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第157話 身に覚えは?

「あのね。その年下に告白されたのは誰?」


「ぐっ…」


 今は累の会社で働いている工藤に告白された時のことを思い出した。


「あれがは…うん…そうだね」


 確かに好きだと言われた。彼に恋愛感情を向けられたのは間違いない。だいぶ年下なのにどうしてこんな年上女をと不思議に思ったのだが、累は原因がわかっている様子だった。


「あのね。今時可愛くて親切な人って珍しいの。結菜は持って生まれた柔らかい雰囲気が見ていて落ち着くし、毎朝見てたら俺だって恋しちゃうよ?工藤君には厳しめに俺の結菜に手を出さないように言ってあるけど、今回の彼にも俺も一緒に行って結菜は売約済みですって宣言しないと不安だよ」


(そっかあ。私累のこと不安にさせていたんだ…)


 逆に考えてみると確かにモヤモヤ案件だったので、私は早速榊に連絡を取った。



『今度のスイーツパラダイス。彼氏も一緒に来たいと言っているのですがいいですか?』


 もし榊が私に気があるとしたらこれはかなり残酷なお願いだろう。でも榊はすぐさま返信してくれた。


『大丈夫です。俺は甘いものが食べられたらそれでいいので』


(やっぱり下心ないじゃない!累は心配性だな)


「累。榊さん一緒に来ても大丈夫だって。ほら!やっぱり下心なんてなかったんだよ」


「結菜…」


 累はどこか呆れたような諦めたような顔をして私を見ていたが、土曜日のスケジュールを確認して問題なかったので同伴することになった。


「はあ。モテる彼女がいると気が休まらないよ」


 ぼやく累に私は思った。どっちかというと累の方がモテるのに。と。


「今俺の方がモテるのに…って思ったでしょ?」


 じろりと怒ったようにわたしをみる累に私は慌てて誤魔化す。


「そんなこと…思ってました。ごめんなさい」


「全く!別に結菜が悪いわけじゃないし、自然とひきよせちゃうから仕方ないけど、やっぱり仕事を辞めて家に入ってくれない?全く気が休まらないんだけど」


 累は結構真剣にそう提案してきたが私は仕事を絶対に辞めたくなかったので首を横にふる。


「それは嫌。私の生き方を尊重してくれない人とは一緒にいられないよ?」


「ずるいよ結菜」


 私に嫌われることを嫌がる累に悪いけど、ここだけは譲れない。自分を保つためにも絶対に仕事を辞める選択肢はなかった。


「でもさ。子供が生まれたら?それでもまだ仕事を続けるの?」


 私は沈黙する。まだ結婚もしていないのに子供のことなど全く考えていなかったから。


 きっと子供が生まれたら可愛くて離れたくなくなって、その時は仕事を続けるか考えてしまうかもしれない。でも今は産休や育休など、うちの会社は制度が整っているからママさん社員も多い。


(今度ママさん社員の人に話を聞いてみようかな)

 私はそう考えながら累の疑問に答える。


「う〜ん。正直子供のことは考えてなかったな。累は結婚したらすぐに子供が欲しいの?」


「もちろんだよ!結菜との子供だからきっと可愛いだろうな」


 累は夢見るようにうっとりと微笑む。

 自分では叶えられなかった幸せな子供時代を自分の子供には与えたいのだろう。


「うん。じゃあそのこともしっかり考えるよ。二人の問題だもんね。でもその前に結婚をどうするか…そのことについてちょっと考えてみようか」


 私は兼ねてからの問題でずっと放置していたものを話題に上げた。すると累の顔つきが変わる。


「うん…俺は結菜を結婚したい。今すぐにでも。そうしないとまた結菜がどこかに行ってしまうんじゃないかって心配なんだ」


 累は思っている以上に私が累から離れることを心配しているらしい。

(大丈夫なのに。やっぱり色々あったから不安なのかな)


 私には思い当たる節がありすぎなので、累のことを心配にさせていて申し訳なく思った。


「じゃあ、これからは前向きに結婚について話し合おう。式は?私は結婚式はしなくていいと思ってるけど、どうしてもっていうならハワイとかで二人で式をあげたいな。ロマンティックじゃない?」


 これは累のことを思って提案したことだった。でも二人で神聖な式を行うのもいいなと思っているのも事実。それをきいて累はその場面を想像したらしくニコニコと微笑みかけてくれる。


「結菜の綺麗な姿を独り占めにできるのは嬉しいな。うん。そうしようか」


 案外あっさり決めてくれて私は驚いたが、同時にほっとした。私の意図には気づいていない様子だったから。


「じゃあ今度海外で式をあげる人向けのサービスがないか調べてみようか」


「うん!私も調べてみるね」


 本当はお父さんとお母さんに助けて貰えば簡単に済むことなんだけど、今回は自分たちでした方がいい気がしてそのことは言わなかった。

 私はあまり式に興味がないので本当は写真だけでも良かったけど、累はちょっとそういうのに憧れている様子だったので、今回の提案をした。


「ドレスはどんなのがいいかな。ふわっとしてるのも素敵だけど、シンプルにマーメードラインのものも素敵だよね」


「レンタルと購入もどっちがいいか悩むね。記念になるから俺は購入がいいなあ」


「でも管理が大変じゃない?」


「いいんだよ。結菜のものだったら俺がちゃんと管理するから…だめ?」


 累は懇願するように見つめてきたので、私は困った顔をしつつ頷いた。

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