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第267話 時間調整が入りました

「強さ的には問題なし、っと。時間は――まあこのくらい誤差でいいっしょ」


 終わったぞーという気分でいる私たちを眺めて、バス屋さんがうんうんと頷いている。

 そういえば、この人なんで一緒にいるんだろう? 敵が予想外に私たちより強かった場合の助っ人なのかと思ってたけど、もしかして強さを測られてた?


「じゃ、戻ろっか。アネーゴに1時間半は時間稼ぐように言われてたけど、1時間10分だし、平気っしょ」


 すっごい気楽などんぶり勘定を聞いてしまい、私たちは焦った。颯姫さんに怒られるのはバス屋さんだろうけど、ちょっと適当すぎない!?


「えっ? そういうのって早く帰るのまずいパターンじゃないですか!?」

「そうよ、1時間半に対しての20分はちょっと誤差が大きすぎるわ。颯姫ちゃん絶対怒るわよ! またフライパンで殴られるわよ?」

「あ、もしかして音は凄いけど手加減してて実はあんまり痛くないから、殴られるの気にしてないとかそういうの?」


 さらっと適当発言をかましたバス屋さんに蓮が焦り、ママが真っ当な反応をして、彩花ちゃんが「わかったー!」みたいな顔でなんかずれたことを言ってる。


「いや、普通に痛いよ。アネーゴ、容赦ないから。最初は矢橋くんって呼んでたのが『バス屋ァー!』になるのに1ヶ月掛からなかったし」


 おお……青筋立てて叫ぶ颯姫さんが目に浮かぶようだわ。この場合は颯姫さんに遠慮がなかったんじゃなくて、距離感おかしいバス屋さんのダメッ子っぷりの方が原因だよね。


「じゃあ、もう一層完全攻略はしなくていいから、ちょっと下って戦おうよ。それで1時間半を5分くらい過ぎたって辺りで戻るのがいいんじゃないかな。僕たちにとっても経験値稼ぎになるんだし、みんなまだ余裕あるよね?」


 聖弥くんが私たちを見渡して提案する。まあ、まだあと30分くらい戦うのは大丈夫だ。みんな同じような判断をしたのか、否定意見は出なかった。


「蓮の魔法があるから大分楽だよね。よーし、行こう」


 スマホは電波通じないけどアラームとかは使えるから、25分にセットして私たちはもう一層下ることにした。

 ダンジョンは3層毎にエリア変わることが多いんだけど、10層20層30層は各難易度でのボスエリアだから、ここを起点に中途半端に途切れてまた3層ずつってなることもある。

 そして、予想通りっていうか、20層から続いた海岸エリアは終わって、今度は草原エリアだ。いや、床とかは全く同じなんだけど、出てくる敵でわかる。


 森林エリアに出ることもあるアルラウネとか、草原といえばこれって言われてるダイアウルフとかね。アルラウネは花の中に女性の上半身が生えてるのがゲームとかではお約束なんだけど、ダンジョンに出てくるアルラウネは上半身もマンドラゴラっぽくて性別不明な感じ。


 動きの速いダイアウルフと、魔法抵抗が強くて蔓を鞭のように使って攻撃してくるアルラウネ。組み合わせとしては強いね。


「スリープ!」


 蓮の魔法で範囲内の敵が全部落ちたけどね……。


「おお、効くじゃん。よかったー。ここの敵って強いから、ステータス的に競り勝てるかどうかわからなかったんだよなー」


 なるほど、RSTの判定を含めてのスリープか。蓮のスリープで眠らない敵がいたら、相当の高RSTだもんね。アルラウネがその域まで達してた可能性はなくもない。


 そしてダイアウルフ。こういう獣系モンスターって大体RSTが低い傾向にあるから落ちて当然だね。さくさくと止めを刺していく簡単なお仕事です。一撃で致命傷を与えられないけど、眠ってるから2回くらいで倒せる。


