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冒険者科修学旅行

第389話 班分けという名の修羅場

 7月始め、修学旅行に向けてクラスで班分けがあった。

 他のクラスは長崎に行くというのに、冒険者科だけは京都だよ!

 学校単位じゃなくて、料金高くなったりしないの?


 ……と私的にはいろいろ愚痴も出るけど、「長崎のダンジョンにはドラゴンは出ないけど、清水寺ダンジョンにはドラゴンが出る」って情報だけで、みんなすっごいやる気出してるんだよね。


 中学の時にも行ったじゃん、京都。ダンジョンは高校生にならないと入れないけどさ。


「……ダンジョンに行く理由が、もう配信以外あんまりないんだよね」

「俺は一応、貯金のためもある」


 ため息をつきながら蓮に愚痴ったら、蓮はごくごく真っ当な理由を挙げてきた。

 そういえばそうだ。蓮と聖弥くんに関しては、「売れない俳優になる可能性もあるからできるだけお金を貯めておきたい」って事情もあるからね。


 その蓮と聖弥くんは、「ジューノン・ボーイズコンテスト」という若俳の登竜門的な全国規模のオーディションに応募している。

 ふたりとも無事に第二次審査を突破したんだけど、驚きの事実が発覚した。


 バス屋さんも、何故かそこを通過してたのである……。

 いや、確かに22歳以下他薦自薦問わずだから、条件的にはいけるんだけどね。本人が知らないうちに他薦されてたそうだし。

 それを知った時の蓮と聖弥くんの殺気は、本当にヤバかった。


「まあ、今の俺と聖弥の強さだったら、冒険者しつつ俳優やっても生活はできるから助かるけどな」

「高校卒業と同時に、装備は私のところに返却だけどね」

「そうだった! 最悪俺は装備無しでも戦えるけど」


 飲み終わった牛乳パックをメシャっとしながら蓮が叫ぶ。刺さっていたストローから牛乳がちょっと飛び散って、今度は私がぎゃーといいながら机を拭いた。


 確かに蓮のステータスだったら、補正無しでも敵の攻撃範囲外から先に魔法をぶつけて勝つことができる。相手がミスリルゴーレム以外ならという条件が付くけども。

 聖弥くんは……元のステータスが高くないからなあ。でも、ステータスが低くても戦闘経験が消えるわけじゃないから、テレポートからの強襲とかで戦えそうではある。攻撃魔法も全部覚えてるしね。


 ――というわけで強すぎる私たちなんだけど、そのせいで班決めのときに一悶着が起きた。



「なんでこの期に及んで行動班とダンジョンのパーティーが一緒なんですか!」

「ほんとほんと! 別々でいいじゃないですか!」

「むしろダンジョン行く理由がない人もいるでしょう? 私とか!」


 班分けのときに挙手ばかりか立ち上がって反対意見を言ったのは、彩花ちゃんとあいちゃんと私。

 彩花ちゃんはおそらく「私と班が別々になること」への不満があり、私とあいちゃんは彼氏と一緒の班になれないという不満がある。

 蓮は私たちの勢いに押されて、何か言おうと挙手しかけて手を引っ込めてしまった。聖弥くんは多分この先の展開によってどう出るか考えてるんじゃないかな。


 黒板には例の如く、名前の横にAB と書かれた表が貼ってある。「Aは各班にひとり、Bは各班にふたり」ってやつね。去年の夏合宿の班割りと同じ方法だ、

 今回のAは私と彩花ちゃんとあいちゃんと寧々ちゃん、それに蓮と聖弥くんと前田くん。

 これはもう、単純にLVのトップ7なんだよね。あいちゃんと寧々ちゃんはクラフトだけど、物理も強いことに定評がある。


 前回のAからBに落ちてしまったのはかれんちゃんと中森くんと倉橋くんだけど、倉橋くん以外は特にがっくりもしていない。

 倉橋くんはがっくりというか、胃を押さえて呻いてる……。


「俺に……選択の余地を残さないでください……」


 弱々しい倉橋くんの声で察した。実際、彩花ちゃんの視線の圧が凄いね。

 彩花ちゃんの班を選ばなければ、どうなるかわからないという怖さがある。選んだらまた腕抱きつき&べったりモードに入るんだろうし、選ばなかったらネチネチ文句を言われそう。


