寧々ちゃんが作った剣を見ていたら、私ピーンときちゃったよね!
「ねえねえ、もしかしてカスタムクラフトでDEXとMP特化の武器と防具を作れば、安永式クラフト訓練法が一気に効率上がるんじゃないの!?」
ハッとする蓮と寧々ちゃん。私天才かな!? ……と思った瞬間、ふたりは同時にため息をついた。
「ここにミスリルの余りが出てるから実質重さは2キロくらいかもしれないけど、コストが高すぎるよ……」
「今回はミスリルをポンと買うのは見てただけだったけどさ、数百万のものを買うのを癖にするなよ、頼むから。誰が都道府県単位でも一千万以上の武器防具を寄付するんだよ。受け取る側も警備大変になるぞ」
「むう……」
そういえば、ダンジョンハウスで言われたとおり800万のミスリルを躊躇なく買った私を見て、蓮は白目剥いてたっけ。
確かに言われてみればその通りか。いいアイディアだと思ったんだけどなあ。
「私のお金だけで何もかも済むわけじゃないかあ……よし、諦めよう」
「ゆ~かちゃん」
私が諦めた途端、何故か菩薩のような笑みを浮かべた颯姫さんに肩を叩かれた。
「お金ってね、あると思って使ってちゃ駄目なの。私の知ってる冒険者さん、もう引退してるんだけどすっごい強くてめちゃくちゃ稼いでてね。豪邸建てて、欲しかった物はちょこちょこ買ってたみたいだけど、後は年間いくらまでしか使わないって決めて銀行の口座分けてるんだって。老後の資金とかも考えないといけないしって言ってたよ」
「老後の資金……」
うわ、急に生々しい話が来た! 私も「特定の動物園に勤めないでお助けスタッフとかしようかな」なんて思ってたから、将来お給料稼がない前提で考えてたかも。
「冒険者はそりゃ稼げるけどね、何が原因で引退することになるかわからないし」
ライトさんも重々しく言う。うわー、稼いでる人たちが言うと重さが違うね。
……バス屋さんは変なことに使ってそうだけど、一戸建てが買えるくらいは貯めてるんだよなあ。
「……将来モフモフパラダイスを作るために自重します。これからは。
「そうした方がいいよー」
「あっ、そうだ、寧々ちゃんにクラフト代払わないといけないよね!?」
忘れてた! そっちの方が大事だよ。友達でも特殊なクラフトをしてもらったことには違いないんだから、ちゃんと祓わないと。
「あ、待って。私は今回のお話のおかげで一気にLVアップできたし、その結果だからお金をもらうつもりはないの。むしろ私がライトさんたちにレベリング代を払わないといけない立場だから、お礼なら柚香ちゃんからライトさんたちにしてくれないかな?」
寧々ちゃんの目は真剣だった。確かに、前は寧々ちゃんはLV上げに苦労してて、それでSE-REN(仮)の配信にも出たくらいなんだけど。
どうします? という意味を込めてライトさんと颯姫さんを見たら、ふたりは顔を見合わせていた。
「私としては、一度関わっちゃった以上ゆ~かちゃんの問題が片付くまで見守らないと気が済まないし、知らなかったとはいえ相性最悪の横須賀ダンジョンで危ない目に遭わせちゃったていう大ミスもやらかしてるし……。
だから、寧々ちゃんのレベリングについては護衛代とかもらうつもりはないんだよね」
「むしろ、マユちゃんモフり放題でアネーゴにとってはご褒美でした」
いつの間にかまたマユちゃんを抱えつつ、バス屋さんが口を挟む。ホントこの人マユちゃん好きだな!
でも、颯姫さんはそれでいいとしても他の人は?
「俺は、姫がそれでいいならいいと思う。実際今回結構俺たちもLV上がったから」
「……提案なんだけど、この件が片付いたら、Y quartetに新宿ダンジョンの攻略を手伝ってもらうのを対価にしたらどうだろう。今回寧々ちゃんとマユちゃんが思ってたより戦力になって、僕たちも助かったところがあるよね」
「えーっ、タイムさん、それ言っちゃっていいんすか!?」
バス屋さんが慌てたようにマユちゃんをタイムさんにぼふんと被せた。そしてマユちゃんに後ろ足で蹴られて吹っ飛んでる。……そりゃあ、雑な扱いされたらウサギだって怒るよね!