「じゃ、そっち任せる。俺はあっちの敵を倒してくるから」


 既に眠らせたモンスは私たちに任せ、蓮はこちらを窺っているモンスターに対して攻撃魔法を撃ち始めた。


「……一緒に戦っててしみじみ思うけど、安永蓮って大概おかしい」

「え、今更何言ってるの、彩花ちゃん」


 蓮がおかしかったのは最初からだよ。異様に高いMAGに嫉妬したの覚えてるもん。


「ほら、宇野とか安永蓮が来るまではうちのクラスで一番MAG高かったじゃん? あれが『一般的』なんだよ。そこからうんとLV上げしてやっと魔法使いって使い物になるって聞いてたけどさー」

「ああ……そういうのは考えない方がいいんじゃない? どこにでも例外はいるし、彩花ちゃんの強さだって十分例外だからね? てか、草薙剣はヒヒイロカネでしょ? 防具は? 布防具なのはわかるけど」

「これ? スポーツメーカーで100万ちょっとで買った、オリハルコン10%のやつだったかな?」


 オリハルコン10%……それは、補正的には大して付いてないよねえ。

 草薙剣がヒヒイロカネだから、そっちの補正はかなり優秀だけど。

 補正付いてなくても強い人間の方が、余程特殊だよ。


「クラフトしてもらったんだよね? よく稼げたね」

「うん、ゆずっちたちが鎌倉ダンジョンで襲われてたときとか、襲撃犯コロッとして身ぐるみ剥いで全部売り払ったから、割といいお金になったかなー。ダンジョンハウスの店員ってプログラム通りに動いてるロボットみたいなもんだから、一切そういう詮索がなくて楽なんだよ。たまたまヒヒイロカネの武器持ってる奴がいたから、材料変換でそれを流用してクラフトしてもらった」


 ……今、ヤバいことを平気で言いよったな、こいつ……。

 刃向かう者は打ち倒して当たり前、戦利品はいただいて当たり前って考え方がナチュラルにベースになってる辺り、古墳時代の人間の意識が強かったんだなってよくわかるわ。


 でも、あの時の襲撃犯については私もさすがに庇い立てしない。彩花ちゃんもそれをわかってるから明かしたんだろうしね。


 そんな雑談をする余裕もありつつ、ある意味いつも通りの簡単な戦闘。蜻蛉切を持ってるだけで立ち尽くしてるバス屋さんが退屈そうにしてた。


「うーん、アネーゴも魔法が強いけど、蓮くんはそれ以上だよなー。やっぱ魔法強いわ」

「でも蓮クラスの魔法使いって激レアですよね、やっぱり僕たちのパーティーは比較対象にしちゃ駄目なんですよ」

「わかるわかる。でもこれならあと10層下っても戦えるわ。明日はそこら辺から始めるように報告しとく」

「うえっ!」


 た、確かに「戦えるかどうか」で言ったら、10層下でも戦えると思う。でもそれはかなりギリギリだし大変そう。――いや、本来レベリングってそういうものか。蓮にマジックポーションをガンガン飲ませて戦うのが一番効率いい。彼女らしくない発想? いやー、今の私の最大の目標はヤマトを取り戻すことだからね!


「まー、これは俺の判断だし? タイムさんとかアネーゴが修正加えてくる可能性の方が高いから。あくまで俺は『ここでどのくらい戦えるか強さを確認してくるように』って言われただけだからさ」


 槍を肩に担いでだらけたポーズをとりながらバス屋さんが言い訳めいたことを言ったとき、ちょうどアラームが鳴った。

 敵も少なかったので、階段に駆け込んでバス屋さんがインターフォンを押すと、中からライトさんがドアを開けてくれた。


 待って? 昼も驚いたけど、なんかすっごいいい香りがする!

 もしかして颯姫さん、ご飯で驚かせるために時間稼ぎさせた!?


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