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第393話 戦力の把握は大事

「はい、ちゃきちゃき戦ってデストードの痺れ毒を集めようね!」

「うへぇー……」


 大山おおやま阿夫利あふりダンジョンに響く不満の大合唱。

 でも私は決して譲らない。

 修学旅行で活躍してやるから、これくらいは手伝え! と修学旅行の班メンバーを駆りだして大山に来ているのだ。


 デストードの痺れ毒はいくらあってもいいからね。私の場合一撃で倒すことも多くて極端に強い敵以外には使う頻度も下がってるけど、安全に戦おうと思ったらこれを使うのが一番。

 新宿ダンジョンの下層で大活躍したときのことは忘れないよ……。


 一応修学旅行の行動班(兼戦闘パーティー)は私が班長になっている。

 班長の名前順で班名が決まって「法月、長谷部、平原、前田、安永、柳川、由井」なので、うちは6班だ。数字で言うとどこの班かわかりにくいので、通称「柳川班」。


 私は班長なので、一応指示出しとかをする立場にある。一応ね、一応。

 蓮とかあいちゃんとか、指示出ししなさそうな班長もいるしね。

 あと、彩花ちゃんは自分が指示出ししないで最前線突っ切っていくよね。


 まあ、私もそれをやったっていいんだけど、私が冒険者をするのは高校生までの予定。それに対して他のメンバーはもっとずっと冒険者をするだろう。

 それなら、今後の成長に繋がる方がいい。


 いつメン以外のクラスメイトとダンジョンに潜るのって、1年ぶりかなあ。3月に追い出し会をやったときもいつものメンバーじゃなかったけど、全員刀だったからある程度戦い方の予測は付いた。


 でも、今回は――。


「えー、室伏の装備なにそれー」

「クロウだけど」

「ええええー、ゲーム以外でそんな武器初めて見たー!」

「中森も武器変えたよね」

「ロングソードだったけど、柳川たちの動画見てたら木を切り倒したくなってさー。斧にしたら合ってたんだよ」


 事前確認正解だ!

 もう1年生の後半から、実技でも全部の武器は扱ってないんだよね。だから、誰が何を使ってるかまで把握しきれなかった。

 まさか、こんなイレギュラーがいるなんて!


 須藤くんは去年の合宿後にボウガンにしたというのはちょっと聞いてた。金子くんはしつこくしぶとくショートソード+バックラー。このふたりはいかにもクラフトらしい選択だね。

 で、中森くんが斧か。前からパワータイプの戦い方だったし、いいんじゃないかな。


 問題は、室伏くんだよ。

 金属製の手甲から鉤爪が4本伸びてる「クロウ」と、脛を守る前面が金属製のグリーヴ。靴も爪先と甲は金属製だね。

 これは、近距離格闘戦特化! 確かに室伏くんは素手格闘が強いの知ってたけど――。


「両手にそれ嵌めてたら、ポーションとか飲めなくない? ポーションってか、飲み物も」

「柳川がツッコむところそこでいいの!?」


 須藤くんが叫んでるけど、だってそれ一番気にならない?


「あー、そうそう、だからいつも宇野と金子に飲ませてもらってる」

「こいつ強いけど迷惑なんだよね。ダンジョンに持っていくためにストローまとめ買いするなんて思わなかった」


 宇野くんと金子くんと室伏くんって、普段からパーティー組んでるのか。

 魔法使いと火力特化物理と防御も攻撃もそこそこいけるエンジニア……私と蓮と聖弥くんの組み合わせに近いなあ。なるほど、安定感はある。


 宇野くんは私や蓮のような「規格外」を抜きにすると一番真っ当な魔法使いなので、今回は前田くんの班にいる。

 寧々ちゃんもあいちゃんも彩花ちゃんも、なんだかんだで魔法は多少使えるからね。聖弥くんなんか補助魔法と攻撃魔法はコンプリートしてるし。


「うーん、デストードの痺れ毒を取りに来たのに使うのは本末転倒という気がしないでもないけど、どう考えてもこのクロウに相性が抜群すぎる! 何より私が毒付きクロウで戦う室伏くんを見たいとかちょっと思ってる!」


 ぎりぎりしながら、アイテムバッグから毒シートと毒無効の指輪を取り出す。これもなあ、蓮とお揃いだったんだけど、あまりに運用が適当すぎてもはや「誰のものでもない」になってるよね。

 私が回復魔法を使える以上、ここは不滅の指輪を装備しておくのが一番いいし。


「はい、手を出して! 毒シート貼ってあげるから! あ、須藤くんもボウガンの矢に貼っておくといいよ。私の毒シートは棒手裏剣用で小さいから、ボウガンにも向いてるし」

「おっ、サンキュー」

「さすやなー」


 両手にクロウを装着した室伏くんは細かい作業ができないので、私と金子くんとで爪に毒シートを貼り付けていく。それでやり方を見て、須藤くんも自分の矢にシートを貼り付けた。

 そして室伏くんと須藤くんに、毒無効の指輪を嵌めさせる。これは毒を運用する上で一番大事なアイテムだからね。


「えー、いいな、俺も俺も」

「そんな一撃必殺系の武器を使うくせに毒シートを羨ましがるな」


 いつもあまり深く考えない中森くんが毒シートを使いたがったので、それは却下。


「毒シートいいな。法月がもっとアイテムクラフト欲しいって言ってたのわかる。消耗品だから継続的に注文来るよね」

「俺、防具取ってないからアイテムクラフトもやろうかな」


 須藤くんと金子くんのクラフト組は、見所もちょっと違う。


「シートっていえばさ、上級ポーションをシート加工したものを貼るとぎっくり腰が一発で治るらしくて、今売れてるんだって」

「上級ポーションをシート加工……誰がそんなこと考えちゃったの。そしてぎっくり腰に貼ったのはどうして」


 毒をシート加工はわかるんだよ。携帯性と取り扱いの簡便性を考えたら、思いつかないことじゃないし。でも、外傷にはぶっかければいいし疲労回復には飲めばいいポーションのそんな使い道があったなんて。


「アイテムクラフト職人がぎっくり腰になって、藁にも縋る思いで試したら効いたって」


 金子くんの説明に、全員ちょっと気の抜けた「ほぉ~」という返事を返してしまった。私たちはぎっくり腰の大変さを身をもって知らないからね。


 毒シートを貼り終わって準備OK! いよいよ初めてのパーティーで上級ダンジョンに挑戦だ。

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