さて、戦うぞ! 私以外がね!
「沼地エリアでデストードとマッドゴーレムが出るから頑張ってね。危なくなったら助けるから」
「え、柳川は戦わないの?」
金子くんが目を剥いて驚いていた。えっ、驚かれるの?
「私班長ですし? みんなの戦い方見てパーティー運用を考えるよ」
「それは任せた。さっさと行こうぜー」
マサカリ担いだ金太郎、ならぬ斧を担いだ中森くんが雑にみんなを急かす。こいつは本当に頭を使うつもりがないな……。
「中森、室伏、GO!」
「金子も戦えってば」
2層に降りた瞬間、金子くんが戦闘を早々に放棄して須藤くんに叱られている……まあ、中森くんと室伏くんは普通に強いし須藤くんの痺れ毒矢の援護もあるから、無理に戦う必要はないけども。
「よっしゃー! 行くぜ!」
中森くんはマッドゴーレムに向かって斧を思い切り振り下ろし、デストードに室伏くんが攻撃を仕掛けた。須藤くんはふたりがターゲットにしていない敵にボウガンを向けている。
うん、悪くない連携かな。金子くんが動いてないけども、痺れ毒を活かして動ける敵を減らそうっていう須藤くんの立ち回りがうまい。
――と思ったのは、戦闘開始から10秒くらいまででした。
「おっ!? やべ、斧がハマった!」
「柳川! 柳川ー! こいつ動くぞ!?」
……マッドゴーレムを一撃で倒せない攻撃力だった中森くんの斧は泥の体にめり込んで動かなくなり、デストードを麻痺させようとした室伏くんの攻撃は単純に打撃が入っただけ!
なんという大惨事でしょう。
そっか! そもそもデストード由来の痺れ毒だもんね、デストードには効かないんだ。今まで
マッドゴーレムのぶっとい腕が中森くんを殴りつけようとしたところに、ぶっすりと矢が刺さる。途端に泥の巨体の動きは止まった。
「さっさと斧抜いて!」
「須藤くんナイス!」
中森くんの斧が泥に捕らわれたところで、すかさず動きを止めに行ったのは状況把握ができてる証拠。前から思ってたけど、須藤くんは強いわけじゃないけど――いや、自分が強くないことに自覚的だからかもしれないけど、観察力と戦術眼がずば抜けてる。
常に「最小の行動で最大の効果を発揮するには」って考えてるような動きだし、毒付きボウガンは武器の最適解。総合すると、直接のダメージ要因ではないけど、戦力として凄く優秀ってこと。
「やばい、抜けない! うおっ」
斧を引っこ抜こうとした中森くんは、斧に手を掛けたままマッドゴーレムに足を突っ込んでる! え、何しようとしてるのこいつ!
まんまと泥に足が埋まってこけてるし! 何やってるの、本当に!
「おまえ、バカだろ!?」
「中森はバカだよ! 1年生の時からパーティー組んでて思うけど!」
「須藤ーーーーーーーーーーーーー! 俺のことそんな風に思ってたのかよ!」
金子くんが中森くんを罵倒し、須藤くんが追い打ちを掛け、割と素直なバカである中森くんはメンタルにダメージを負ったようだ。
……この班、大丈夫かなあ。
ショートソードを鞘に収めて、金子くんが中森くんを引っ張って立たせていた。私が助けに入らないといけないかなと思ったけど、フォローが入ってよかった。
中森くんが斧を手放してマッドゴーレムから足を引っこ抜いた頃、毒の効かないデストードVS毒の効かない室伏くんの戦いはなんとかけりが付いていた。中森くんのピンチに気を取られたからちゃんと見られたわけじゃないんだけどね。
「柳川様! ちょっと助けてください!」
「音を上げるのが早ーい!」
挙手してヘルプコールをしてきた中森くんに、思わず叫んでしまう。
去年は私に決闘を挑んできたりしたくせに、プライドがなくなったのかな?
「しょうがないだろ、江ノ島ダンジョンに沼地エリアないんだし」
ゴリゴリマッチョのでかい男子がぶーと唇を尖らせても可愛くないのよ!
でも……なるほど、マッドゴーレムと戦うのは初めてだから、勝手がわからなかった、と言いたいんだろうな。
今まで普通に倒してたけど、私のステータスがおかしいんであって、マッドゴーレムも上級ダンジョンの敵だし強敵なはずなんだ。
「しょうがないなー、離れててよ? ファイアーウォール!」
マッドゴーレムと戦うならやっぱりこれだよね。もちろん普通に魔法で倒してしまうこともできるけど、できるだけ戦いの経験を積んで欲しいし。
炎でこんがりとマッドゴーレムが煉瓦のように焼き上がるまで、武器のない中森くんは逃げ回り、金子くんが「面倒くさい」を連発しながらデストードの攻撃をバックラーで躱し続けていた。
「よし、室伏くん、攻撃して!」
「オッス!」
クロウを嵌めた左右の拳での抉るようなパンチと、金属製のグリーヴを着けた脚での蹴り。それが綺麗に連撃で入って、マッドゴーレムがバラバラと崩れていく!
おおっ、なんか凄い! 昔の格ゲーのボーナスステージで車とかをフルボッコにしてるみたいな動きだ!
あんまり使う人がいない武器なのも相まって、ママがいたら絶対大興奮してると思ってしまったよ。
「マッドゴーレムに打撃有効だね、じゃあどんどん焼いちゃうね!」
私たちを取り囲むようにファイアーウォールを次々と撃つ。デストードは逃げて行くけど、マッドゴーレムは動きが遅いから逃げ切れないのは経験上知ってる。
「待てよ? 毒が有効なのってマッドゴーレムの方だよな。柳川、どう?」
「アースドラゴンにも効いたよ。むしろ今まで効かなかった敵がいなかったから、うっかりデストードが自分の毒で痺れるわけないって忘れてたくらい」
「わかった。じゃあ同士討ちさせればいいんだな」
金子くんがすいっと動いて、デストードのターゲットを取りに行った。そして長い舌での攻撃を盾で受け流しながらうまく移動して、動きの遅いマッドゴーレムにするりとデストードの攻撃を当てさせた。