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第379話 修学旅行? いいえ、林間学校です

 現金なことに、一瞬前まで「彩花ちゃん卑怯」って騒いでたのに、溶岩が消えてただの岩場フロアになっているのを見たら「やった、これでここに泊まれる」って気持ちが先行しちゃったよ。


「今のうちに空気冷ましとこうぜ。聖弥、アクアフロウ頼む」

「そうだね、あちこちに氷を出しておこう」


 私がメイルシュトロムを使った方が大きい氷ができるんだけど、この後翠玉の特訓をするために温存しておけってことだろうね。


「あー、よかった。階段に寝るの辛そうって思ってたよー」


『見る側としてはそっちの方が楽しそうと思ってた』


 あからさまにほっとしているあいちゃんの言葉に、The他人事なコメントが入る。まあね、「最悪、パーテーションを使ってトイレだけ最下層に作って、寝るのは階段かな」って思ってた。

 いっそ溶岩利用してサウナ作れないかな? なんて考えたりもしてたし。


「アイリちゃん、翠玉の地形操作で端っこに少し高い場所を作れるかな? 寝る場所は濡れないように高くしておかないとね」

「やってみるね」


 あいちゃんが「ここからここまで少しだけ高くして」と翠玉に命令すると、翠玉はクゥと一声鳴いて角を光らせた。途端に地面がゴゴゴ、と変形する!

 高さは確かに5センチくらいの隆起でしかないけど、手前に溝が掘ってある。これはキャンプのお約束だね。それに、結構広範囲を変化させたのは凄い。他にこういう魔法やスキルって聞いたことないもん。


「聖弥くんの話をちゃんと聞いてたんだー、水浸しにしないために高くするって理解してるんだね。わあ、頭いいー」

「んふっ、もーっと褒めてもいいよ」


 私が褒めながら翠玉を撫でると、あいちゃんはまるで自分が撫でられてるように目尻を下げていた。


『地形操作凄いねえ』

『キャンプに便利』

『これは戦闘に使ってもゲキツヨだぞ』


 従魔としての麒麟の働きに、コメントも盛り上がってる。確かに、戦闘中でも敵の足元を陥没させたりするのは有効そう。あっ、ママが「地面陥没した」って言ってたのはそれかあ。


 もしかして、ママと翠玉を会わせたら翠玉が荒ぶっちゃったりしないかな? きっと過去に戦ってるんだよね?


 ………………まあ、いっか! その時にはあいちゃんに止めてもらうしかないね!

 きっと敵ではなくて「あいちゃんの従魔」としての麒麟なら、ママも可愛がると思うし。


「えーーーーっと、それじゃあボスも倒したし泊まれることも確認したので、これから夕飯を作りたいと思います。配信はそろそろ……」


『ゆ~かちゃんが料理するの見たい見たい』

『夕飯なにー?』


 おっと、配信はそろそろ終わりにする予定だったんだけど、延長希望が出てるね。

 バッテリー残量は35%くらいか……夕飯できあがるくらいまではやってもいいかな。


「夕飯できあがるくらいまで配信続けていい? バッテリー切れで中断させちゃった分のおまけな感じで」

「俺はいいと思う」

「ちょっと待って、メイク直してくる。ゆーちゃん、私のバッグ出して」


 他のメンバーに確認を取ったら、あいちゃんから「ちょっと待って」の一言が。私がアイテムバッグから出したあいちゃんのバッグを渡すと、あいちゃんはそそくさと最初に蓮が出した氷柱の後ろへと逃げて行った。

 確かにあそこなら涼しいしカメラにも映らないか。


「じゃあ、あいちゃんがメイク直ししてる間に、私たちは隅っこで準備したいと思います。そして、バス屋さんにはこれをお願いします」


 取り出しましたるは、フライングディスク。そう、今のうちに少しでも翠玉のトレーニングをしておいたらいいかなって。

 私は先輩テイマーだからね、従魔の特訓に立ち会った回数も多いし!


「ヤマト、これで翠玉と遊んでね。全力で走らないで、翠玉に合わせてあげてね」

「ワンッ!」


 うん、いいお返事だ。今はヤマトもちゃんと私の言うことを聞いてくれるから、いろいろ頼み事ができて助かるよ。


「そーれ、ふたりで取ってこーい!」


 翠玉とヤマトにフライングディスクを見せてから投げると、ヤマトが「行こうよ!」というように翠玉に向かってぴょんぴょん飛んでから走り出した。それを見て翠玉もちょっと遅れて駆けだして行く。

 前にアグさんにヤマトを叱ってもらったこともあるけど、従魔同士って意思疎通ができてるっぽいんだよね。見ていてほんわかするなあ。


「え? 俺は何をしたら?」

「バス屋さんはヤマトと翠玉がフライングディスクを取ったら、それを回収してまた投げてください」


『激烈肉体労働w』


 その通り! 料理の戦力にもならないし、今日のバス屋さんはいろいろとやらかしてるから少しこうして反省してもらわないとね!

