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第375話 恐怖の溶岩フロア

 罠解除失敗のせいであいちゃんがイライラしている。こういう時には武器を持たせて暴れ回らせるのがいいんだけど、今あいちゃんは経験値を一切入れたくない状態なんだよね。


 仕方なく私たちは「あれは不可抗力」「もう黒箱見ても放っておこう」とあいちゃんを宥め続ける。翠玉も心配そうにあいちゃんにすり寄ってて、あいちゃんもその首に抱きついてるね。ごくごく自然にこういうことできるのがちょっと羨ましい。

 私とヤマトだって仲良しだけど、翠玉みたいな大型従魔だとこうやって抱きついたり乗ったりできるからなあ。



 21層からは溶岩フロアだ。上級ダンジョンだけあって初級の大涌谷ダンジョンより溶岩率が高い!

 ということは――物凄く暑い!


「うわ、暑っ!」

「溶岩エリアだから覚悟はしてたけど、予想以上だね」


 彩花ちゃんが露骨に顔をしかめ、聖弥くんも嫌そうな顔をしている。SE-RENにとっては「溶岩エリア=大涌谷ダンジョン=トラウマ」なのかも。

 溶岩エリアも小部屋があるフロアは少なくて、この日光ダンジョンでも溶岩が冷えて固まったっぽいゴツゴツした地面と、何箇所かにある溶岩溜まりで構成されてる。


 そして、ここで出るモンスターは当然のようにサラマンダーだ。プチサラマンダーは赤くて火を吐くトカゲ、レッサーサラマンダーは赤くて火を吐くサンショウウオだったけど、サラマンダーはでっかいサンショウウオだ。

 そのサラマンダーが、さっそくこっちに気づいてファイアーブレスを撃ってきている。


「インフィニティバリア! 蓮、今のうちに片付けて!」

「任せろ、アクアフロウ!」


 視界の中に数匹いるサラマンダーは、蓮のアクアフロウで吹っ飛んでいった。―― のはいいんだけど。

 シュウウウウウ……と聞いたことあるような音がして、次の瞬間蓮のアクアフロウが飛んでいった先が爆発した!

 ドッゴォォォン!! と思わず耳を塞いでしまうほどの轟音が響き、地面がえぐれて大小の溶岩の欠片が飛んでくる。同時に湿った熱風も頬を撫でていって、暑いのに冷や汗が浮くのを感じた。


「インフィニティバリアーっ!!」

「安永蓮ー!! おまえ、何をしたー!」


 咄嗟にインフィニティバリアを張り直して飛来する溶岩からみんなをガード! 大惨事を引き起こした蓮は呆然としたまま彩花ちゃんにガクガクと揺すぶられている。


『水蒸気爆発だ』

『爆発したぞ!』


「蓮、アクアフロウを撃った先に溶岩溜まりがあるぞ! 今の水蒸気爆発!」


 コメントとバス屋さんからも指摘されたけど、何匹かのサラマンダーを狙って撃った蓮のアクアフロウのうちひとつが、その先にある溶岩溜まりに突っ込んだみたいだ。

 ――そして、オタクが大好きお約束の水蒸気爆発というわけですね。怖っ! そっか、最初に聞こえたシュウウウウウって音、聞いたことがあると思ったら熱したフライパンに水を入れたときの音と一緒だ。


 大涌谷ダンジョンでは蓮のアクアフロウはフレンドリーファイアーしたし、「SE-RENと溶岩地帯って前世からの因縁でもあるの?」っていうくらい相性が悪い!


「水魔法と氷魔法禁止だね……大丈夫、蓮ならウィンドカッターでも倒せるよ」

「マジごめん! こんなことになるとは思わなかった! 次からは地形気を付ける!」


 目が笑っていない聖弥くんに励まされた蓮は、地面に膝を突いて平謝りしている。


『……やることあんまり変わってねえな』

『フレンドリーファイアー事件を思い出した』

『蓮くんにとって溶岩エリアって鬼門なのかもね……』

『世界最強の魔法使いになったかと思ったのに、相変わらずへっぽこで安心した』

『むしろ世界最強クラスだからこそ被害がでけえんだわ』


「蓮、もうちょっといろいろお勉強しようなあ?」

「うっぐぐぐぐぐぐ……」


 コメントではへっぽこと言われ、神妙な顔をしたバス屋さんからは「お勉強しよう」と叩かれ、蓮は地面にめり込みそうになっている。


「もういいからさ、早くここ突破しよう! 暑い!」


 蓮は反省が必要かもしれないけど、水蒸気爆発の可能性なんて私も考えてなかったもんね。バス屋さんに言われるのは癪なんだけど、確かに私や蓮という威力の高い魔法使いはもっといろいろ起こりうる現象について勉強しないといけない。


 それはそれとして、立ってるだけでも体力が消耗しそうなこの暑さから一刻も早く抜け出したい。水蒸気爆発のせいでもわぁっとしてるし。


 日光ダンジョンが不人気の理由、麒麟の件もあったけど、これも理由としてあるんじゃないかなあ?


 私たちは最低限の敵を倒しつつ階段へ向かった。蓮が魔法で倒した敵のドロップは、ヤマトが持ってきてくれた。でもヤマトも舌を出してへーへーいってるから、早く涼しいところで休ませたいね。


 22層への階段に駆け込むと、そこには熱気が来ないようで涼しい。「メイク崩れる」って騒いでるあいちゃんを映さない設定を改めてしつつ、休憩は次の階段ですることにしてまた一気に駆け抜ける。


「この暑ささえなければ、日光ダンジョンって攻略自体はしやすいよね」

「だな、2層から今までほとんど一直線に降りてきたし」


『違う、10層までは魔法でぶち抜いて来たんだろうが』

『誰でもあれができると思わないで……』


 暑さに辟易しながら蓮と愚痴っていたら、視聴者さんのコメントで森林エリアは力技で突破してきたことを思い出した。

 そうだった……高低差こそあれ、階段から次の階段が見えてる簡単フロアだし、なーんて思っちゃってたよ!


「でもゆ~かっちの言うとおり、この暑ささえなければ、敵もアホ強いわけじゃないし上級ダンジョンの中では楽なのに」


 手でパタパタと顔を扇ぎつつ彩花ちゃんも文句を言っている。そして、突然ハッとその目を見開いた。


「待って……ボス部屋って溶岩フロアじゃん? こんな暑いところで寝られないよ!?」

「あーっ!?」


 彩花ちゃんを除いた全員の悲鳴が綺麗に重なった。

 そうだよ、ボス部屋まで溶岩エリアだよ。ボスを倒したってそんなところでは寝られない!


 そして、「ホテルが取れないならダンジョンに泊まればいいじゃない?」と言った張本人のバス屋さんは、蜻蛉切を抱えて前方に猛ダッシュしていた。逃げ出すのが速い!


「待てバス屋!」

「何が『いろいろお勉強しようなあ』だよ!」


 そのバス屋さんを、彩花ちゃんと蓮が物凄い形相で追いかけている。これは、自業自得!


 いやー、だけど、本当に今日の夜どこで寝たらいいんだろうね? 階段泊かな?


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