目次
ブックマーク
応援する
13
コメント
シェア
通報

第84話また調査の季節がやってきた04

ライカが気配を読みながら、慎重に進んで行く。

やがて、ライカが、

「ぶるる…」(そろそろ近いかも…)

と言ったところで、やや木々の感覚が広くなった林のような場所に出た。

(欲を言えばもっと開けたところがいいが…)

と思いつつも、

「よし、少しここで待ち受けよう。馬たちを一か所にまとめてくれ」

と言って、さっそく戦闘態勢を整える。

ライカが馬たちに落ち着くよう声を掛け、ベル先生が弓を手に取りそれを守るような位置についた。

私たちも、ベル先生を守るような位置につき、静かにその時を待つ。

そして、しばらくするとライカが、

「ひひん!」(来るよ!)

と鋭い声を上げた。

全員の顔に緊張が走る。

私は迷いなく刀を抜き、集中して魔力を練っていった。


やがて、森の奥からギャァギャァという鳴き声が近づいてくる。

(なにが出てくるんだ?)

と緊張しながら油断なく周囲を見渡していると、遠くからいくつかの黒い点が近づいて来るのが見えた。

(なんだろうか…)

と思って目を凝らす。

しかし、その黒い点はかなり素早く、なかなか正体がつかめない。

私が、

(おいおい。本当に何なんだ?)

と少し焦り気味にその黒い点を追っていると、私の後から、

「ちっ!猿じゃ!かなりすばしっこいから気をつけろ。力はないが時々物を投げてきよるからな。油断するでないぞ!」

とベル先生がいかにも苦々しいという感じでそう声を掛けてきた。

(猿だと!?そんな魔獣が出るなんて聞いたことがない…)

と驚愕しつつも、

「落ち着け!」

と大きな声を出す。

その声に驚いてこちらを振り返った「旋風」の3人に向かって私は、

「物を投げてくるしすばしっこいなら盾が有効だ。ザイン。2人をしっかり守ってやれ」

となるべく落ち着いてそう声を掛けた。

「おう」

とザインが短く返事をする。

その返事に私は軽くうなずくと、今度はミーニャの方に視線を向けた。

「速さで対抗しようと思うな。じっくり待ち構えて確実に倒して行こう。後にはベル先生がいる。心配無用だ」

と、落ち着いて、なんなら少し微笑みながらそう声を掛ける。

するとミーニャも少し微笑んで、

「了解です!」

といつものように明るく答えてくれた。

(よし。みんな大丈夫だな…)

と安心して、自分も目の前の敵影に集中する。

猿たちは相変わらずギャァギャァとうるさい鳴き声をあげながら、かなりの速さでこちらに向かってきていた。

「ふぅ…」

と一つ息を吐いて、気を引き締める。

そして、ゆっくり魔力を体全体に巡らせると、私は身体強化を使って一気に前に飛び出していった。


「ギャァ!」

と吠えながら猿の魔獣が向かってくる。

私はそれに迷わず刀を振るうと素早く素早く飛び退さった。

先程私がいたところに何やら石のようなものが降って来る。

ふと石が飛んできた先に目をやると、枝の上に石を持った猿の魔獣がいて、こちらを睨みつけていた。

(なるほど。これは厄介だ…)

と思いつつ、素早く動く。

また飛んでくる石を何とかかいくぐり、私は適当に目についた細い木を根元から一気に斬り払った。

(いつも伐採で練習していた成果がこんなところで出るとはな…)

と心の中で苦笑いしつつ、やはり素早くその場から飛び退さる。

すると私の視線の先では何匹かの猿の魔獣が慌てたような声を上げつつ、地面に叩きつけられていくのが目に入った。

(よし。とりあえず次!)

と目標を変えてまた駆けだす。

猿の魔獣はかなり怒ったようで、どうやら私の思惑通り私を一番の敵とみてこちらに一斉に襲い掛かって来た。


(チンパンジーよりは少し小さいか?)

と相手を冷静に観察しつつ、地上からも頭上からも襲ってくる猿の魔獣を的確に斬っていく。

やはり頭上からの攻撃は面倒くさい。

そう思って私は猿の魔獣の相手をしつつも、その隙を縫ってまた何本かの木を斬り倒した。

(よし。これで少しは戦いやすくなったな)

と思いつつ、ぽっかりと空いた空き地の真ん中に堂々と陣取る。

そして、いつの間にか私の周りをぐるりと取り囲んでいた猿の魔獣どもに一瞥くれると、一瞬目を閉じて、

「ふぅ…」

とひとつ息を吐いた。

後方から飛び掛かって来る気配がする。

私はそれに振り返ることなく刀を出すと、私の後で、

「ギャッ!」

という短い悲鳴が聞こえた。

その悲鳴を合図にまた、

「ギャァギャァ!」

といううるさい鳴き声が響き、次々と猿の魔獣が飛びかかってくる。

私はそれを、

(そうだ。そのまま私に食らいついてこい…)

