目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第138話 本性

 食事を終えて私と累は近くの公園に来ていた。今ちょうどツツジが見頃でカラフルな花が目に優しい。

 手を繋いで歩いていると前方から見知った人が歩いてきた。


「あ!泉川さん」


「え!?世良君なんでここに?」


「実は実家がこの近くで、一人暮らしをしていたんですけどお金を貯めたくて実家に戻ったんです」


 私はヒヤヒヤした。隣の累の機嫌が悪くなっているのがわかったから。


「あ!世良君、紹介するね。婚約者の沢村累だよ」


「え?婚約?彼氏さんじゃなくて…ですか?」


 世良が不思議そうに聞くと累は少し嬉しそうに言った。


「婚約者の沢村です。世良君今度セラピー一緒に行くことになってるのでよろしくね」


「はい。よろしくお願いします。かっこいい人ですね」


 世良は嫌味なく累のことを褒めた。私は内心ヒヤヒヤしながら早く世良が去ってくれることを願ったが、願い届かず、世良は累に話しかけ始める。


「でも本当に偶然ですね!泉川さんのお家が近いなんて嬉しいな。そうだ!電車も同じですよね?一緒に通勤しませんか?」


 それを聞いた累はイライラしているようだった。私は内心ヒヤヒヤしながら言った。


「それは難しいかな。わたしも婚約者がいるし変な誤解されたくないから一緒にはいけない」


 キッパリと断ると世良は残念そうにしたがすぐに切り替えたようでニコッと笑った。


「わかりました。じゃあ“偶然”一緒になったらその時は一緒に通勤しましょうね」


 にこりと笑った世良くんは少し仄暗い目をしていてゾッとした。


「じゃあ俺たちはもう行くので、さようなら」


 累は私の手を引いて世良からどんどん遠ざかっていったが、世良はずっとこちらを見つめていた。


「あいつは俺と同類だ。セラピーの話は断って。仕事の会話以外も控えて」


 累はそう言うと世良が見えなくなるくらいまで遠くに来ると私に向き直った。


「世良は危険だ。実家がこっちと言うのも本当か怪しいし結菜のことを見る目が俺が結菜のストーカーをしていた時の目と同じだった。自分を見ているようでゾッとしたよ。お願いだからあいつには関わらないで」


 累は真剣な顔と声で私に願ってきた。私も先ほどの世良は少し怖いと思ったので累に同意した。


「うん…世良君…ちょっと危うい感じだったもんね。仕事以外では関わらないように気を付けるよ」


 それから私はLIMEでやっぱりセラピーには一緒にいけないことを書いて送った。

 返信はすぐにきたが、“わかりました”という短文だけだった。


「はあ。結菜はどうして俺も含めて変な人にばかり好かれるんだ?まともだったのって良平くんくらいじゃない?」


「そうだね…どうしてだろう」


 私は途方に暮れた。これから毎朝どうやってやり過ごせばいいのか。時間をずらすにしても世良が何時のどこに乗るのかわからないので難しそうだった。そもそもつけられていたら防ぎようがない。


「しばらくは俺が車で職場まで送るよ。と言っても俺もいつも送ってあげられるわけじゃないし…困ったな」


「迷惑をかけてごめんね」


 私はしょんぼりして謝ると慌てて累は私を抱きしめた。


「怒ってるわけじゃないよ。結菜が心配なだけなんだ」


「累…。ありがとう…。私が招いたことだからなんとかしたいけど、今の私では何もできないみたいだから。助けてほしい」


「まあでも俺と同居するタイミングで本性を表してくれてよかった。結菜の実家で1人の時に本性を出されてたら守れなかったから」


 その通りだった。世良はこの世に普通に触れ合えるのが私だけだから運命を感じているのかもしれないが、私には累がいる。先ほど婚約したと言っても何も反応しなかったのがなんだか怖かった。


「とにかく、あいつはなんだか危ういから結菜は絶対1人で行動しないで。仕事が終わっても車で送迎できない時は駅まで迎えに行くから」


「うん。はあ。私っていつもなんでこうなっちゃうんだろうね。前世よっぽど悪いことしたからその罰でも受けてるのかな」


「結菜あまり落ち込まないで。俺がいるから。ね?」


 そう言って累は私の背を撫でてくれた。そうすると動揺していた心が少しずつほぐれていった。

(まさか人生で2回もストーキングされるなんて。しかも今度は全然気がない人に…正直かなり怖い。累のことも心配だし…何事も起こりませんように)


 私はただそう願うしかできなかった。その後、気を取り直して近所の喫茶店に入ると気持ちを切り替えるためにも可愛いソーダフロートを注文して無理をして笑って食べた。累は全てお見通しだったらしく、無理しなくていいよと言ってくれたが、無理にでも笑っていないと、怖くて立っていられたかったのだ。


家に帰るとポストに宛先のない手紙が入っていた。累が警戒しながら開封するとそこには私の隠し撮り写真がたくさん入っていて、“いい写真が撮れたので贈ります”と書かれたメッセージカードが添えられていた。





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?