バス屋さんは蓮にスリープで落とされ、次の階段で正座で反省させられていた。
「スイマセン、俺も溶岩エリアがこんなに暑いだなんて知らなくて」
「……いろいろお勉強しようなあ?」
自分が言った言葉をブーメランで返されて、バス屋さんはペコペコと頭を下げた。
蓮がバス屋さんを捕獲した後、勢いで22層をそのまま突っ切って23層への階段で休憩中だ。
聖弥くんがアクアフロウを壁に向かって撃って蓮がそれをフロストスフィアで凍らせたので、階段は冷気が漂っていてすっごく涼しい。ヤマトと翠玉はその氷をペロペロと舐めたりもしてる。可愛い。
毛皮に包まってる勢は暑さも私たちよりきついだろうなあ。階段についてまずやったことは、ヤマトのお水皿を出してヤマトに水を飲ませて、その後で翠玉にもお水を飲ませることだったからね。
「……ふう、もしかしたら最下層だけは溶岩じゃなかったりしてと思ったけど、やっぱり間違いなく溶岩だね。僕ら、溶岩フロアとダンジョン泊は別々に知ってたから、『溶岩フロアでダンジョン泊』について確かに考えてなかった」
聖弥くんが苦い顔で調べ物をしていたスマホをしまう。うーん、本当に「最悪階段泊」だよね。階段で寝られないこともないけど、エアマットを敷いたりするような広さはないから辛いかな……。
『でも昔ここでダン泊した奴らいたよな……あれどうしたんだ』
「ダン泊した人いるんですか!?」
コメントの情報は必ずしも正しいとは限らないんだけど、これは思わず縋り付きたくなる情報。
『ダン配黎明期の、麒麟が出る前。今日光ダンジョンの資料で使われてる映像はその時のやつが多いはず』
「そっか、確かに画像見たなあ。最下層まで行って帰ってきてる人もいるんだし、6年前にボスを倒した人たちもいるんだもんね」
これは、最下層には何かあると思っていいかもしれない。例えば溶けてる溶岩がなくて、冷えて固まった溶岩だけとか。
「とりあえず最下層行ってみるしかないかー。でも、金輪際バス屋の提案は受けないことにしよう」
「そうだね、私も安易に考えてたけどバス屋さんの言うことだったわ」
彩花ちゃんとあいちゃんからの、バス屋さんへの信頼は地に落ちたな……。私も今回の件は「うげー」って思ったけどね。
飲み物を飲んだり氷で涼んだりして休憩した後、私たちは残りの階層も一気に突破した。サラマンダーは動きがのろいし、フロアに留まってるだけで体力を消耗するから、長居する理由が全くないんだよね。
そして29層の階段――まず私と蓮が一番下の段まで降りていって、ボスフロアを確認する。
「あー、なんかいるいる。燃えてる人型」
「よし、鑑定してみる。……ふっ」
ダンジョンアプリでボスを鑑定した蓮が、笑いを漏らした。
え? 思わず笑うような要素があるの?
「なになに、見せて!」
蓮のスマホを私も横から覗き込む。そこに表示されている情報に、私も思わず「ふっ」と笑った。
【イフリート 平家の落ち武者ver】
そ、そんなローカライズしてくれるんだ……。よく見れば確かに日本の鎧っぽいものを着てて、太刀を佩いて弓を持ってるようだけども。
「イフリート、平家の落ち武者verだって」
「なにそれー、ウケる」
「そういえば確かに日光って平家の落ち武者伝説あったね」
あいちゃんは笑い転げてるし、彩花ちゃんは謎の知識を披露するし。
その間にフロアの方もよくチェックしてみたけど、やっぱり落ち武者イフリートの後ろには赤い溶岩が見えるんだよね。
「さて、イフリートだったら蓮の魔法で倒すのが一番楽で安全だけど、みんなそんなの見たくないよねー?」
カメラに向かって私が問いかけると、まず『www』が弾幕でよぎっていった。その後でいろんな意見が出てくる。
『確かに、もっと面白い絵面が見たい』
『ボスに対して全力で挑まなくても済むのはおまえらくらいだ』
『ここは敢えての白兵戦が見たい!』
そのコメントを見つつ、私と彩花ちゃんとバス屋さんは頷く。あいちゃんは元々戦わないつもりだし、聖弥くんは苦笑い。
「じゃ、蓮は基本待機で、私と聖弥くんと彩花ちゃんとバス屋さんで、物理オンリーで戦うってことで!」
「俺の存在意義ー!」
『さっき爆発するくらいの存在感を示したからいいじゃねえか』
確かに! さっきの水蒸気爆発で、蓮はこれ以上ないインパクトを与えたよね。
「蓮が物理攻撃するのもアリだとは思うんだけど、やっぱり炎を全身に纏ってる敵に白兵戦を挑む私たちのバックアップとして、回復要員で後ろに控えてて欲しい。ヤマトも今回は蓮と一緒に下がっててね。あれに体当たりしたら間違いなく火傷するからね」
「仕方ねえな」
「クゥーン……」
蓮とヤマトは似たような表情でしぶしぶ作戦を受け入れた。
いや、私たちだって伝説金属製の武器じゃなかったら、あれにアタックはできないよ。イフリートは見た目からして赤いから温度自体は炎としては低い方だけど、火と金属は相性が悪いもんね。
「よーし、じゃあ行くか! 一番槍もらい受ける!」
現在評価が絶賛地の底を這っているバス屋さんが、勢いよく飛び出した。
……あー、どうしよう、私が本気で走ると追い越しちゃうよね。
せっかく格好良く「一番槍もらい受ける」とか言ったから、一番槍は譲ろうかな?
「待て待てー! 一番槍はボクがいただくー!」
そんな私の気遣いもむなしく、彩花ちゃんがすっとんでいったけども!