と思いつつ、冷静に捌いていった。


どのくらい時間が経っただろうか。

先程まであんなにもうるさかった猿の魔獣の声が聞こえなくなっている。

私はふと気を緩めて周りを見てみた。

「てやぁっ!」

と後方から声がしてシルフィーが剣を振っている。

どうやらこの群れのボスらしい少し大きな個体がその剣の前に倒れた。

(終わったようだな…)

と思ってさらに周りを見渡すと、辺りにはかなりの数、猿の魔獣が倒れていた。

中には矢が刺さった個体もいる。

(ベル先生もずいぶんと頑張ってくれたみたいだな)

と思いつつ周りの状況を見ていると、

「お疲れ様でした、ルーク様!」

と元気な声を掛けながらミーニャがこちらへ小走りにやってきた。

「ああ。おつかれ」

と声を掛け返して、手と手を軽く打ち合わせる。

そして、私とミーニャが軽く微笑み合うと、そのまま「旋風」のもとに向かった。

「はぁ…はぁ…」

と肩で息をしているシルフィーに、

「お疲れだったな」

と軽く声を掛ける。

すると、シルフィーは私に軽くにらむような目を向けてきた。

その視線の意味に「?」と疑問符を浮かべていると、

「うふふ。いきなり木が倒れるんですもの。びっくりしちゃいましたよ」

とリーシェンが困ったような笑顔を浮かべてそう言った。

「ああ。咄嗟に思いついたんだ…。すまんな」

と頭を掻きつつ軽く謝る。

そんな私の言いぐさがおかしかったのか、先ほどまで軽くにらむような視線を送って来てたシルフィーが、

「ふっ」

と軽く笑って、

「あんた何者だい?」

と笑いながら右手を差し出してきた。

「ははは。何者なんだろうな」

と笑いつつ、その手を握り返す。

そして、私たちは軽くお互いの健闘を称え合った後、ベル先生や馬たちのもとへと歩み寄っていった。


「ひひん!」

「きゃん!」

と鳴いて、ライカとコユキが私に甘えてくる。

「ははは。もう大丈夫だぞ」

と言いながら2人を撫でてやると2人とも嬉しそうにまた、

「ひひん!」

「きゃん!」

と声を上げ、さらに私に頭を擦り付けてきた。

そうやって2人を撫でてやりながら、

「助かった。ありがとう」

とベル先生に声を掛ける。

そんな私にベル先生は軽く苦笑いを浮かべながら、

「なに。こっちは楽なもんじゃったわい」

と割と気楽な様子でそう答えてきてくれた。


とりあえずみんなでお茶にしながら、

「ベル先生は猿の魔獣の存在を知っていたのか?」

とベル先生に話を向けてみる。

すると、ベル先生は、

「ああ。かなり昔じゃがな。森のずいぶん奥で出くわしたことがあった」

と言いつつ、美味しそうに緑茶をすすった。

「そうか。森の奥か…」

と言いつつ私も緑茶をすする。

それに続いて、ベル先生も、またのんびりとお茶をすすりながら、

「何事もなければよいがのう…」

と少し心配そうにそうつぶやいた。

「ああ。帰りもフェンリルの所によって相談してみよう」

と言いつつ私もまたお茶をすする。

そんな一見のんびりした雰囲気の中、私たちはなんとも言えない嫌な予感を感じつつ、まずはひと息ついた。


やがて、お茶を飲み終え、

「お昼は簡単なものでいいですか?」

というミーニャの言葉通り、本当に簡単なサンドイッチをそれぞれが手早く腹に詰め込んでから、後始末の作業に取り掛かる。

猿の魔獣はかなりの数がいたようで、最終的にその数は50ほどになった。

シルフィーが、石ころくらいの大きさの魔石をしげしげと見つめながら、

「こりゃずいぶんと魔石が獲れたね。…しかし、その他は素材になりそうもないな…」

と言って苦い顔をする。

私はそんなシルフィーの言葉に苦笑いしつつ、心の中でそっと、

(これじゃこの森の高付加価値商品とはならんな…)

とやや不謹慎なことを思った。

やがて、猿の魔獣をまとめ終わりいつものように燃やす。

猿の魔獣もゴブリン同様よく燃えて、あっと言う間に灰になってしまった。


「さて。少し落ち着ける場所まで進もう」

とみんなに声を掛けさっそく移動を開始する。

「まったく。辺境ってのは飽きがこないねぇ」

とシルフィーが冗談っぽくそう言って、私たちはさらに森の奥を目指して歩を進めていった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?