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第371話 レア湧きの力

 階段で相談をしながら、私たちは翠玉を囲んで全員で撫で回していた。

 毛並みがね、犬や猫とは違って、すべすべで手触りがいいの。ベルベットを撫でてるような感じ。

 このメンバー、蓮が犬派で聖弥くんが猫派だけど、それなりにみんな動物好きなんだよね。

 バス屋さんなんかマユちゃんを見て「飼いたい」って言ってたこともあるし、ヤマトも隙あらば撫で回されてるんだけど、他の動物も好きみたいだ。

 まあ、私の動物好きには誰も及ばないけども!


 みんなで相談をした結果、30分階段休憩をした後で移動開始して、その30分後から配信を再開させることにした。

 11層からの岩場エリアが終わる前に景色を映したいけど、フル充電まで待ってたら最下層に着くのが遅くなるからね。


「でもさー、いきなりこれを連れ帰って、家族に何か言われたりしないのか? ヤマトとかマユならともかく、麒麟はでかくねえ? ……いや今のマユはでかいけど」


 蓮は翠玉の耳の天辺にあるふわふわの毛を触りながら真っ当に「家で麒麟飼います」宣言を心配してるけど、あいちゃんは自信満々で胸を張った。


「大丈夫、絶対パパもママも気に入るから。だって、こんなに綺麗なんだもん」

「ああ……なんかそれで納得しちゃったボクがいる」

「確かに」


 あいちゃんのパパもママも、綺麗なものが好きだからね。確かにそれについてはメロメロになりそう。

 麒麟の体毛は黄色に近い茶色で艶々してるし、赤青白黒黄色がグラデーションになったたてがみは派手だけど神秘的。角はまるで真珠みたいな独特の淡い色合いで、うっかりするとずっと見ていそうになる。

 それで、目は名前の通りにエメラルドだ。深い色と明るい色が同居した、吸い込まれそうな瞳ってやつ。


 うん、確かに凄く綺麗。しかもテイムされる前から寄ってきたことを考えると、普通の人に対しても結構人懐こいんじゃないかな。

 ヤマトとはお互い匂いを嗅ぎあって、鼻をくっつけたりしてる。麒麟と犬の鼻チュー可愛いな!


「んっふふふふ、しかもジョブボーナスでDEXが上がってクラフトに掛かる時間が更に短縮できるようになったよ!」


 ステータス画面を見てあいちゃんがにやけている。そうか、テイマーのジョブボーナスね。

 寧々ちゃんの時も思ったんだけど、クラフトとテイマーって相性いいんじゃないのかなあ。LVを上げにくい戦力低めのクラフトマンにとっては戦力補強になる上、DEXが上がるもんね。

 まあ、あいちゃんはそれを抜きにしても普通に強いんだけども。


「麒麟のステータス見たい!」

「さっきは名前のところしかちゃんと見なかったから、今確認しておくわ。……わー、すごっ!」


 レア湧き従魔といえばアグさんだけど、初めて会ったときに既に高レベルだったから、LV1の時どのくらい強いのかも興味ある。


「スクショしておいた方がいいよ。多分冒険者協会に情報提供すると喜ばれるから」

「そうか、それもそうだね」


 あいちゃんは聖弥くんのアドバイス通りに翠玉のステータスをスクショして、それから私たちに画面を見せてくれた。


翠玉 LV1

HP 120/120

MP 150/150

STR 95

VIT 180

MAG 300

RST 220

DEX 100

AGI 110

種族 【麒麟】

スキル 【MP自然回復力アップ】【大慈大悲】【気配察知】【風水術・地形操作】【風水術・豪雷撃】【風水術・水流瀑】【風水術・業焔昇】【風水術・風裂刃】

マスター 【アイリ】


「…………仁の霊獣、とは」

「気配察知持ってるのは凄いけど、それ以外の構成が殺意高っ!」

「大慈大悲――ええっと、観世音菩薩の心ある全てのものを救おうとする広大なる慈悲のこと。仏教用語!? それがスキルってどういうことだ!?」

「ぎえー、MAG300じゃあ、普通の冒険者は逃げるしかないよね」


 バス屋さんは斜め上を見ながら大仏のような表情で考え込んでるし、彩花ちゃんはずらっと並んだ攻撃スキルに顔を引きつらせている。

 何話してるのと言いたげに小首を傾げてる翠玉の前で、私たちはそのステータスを見て阿鼻叫喚だ。これじゃあね、ママも確かに逃げるわ!