 バス屋さんはとほほーと言いながらも、二匹を追って走って行った。


 そして私を含む残りの4人で、まずブロックを組んでかまどを作る。コンクリートブロックを組んでちょうどいい高さを作って、一番上のブロックは穴が横を向くようにするのだ。そこに鉄の棒を差し込めば竈の完成。ブロックを3組積めばふたつの竈ができる。


『手際がいい』

『コンクリブロックを指だけで持つんじゃないよ』


 コメントでも指摘されたけど、私たちは力があるからブロック積むのも簡単なんだよね! 4人がかりだしパパッとできてしまう。普通の女子高生だったら、これは多分両手で持つ奴。


「今日の夕飯はお約束な感じでカレーです。蓮、ご飯はお願い」

「よーし、任せろ」


 任せろとか格好いいこと言ってるけど、ご飯はお湯で温めるパックだね。蓮がやることは、鍋でお湯を沸かしてパックを温めること。彩花ちゃんは言われる前にさっさと火をおこし始めていて、こっちも手際がいい。


『カレーか、キャンプっぽいね』

『林間学校じゃん』

『日光だし修学旅行だと思ってた』


「はっ!? そういえば夕飯何作ろうかなって準備段階で考えてたとき無性にダンジョン最深部でカレーを食べてみたくなったんだけど、日光って修学旅行っぽいからか!」


 お肉と保冷剤を一緒に詰めてきた発泡スチロールを出しながら、私は「腑に落ちたー!」と思わず叫んだ。不思議だったんだよね。「今日カレーが食べたい」じゃなくて「ダン泊の時にカレーが食べたい」だったんだもん。


『修学旅行でカレーは作らぬぞ』


 そのコメントで我に返りましたけども。そうだよ、カレーを作るのは林間学校やキャンプであって、修学旅行ではないね……。

 自分の根本的な間違いに愕然としつつ、彩花ちゃんと聖弥くんと手分けして野菜とお肉の準備。このふたり、料理はうまいわけじゃないけど、包丁の扱いはうまいのだ。


『レトルトじゃなくて作るの偉いね^^』

『みんなでカレー食べるの楽しそう』


 カレーを作っているだけで褒められる! こういう人はだいたいSE-RENファンだ。ときどきSE-RENの雑談配信見るとファンの人たちは呼吸をするように褒めまくってるし、7ちゃん住人はもっと茶化してくる。


「ダンジョンの攻略難易度によってどれだけお腹空くか変わるじゃないですか。だからたくさん作って、余ったら朝はカレーうどんにします」


 二日目のカレーもいいけど、余ったカレーに和風だしを入れてカレーうどんで食べるのも美味しいよね。


『高校生にしてこの献立力……ゆ~か、恐ろしい子』

『余らなかったらどうするの?』


「余らなかったら、鰹節と刻みネギ入れて焼きうどん」


 献立力っていっても、カレーをご飯で食べるかうどんで食べるかってだけの違いじゃん? うちはカレーの時あらかじめ「米で食べるか麺で食べるか」って聞かれるしね。


 コメントは何故か「カレーの肉は豚肉か牛肉か」という論争に発展していたので、私たちも何カレーが好きかとかの雑談をした。

 私は小間切れの豚肉をたっぷり入れた、給食風のカレー。蓮は同じ豚肉でもブロック派。聖弥くんはビーフカレーで彩花ちゃんは鶏モモ肉。ものの見事にバラバラだね。


「そういえばあいちゃんも鶏肉派だよね、バターチキンカレー好き」

「バターチキンって家で作るのか?」


 蓮が不思議そうにしてるけど、あいちゃんちでは作るね。うちもママの気分次第ではキーマだったりベトナムカレーだったりサグマトンだったり、あんまり「おうちカレー」っぽくないものが出る時がある。


「俺はー! 辛口キーマカレー!」


 もふもふたちと追いかけっこをしながらもちゃんとコメントを確認してたらしいバス屋さんが、遠くで叫んでいた。


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