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第401話 困ったときは保護者に頼む



「ねーねー、明日どこ行くの? 明後日は?」


 バス屋さんはあっという間にクラスメイトと仲良くなってる。この人の距離感バグってるからなあ。


「明後日はダンジョンだけど、明日は自由行動。ついてくるな」

「えー、昼飯くらい奢ってあげるのにー」

「バス屋さん、一緒に行こう」

「ゴチになります!」


 彩花ちゃんが「ついてくるな」と釘を刺したのに、奢りに釣られる人続出!


 ……まあ、いいか。私と蓮は、彩花ちゃんの班とは行動が別だし。

 倉橋くんと彩花ちゃんの対応が心配だったけど、倉橋くんが珍しくきっぱり拒否してるから大丈夫そうだと思う。


「だからさ、明後日のダンジョンも一緒に行くよ!」

「えっ」


 今まで「他人事イェーイ」って顔をしていた、蓮と私のところの班メンバーもピキッと顔を引きつらせる。

 バス屋さんがダンジョンで暴れたら、高校生たちの経験値取り分が減るじゃん!?


「俺も清水の舞台から飛び降りてみたかったんだよねー」

「武器防具どうするんです!? 蜻蛉切持ってきてないですよね?」

「えー、そこら辺でなんか調達してくるよ。槍じゃなくても戦えるし」


 蓮が食い止めようとしたけど、簡単に突破された!

 うううーと頭を抱えていたら、須藤くんに「なんとかしてよ」と追い打ちを掛けられる。


「わかった、なんとかできるように頑張る」


 口ではそう言ったけども……。

 最悪、私が羽交い締めにしてればバス屋さんは動けない。

 でもそれじゃあ、ねえ。


 とりあえず地主神社でバス屋さんと別れ、宿に戻る間私はずっと対処法を考えていた。



「あっ、お帰りー」

「寧々ちゃん!」

「ねねっちぃぃぃ!」


 部屋に戻ったら寧々ちゃんがいたので、思わずその肩をガッと掴む。彩花ちゃんも腕をホールドしていて、寧々ちゃんは逃げられない!


「バス屋さんに情報を流したのなんで?」

「えっ、ダメだった?」

「ねねっち? 『倉橋の行動教えて』って言われたんでしょ? で、私の行き先訊いたよね?」

「うん。倉橋くんに訊きに行くより、長谷部さんの方がスムーズに話せると思ったから」


 うっ、曇りのない目!

 確かに寧々ちゃんが倉橋くんに「この後の予定は?」って訊きに行くのは不自然。普段それほどしゃべってる組み合わせじゃないからね。

 と思っていたら、衝撃の一言が寧々ちゃんから飛び出した!


「新幹線の時間教えたのも私だし」

「えーーーーーーー!? なんでそんなことを!?」

「バス屋さんにLIMEで訊かれたから、普通に。京都駅であんな騒ぎになるとは思ってなかったし……」

「あんな騒ぎになった後で、どうしてまた情報を流しちゃったの?」

「バス屋さんが倉橋くんと仲良くしたがってたから。バス屋さんのX‘sアカウントで、NeNe工房の宣伝してもらう約束もしたし」


 ああ……これは、開き直ってる。

 寧々ちゃんはおとなしそうに見えて商魂たくましいからなあ。


 そしてNeNe工房の宣伝と言われたら、うちのクラスのクラフトは何も言えなくなっちゃうんだよ。


 寧々ちゃんは悪くないから! と叫んでいたバス屋さんの声が蘇る。

 うん、寧々ちゃんが一切悪いと思ってないし、別に倉橋くんの不幸を願ったわけでも混沌を楽しみたかったわけでもない。


 だけど、とりあえずダンジョンのことはなんとかしなきゃね。

 夕飯の後に蓮と聖弥くんを呼び出して相談をする。蓮は地主神社でのバス屋さんを見てるから切迫感があるし、聖弥くんはこういう時の対策で頼りになる


「やっぱり、一番効果が高いのは颯姫さんに相談することじゃないかな」


 聖弥くんの案に、私と蓮は頷いた。やはりそこね、と思った。

 バス屋さんは現状リード無しで暴れ回っているシベリアンハスキーなので、リードを掴める人にお願いするのが一番だ。


 私から颯姫さんにLIME通話を架けたら、運良く颯姫さんが出てくれた。


「聞いてください、バス屋さんが修学旅行に紛れ込もうと京都まで来てるんです!」

『えっ?』


 心底驚いたらしくて、颯姫さんの声が裏返り掛けてた……。

 とりあえず、京都駅で起きたことと地主神社で起きたこと、明後日のダンジョンに一緒に来ようとしてるけど、それをなんとかしたいことを説明すると、颯姫さんは電話の向こうで悲鳴を上げた。


『あのバカ! どうしよう、止めに行きたいんだけど、明後日はどうしても外せない予定があって……ライトさんとタイムさんに相談するから、一度切って待ってて』

「はい、すみません、お願いします」


 電話を切って、私たち3人はため息をついた。

 ライトさんとタイムさんまで巻き込んでしまったよ……。


「……ライトさんとタイムさんに申し訳ないって思っちゃったけど、そもそもバス屋さんひとりが悪いんであって、私たち悪くないよね」

「そうだな、バス屋さんだけが悪い」

「あの人はいつもお騒がせだよね」


 ぼそぼそと愚痴を言い合いながら待っていたら、通知が入った。ライトさんからグループへのお誘いだ。許可したらすぐにグループ通話が始まった。


『藤さんから聞いたよ。本当にごめん! 最近俺たちがバス屋を構ってやってないから余計にゆ~かちゃんたちに絡みに言ってるんだと思う』


 バス屋さんってば寂しがり屋の末っ子かな? いや上に兄姉がいる感じもしないけど。


『僕とライトさんは休み取って、明後日の朝一の新幹線でそっちに行くよ。バス屋は必ず僕たちがなんとかするから安心して』

「お願いします!」


 タイムさんが「必ずなんとかする」というからには安心していいよね。なんといっても腹黒四天王最強だし。

 というか、休み取らせちゃうのか……。今会社員をしているふたりに休み取らせちゃうのか……。


 バス屋さん、なんて傍迷惑な人なんだ。


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