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第372話 配信再開、住宅問題!

 私が先頭で使い魔コウモリのナツを出して上空から索敵しつつ、あいちゃんと翠玉を中心にして守るフォーメーションでダンジョンを進む。

 翠玉って、あいちゃんが話し掛けて命令すると、こくって頷くの。奈良の鹿が鹿せんべいもらう時みたい! すっごく可愛い!

 ヤマトは前は「いいお返事の時ほど言うことを聞かない」ってことがあったから、最初から意思疎通ができてるあいちゃんがちょっと羨ましいな。


 11層から20層までの岩場エリアは、フロアの隅っこの方に「華厳の滝です!」って感じの綺麗な滝がある。滝の周りは地面がなくててテレポートでもしないと突っ込めないんだけど、この穴の先はどうなっているんだろう?


 試しに飛び込んでみたいけど、「上の層に戻されました」くらいで済むならともかく、死ぬような事態になったらまずいので自重自重。


「滝レポもしたいよね。20層行く前に配信再開させないと」

「あんまり飛ばしすぎるのも問題か?」

「いや、そこは階段で時間調節するんだよ! 常識でしょ、常識!」


 30分進んだら配信再開させる予定なんだけど、この岩場エリアは海エリアとか横須賀ダンジョン上層と同じく、「1フロアぶち抜き小部屋なし、高低差のみ」なんだよね。

 だから階段から次の階段に行くのも大変じゃない。

 一番の障害と思われた麒麟も今はあいちゃんが連れ歩いてるしね。


 ほとんどの敵は蓮が遠距離で倒しちゃってるから、余計進みも早い。ちょっとそれを私と蓮が心配したら、よりによってバス屋さんに「常識」を振りかざされた。

 ……一番嫌なパターンだよね、パーティー内一番の駄々っ子に「常識」って言われるの。確かに時間調節するなら階段っていうのは、常識かもしれないけどさ。


 岩に擬態していたロックゴーレムにヤマトがアタックしていくのを横目で見つつ、私と蓮はがくりとうなだれた。



「配信再開でーす! さっきは本当にすみませんでした! 普段充電切れとかしたことないから、そこのチェック甘かったです」


 19層から降りる階段で、私たちは配信を再開した。65%まで充電されてれば最下層まではもつからね。


『こっちが死ぬかと思った』

『わああん、マイエンジェルが無事でよかったー』

『麒麟テイムしたってマジ?』

『ひょっ、本当になんか鹿っぽいのがいるー』

『たてがみ編まれてる! 馬みたい!』


 今回は配信再開時間を予告しておいたから、いきなり大量のコメントが流れてくる。6人の中で私だけがペコペコと頭を下げつつ、何故配信が途切れてしまったのか、なんで麒麟が一緒にいるのかを念のために説明した。


「というわけでー、私の従魔の翠玉です! 可愛いでしょ? 可愛いでしょ?」


 あいちゃんがカメラに向かって翠玉を紹介する。もはや猫は被ってないし、翠玉にメロメロなのはよくわかる。

 コメントは、勢いよすぎて拾えないわ。大抵は叫び声なんだけども。


『家で飼うのか、それを……』


 勢いが一段落したときにそんなコメントを見てしまったので、思わず私たちは笑ってしまった。


「それねー。私たちもみんな同じこと心配したけど、あいちゃんが『飼うよ』って断言してて。まあ、このサイズなら超大型犬より大きいけど馬までは大きくないから、行けそうといえば行けそうだよねー」


『アイリちゃんちってでっかいの?』

『平原幸則の家だろ? でかそう』

『そうなの!?』


 アイリちゃんのパパは有名デザイナーだからね。アイリちゃんも「親のコネは使い倒してなんぼ・脛はかじり倒してなんぼ」とか普段から言ってるし小さい頃からモデルとして活動してたのもその繋がりだし。

 そこら辺は知られてる話だと思ってたけど、意外に知らない視聴者さんもいるんだね。


『テレビで見たことがあるけど大きいよね』

『アイリと麒麟か、ミスマッチにも思えるけどビジュアル的にはマッチしてる』


「え、そんなにでっかいの? アイリちゃんち……」


 あいちゃんとはまだ付き合いが浅いバス屋さんは凄い驚いてるけども、あいちゃんちは市内では有名なんだよね。幼稚園の頃は同じ敷地内に建っててももう少し小さい家だったんだけど、中学に入る頃に建て直してでっかくなった。