「私は……私は」
颯姫さんは今まで見たことのないような表情で考え込んでいた。いつもは勢いがあってパワフルで、時には冷酷にも見える顔をしたりもするのに、どこか迷子のこどものような頼りない顔だ。
「ライトさんとタイムさんとバス屋と、既に3人巻き込んでるのに、これ以上私の個人的な事に人を巻き込んでいいのかわからない……。レベリングの手助けとしての新宿ダンジョン以外を、見せてもいいのかわからない」
「颯姫さん、新宿ダンジョンの秘密を何か知ってるんですよね? 私の知識から言って、あそこは異常です」
昼に気づいちゃった「電波届かない」という通常のダンジョンではあり得ない事実。それを私が指摘すると、ぴくりと颯姫さんは肩を跳ねさせた。
「……考えさせて。もちろん攻略を助けてもらえれば凄くありがたいとは思うの。でもね……」
「なんでか知らないけど、アネーゴはこれに関してはすっごい優柔不断なんだよなー。そりゃ新宿ダンジョンは特殊すぎるけど、レベリングに関してはウハウハだから、結果的に他のダンジョンで稼げて俺たちもWin-Winなのにさ」
「はぁ~、世の中の人間がみんなバス屋のように単純だったら……」
「世界滅亡する奴だよ、それ」
颯姫さんがため息をついてライトさんが笑うから、なんとなくその件はうやむやになってしまった。
颯姫さんが考えて決心が付いたら、私はいくらでもお手伝いするつもりだけどね。
というか、大丈夫かなあ、あのでかいウサギが街中走って……。洗うのも大変そうだし。
一段落付いたところで、家に残ったのはボイトレをする蓮と、相変わらず幸せそうにヤマトと遊んでる涼子さん。
ヤマトは飼い犬モードの時はなんか仔犬気分が抜けてないように見えるんだよね。育った豆柴なのか、成長途中の柴犬なのか、私が判断に迷う所以。
あ、でも豆柴だとしたらほぼ成犬サイズだから、顔つきとかに幼さが残るヤマトはやっぱり柴犬だよね。うん、うちに世界一可愛い柴犬がいる!
人が大好きなのは、きっと大昔のシロの頃から変わらない本質なんだと思う。害獣や魔性から人々を護り人と共に暮らした「おいぬ様」だし。
今日もドッグランで初対面の子たちと追いかけっこしたりフレンドリーに遊んでたし、今も涼子さんの持ってる綱の反対側を持って首をぶんぶん振って、ひたすら楽しそうだ。
ヤマトとずっと一緒にいたいな。
一緒に朝夕ランニングして、フライングディスクで遊んで、たまにどかーんと突き飛ばされたりするけど、声を上げて笑いながら過ごしたい。
涼香さんみたいにヤマトと親しくしてくれる人と、これからも仲良くしていきたい。
そのためにも、私のことを「
私がヤマトを眺めながらそう決意を新たにしていたら……。
「ユズ~、鞘替わりにするのこの布でいい? それとも新聞紙で紙鞘作る?」
ママがオレンジ色のド派手なサテンを持って来たので、私は思わず崩れ落ちた……。
「いや、鮮やかでいい色だけどさ! 伊弉諾尊の剣の鞘替わりにするには俗っぽすぎない!? 新聞紙の鞘ってのもさすがにどうなの!?」
「紙鞘馬鹿にするんじゃないわよ!? 刀の大敵の湿気を吸うし、本職の鍛冶屋さんが研ぎ師さんに渡すときに使ったりするんだから。インクがやっぱり錆止めに効果的なのよね。前に行った博物館でも加州清光の保管に紙鞘使ってて、私思わず泣いたわよ」
もう、マニアなんだからー。ミスリルだからまず錆びないよ……そういう意味では紙鞘は見た目が物悲しすぎて過ぎて却下。しかたなく天之尾羽張はサテンの布を巻き付けてアイテムバッグに保管することにした。
一段落付いたので彩花ちゃんと聖弥くんには無事天之尾羽張ができたよと写真付けて伝えて、ついでに来週撫子と決着を付けるためにダンジョンに行くつもりだけど大丈夫かと予定を確認する。
ふたりともOKだったので、私はほっと息を吐いてソファに沈み込んだ。
これで、準備はできたよ。
神殺しの剣で、あの撫子と決着を付ける。――まあ、戦うのは彩花ちゃんだけどね。
今から緊張するのを感じながら、X‘s「来週ダン配します」と告知をした。すぐに「大丈夫か?」とか「無理にせんでも」とか私を心配するリプが付いていくけど……ん?
私の数少ないフォローで形成されてるタイムライン、一瞬凄い物を見た気がするぞ!?
慌ててタイムラインを遡れば、聖弥くんの投稿が目に入る。
『アイリちゃんと江ノ島に行ってきました! お約束の南京錠も付けてきました。ずっとふたりで仲良くいられますように』
ええええええ、聖弥くんとあいちゃんがふたりで有名デートスポットで南京錠付けてる写真がアップされてる! てか、あのふたりも江ノ島行ったんかい!
私たちはたこせん食べただけなのに、こっちはラブラブデートか、羨ましい!