 大慈大悲っていうスキルは上位回復魔法の更に強化版みたいなもので「全ての味方の傷とあらゆる状態異常を完全に癒やす」らしい。ひええ、上位回復魔法のグレートキュアでも回復できなかったカースとかも回復できるのか。それは……本当に凄いなあ。


「今のままでも凄いけど、鍛えたらめちゃくちゃなことになるよね。お供にしたら上級ダンジョンがソロ攻略できそう」

「アグさんも鬼強いしな……まあ、レア湧きとして納得のステータス」


 私と蓮がうんうんと頷く中、あいちゃんは真顔で考え込んでいる。鍛えたら、ってところかな? このMAGでビシバシと攻撃されるのはかなりきついけど、聖弥くんは補正付けてギリギリRSTが拮抗するし、蓮だとプリトウェンを持てばダメージ0にはできないけどかなり耐えられる。

 そして私にはインフィニティバリアというものがあるから、スパーリングはできないわけじゃないんだよね。


「鍛えられるよ? 私のインフィニティバリア使えば攻撃完全無効だし、短時間でもガンガン魔法撃たせたら格段に伸びが良くなる」

「これを更に鍛えようとするのが鬼」


 バス屋さんに酷い言われようをしたけど、あいちゃんは私の提案にうむむと悩んでいる。


「ど、どうしよう。そりゃ鍛えた方がいいとは思うけど、そうしたら今経験値入れられないよね? 帰るまで経験値入れないってできると思う?」

「できるよ、アイリちゃんを今のパーティーから外して、翠玉が戦わないように指示を出しておけば。僕たちだけでも戦力的には問題なく最下層まで行けるだろうし、最下層でボスを倒したら柚香ちゃんに手伝ってもらって特訓すればいいと思う」


 絶対に戦闘にあいちゃんを巻き込まないぞという気合い十分の顔で、聖弥くんが「大丈夫」とあいちゃんの手を取った。……聖弥くんだから、言ったからにはちゃんとやりそう。確かにあいちゃんを戦わせることは元々想定してなかったしね。


 寝る前ならMPが空になるまでインフィニティバリアを使っても問題ないし、なんんならマジックポーション5本くらいまでなら飲んでもいい。

 なんたって、この翠玉が活躍するところを私も見てみたいもんね!


「聖弥くんの言うとおりだよー。ボスを倒した後なら特訓できるし、そこで特訓すれば帰り道は経験値入れられるじゃん? それに帰り……あっ、ここからの帰りどうする!? さすがに翠玉は電車に乗せられないよね」


 ヤマトは犬サイズだから犬扱いで電車に乗れたけど、さすがに鹿サイズは鉄道会社も想定してないだろうなあ。

 そうしたら、ママとアグさんみたいに「一緒に移動」するしかなさそうだけど。


「しまった、帰りのことなんか考えてなかったわ……」


 あいちゃんが自分のおでこをぺちりと叩いた。というか、あいちゃんどころか誰もそこは考えてなかったよね。


「あいっちが乗って行けばいいじゃん。乗れる形態なんだしさ。麒麟だったら鵯越ひよどりごえ逆落さかおとしとか余裕でできそう。鹿も四つ足、馬も四つ足、麒麟も四つ足」

「相変わらず発想が物騒なんだよね、彩花ちゃんは」


 まさか何回かの転生の内で源義経だったことでもあるのかな。なんかありそうだけど、だったら静御前とかに執着しててもおかしくないから違うかな。


「じゃあ、帰りは僕とアイリちゃんが一緒に翠玉に乗っていけばいいね。ナビも必要だろうし」

「残念でしたー! 馬で公道は走れるけど道交法上二人乗りは禁止! 残念残念! そんな美味しいシチュエーション許すもんか!」


 聖弥くんが翠玉の目を覗き込みながら出した案は瞬時にバス屋さんによって却下された。……言い方は残念極まりないけど、この人本当に知識は凄いよね。


「よし、パパに連絡して途中まで迎えに来てもらう。そこまで乗っていけばいいよね、スマホに音声ナビさせてさ!」


 あいちゃんは鼻息荒く宣言すると、早速翠玉の写真を撮ってスマホでメッセージを打ち始めた。聖弥くんと二人乗りで帰れないことについては残念がっている様子はなくて、若干聖弥くんがショックを受けていた。


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