 私もよく行ったけど、天井高いしでっかいベランダはあるしリビング広いし、リビングでシーリングファン回ってるし「海外の家みたい」と思ったことがある。


『じゃあ、飼えるか……』

『昔CMでやってたキリンの住める家ってやつだな』

『それはベランダの話では』

『これを飼えるならいろんな不都合には目を瞑ってもいいと思える』


 なんだかコメントも諦め始めたね。あいちゃんのパパは有名だから、視聴者さんの認知度も高い。


「ゆ~かなんか、フレイムドラゴンの住める家建てようとしてるよな」

「えー、だってだって、アグさんをひとりぼっちにしておくの可哀想なんだもん!」


 蓮がぼそっと暴露したまだ公開してない話に、『なん……だと?』とコメント欄が凄い困惑してる。


『フレイムドラゴンに比べたら、麒麟は飼うの楽そう』

『フレイムドラゴンに比べたら……』

『正気ぞ?』


「正気ですよ! パパが天井高7メートルぶち抜きの家を建てられるメーカーを見つけたので、今土地を探してるところです」


『…………』

『…………』

『……経済回してるなあ』


 あっ、なんか『……』が弾幕になった! そんなに絶句するほど呆れることかな?


『そうだよな、サンバ仮面の従魔がフレイムドラゴンだもんな……』

『あんな可愛いフレイムドラゴンが従魔だったら、一緒に暮らしたくなるのは仕方ない』

『アイリの事情も大概だが、ゆ~かのやることは格が違った』


 ……いやそれは、私がテイマーだからこそ、ママのアグさんへ向ける愛も理解できるっていうかさあ。

 うぬぬ、あいちゃんばかりか私までいろいろ諦められてるぞ? そんなに非常識な行動をしているつもりはないんだけど。


『考えてみると、Y quartetの周りはレア従魔ばっかりだな』

『確かに。フレイムドラゴンと麒麟は上級レア湧きだし、ヤマトの【大口真神】に至っては他に出現例がないだろう』

『寧々ちゃんのところのマユちゃんもレア進化したよね』

『ヤマトが強いから強い敵とも戦えて、そのせいで余計レアな敵に遭遇してる自転車操業』

『その事業拡大してるじゃねえか』


「そういえば、最近アネーゴもツノウサ飼い始めたよな。あれ? 俺らの周りって従魔多くない?」


 バス屋さんがコメントに反応して首を傾げた。

 確かに、私にママ、寧々ちゃん、あいちゃん、颯姫さんとテイマーは増えたね。よく考えたらマスターがみんな女性ばっかりだ。

 あいちゃんと颯姫さんは「戦力」としてより「可愛いから」って見てるから、女性マスターにはそういう傾向が強いのかもしれないね。


「だって、従魔にしたモンスターは可愛いもんね」

「うん、私も今はそう思う」

「ヤマトはいつだって可愛いけどな」


 私の開き直った言葉にあいちゃんは翠玉の首を撫でながら頷き、蓮もうんうんと同意してくれたのだった。

 従魔は可愛い。自分の子なら尚更。

 そんなところに話が着地して、一区切り着いたから私たちは雑談をやめて20層の攻略を開始した。


「サモン・ファミリア!」


 階段休憩の時にナツを出しておくのは意味がないから、さっき消したんだよね。そしたら、私のナツにコメント欄が凄く反応した。

 あれ? 今まで出してなかったっけ。

 サモン・ファミリアを使うようになったのは、奥多摩ダンジョンの帰り道からだよね……出してないかも。


「サモン・ファミリアって感覚共有するから人によって相性があるみたいなんだけど、私はいいみたいなんですよねー。MP食うけど便利だから時々使ってます。こんな風に」


 前方の上空に飛ばしたナツの視界を使ってモンスターを見つけ出し、私はナツからライトニングを撃って倒した。


「俺、それできないんだよな……酔うから」


 相変わらず蓮は羨ましそうにナツを見ている。ふはははは、これは私が魔法関係で唯一蓮に勝ってるところなんだよね!


『サモン・ファミリアって上級だっけ』

『クッソ便利な魔法じゃん!』

『前にサモン・ファミリア使いすぎて吐いてた配信者いたな』

『上級魔法取ったら洗濯できるようになる魔法だね』

『洗うなよw』

『便利一辺倒じゃなくて、蓮くんが言うように向き不向きがある魔法らしい』


「僕と蓮はこれを出しながら他の魔法使ったりするのは苦手です。というより、視界がダブってる時点で既に苦手ですね」

「この魔法に関しては、本当にゆ~かが得意なんだよな」


 聖弥くんが解説を足して、蓮がうんうんと頷いている。思わずそれにうへへと笑ってしまったら、ナツのコントロールがちょっと乱れた。


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