいるから。だから安心して」


 そう言うと累は私を抱きしめた。



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