「例年だと、テイマー専攻で既に従魔テイム済みの生徒やクラフト専攻でフリークラフト取得できてない生徒が、ダンジョン行かないってこともあったんだが――はははははっ」


 大泉先生は教室の隅の椅子に座ったまま、説明中に笑い声を立てた。なのに目は笑ってなくてぐるぐるしてて、見ててちょっと怖い。


「いやー、うちのクラスはテイマー専攻がいないし、クラフトは全員フリークラフト取得済みだし、凄いな! 修学旅行費0円学年かな!」

「だって私しかテイマー専攻志望がいないし、既に従魔がいるから戦闘専攻に行けって先生が言ったんじゃないですかー!」


 あそこでテイマー専攻を貫いていれば、修学旅行の自由行動が増えたのか!? でも私以外の班員がダンジョンに行きたいと言ったら、やっぱりダンジョン行くことになってたんだよね。

 どう考えても、A指定以外に4人の班員を「ダンジョン行きたくない人」で埋められる気がしないもん。


「ヤマトを連れていけるわけでもないんだから、蓮と行動するくらいさせてくれてもいいじゃないですかー! うわーん!」

「えっ、俺ってヤマトの次案なのか……」


 ごねたら何故か蓮が落ち込んだ。そこは「蓮と一緒に観光したい」って気持ちを拾ってもらいたかったよ。去年の夏合宿でもヤマトを連れていけなかったから、私は不満爆発なのだ。

 今年は行く理由がないので、夏合宿は行かないよ。誰になんと言われても、行かないったら行かない。


「でもさー、世界一強いって言われてる柳川の班になってもさ、柳川が戦ってくれなかったらすっごい不利じゃない?」


 口元に指を当てて、悩みながら須藤くんが発言した。むっ、鋭い。

 私はそりゃあ強いけど、今回は乗り気じゃないから「みんな頑張って戦ってねー。バフは掛けてあげるし怪我したら回復してあげるからー」程度にボイコットすることはできるのだ。それができるくらいには、クラスメイトも強くなってるし。


「前田と法月以外のA指定、ちょっとあっち行ってて。それ以外集合!」


 何故か須藤くんの号令で、私たちは先生の方へ追いやられた。そしてクラスのほとんどが顔を寄せ合って、ひそひそと相談している。

 あ、倉橋くんが「なんでだよ!」って叫んで逃げ出しかけた。そして即捕まった!

 何が起きてるんだ!


「よし、それで行こう」

「ダメだったときは考え直すってことで」


 柴田さんと前田くんが何故か場を取り仕切り、サクサクと黒板に班分けを書き込み始めた。

 私の所には、中森くんと室伏くんと須藤くんと金子くん……どういうメンバーだ、これ。


「なんだなんだ」


 私と蓮のところに名前を書き込んだ人たちが、私たちふたりの手を引いて取り囲んできた。蓮とふたりで思いっきり警戒していると、代表なのか須藤くんが真顔で手を挙げる。


「この2班合同で観光もダンジョンも全部回ろうよ。班行動予定表は出すしその通りの移動はするけど、観光地着いたらバラバラに行動すればいいじゃん? そしたら柳川と安永もある程度ふたりで回れるでしょ?」

「な、なるほど」


 これは――確かに妥協案だ。全く別々の行動になるよりは、周りに他のクラスメイトがいるけども一緒という方がまだまし。


「そこは気を遣うから、ダンジョンは活躍してよ。ドラゴンと戦いたいしさ」

「なるほどそう来たか!」


 クラスの中を見渡してみれば、あいちゃんと聖弥くんも同じように囲まれてる。同じ取引を求められてるんだろうね。

 そして、彩花ちゃんのところには……。


「長谷部様、生け贄でございます」

「お納めください」

「ふざけんなおまえらー! 俺の意思は無視か!」

「はーっはっはっは、良きにはからってやろう!」


 倉橋くんが前田中森の筋肉コンビに拘束されて、彩花ちゃんへの生け贄にされていた。

 あ、もうダメだね、ここは。クラス全員公認の「いつくっつくか観察案件」と化している。

 倉橋くんはどこまで抵抗できるかな……。


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