朝ご飯を食べて、昨日と同じくいつもと違う低めツインテにして、今日は班単位での自由行動の日だ。
一応学校へはルートも提出しているし、班長がGPSも持たされてる。
――とはいえ。
「何食う?」
「バター鯛焼き!」
「う巻!」
蓮の班と合同で、女子が私ひとりしかいない状態では、こうなるのも必然というか。
錦市場でいきなり食べ歩きだよ。
観光? 中学の時にしたし、私も別に金閣寺とか渡月橋とかそんなに見たいと思わない……。
高校2年生で冒険者で男子となったら、四六時中物を食べていられるんだよね。
やればできる、の意味であって、そこまでみんな食い意地が張ってるわけじゃないけど。
でも今は修学旅行。そう、たがが外れているのである!
「ねえ、みんなちょっと待ってよ!」
進むスピードがおかしくて、思わず私は声を張り上げてみんなを止めた。
「私、あそこの抹茶わらび餅が食べたい! 2階にカフェがあるって書いてあるから、一旦別れてどっかで待ち合わせしよ?」
「結局柳川も食べるんじゃん」
須藤くんにノータイムツッコミをされたけど、私だって食べ歩きくらいするよ。
「蓮も行くよね」
「当たり前だな」
男子の中ではあまり食べ歩きしない方の蓮でも、私と一緒の和カフェは別なんだよ! 多分。
「じゃあ、班を決めたときの約束通り、ここで別行動ね」
「へーい」
時間を決めて一旦解散し、私と蓮だけがカフェへ。他の男子たちは「抹茶ソフトは食べたいけどパフェは……」とか言っている。」
私は抹茶パフェ、蓮は冷抹茶とあんみつを頼んだ。いろいろ悩んだけど、ここのパフェはわらび餅も載ってるしね。
わらび餅は美味しかったらパックで買って部屋に帰ってからみんなで食べようと思いつつ、パフェをいただく。
「ん~~!」
これだよ、これー! わらび餅はプルプルで、苦いくらいの抹茶ソフトクリームと生クリームがジャストマッチ!
私までぷるぷるとしていたら、その顔を蓮に撮られた。しかも、撮った写真を見てふっと笑ってる。
「動物といるとき以外で、一番おまえが幸せそうにしてる」
「えっ!? そこまで? でも美味しいよ」
「わかる、わかるよ。あんみつと冷抹茶、苦いと甘いでエンドレスにいける奴。いいんだ、今日はチートデーだから、気にしないで甘い物も食べる」
「一口ちょうだい」
さすが努力の鬼、普段甘い物とか控えるようにしてるんだーと感心しつつ、蓮のあんみつを一口。おお……甘すぎず風味もあるあんこが美味しい。この後に抹茶ソフトクリームを食べると……んんんんんー、幸せー。
蓮も私のパフェを一口食べて、頬を緩めていた。さっきのお返しにすかさずその顔を写真に撮る。
「チートデー、チートデーだから。すみませーん、注文お願いします」
「えっ?」
「いや、これヤバいだろ。美味しすぎる」
「京都で食べる抹茶系の物って美味しく感じるのはわかる」
でも、あんみつがまだ半分残ってるのに抹茶パフェも頼むんだ? 普段どれだけ甘い物制限してるんだろう……鎌倉で食べ歩きしたときには紫いもソフトとか普通に食べてたけども。
「あんみつが半分……」
「いいんだよ、パフェが来る前に食べ終わるから。チートデー」
見る間に冷抹茶とあんみつのコンボを決めて、蓮はあっという間に食べ終わってしまった。私はうっかりそれを見ていてソフトクリームが溶けた。
「なんか、せっかく京都にきたんだし、お昼にちょっといい物を食べようとか思ってたけど……食べ歩きでお腹が埋まっちゃった」
「俺も。普段だったらまだお昼の時間じゃないしな」
お腹が埋まったということに同意しながらも、蓮はぱくぱくとパフェを食べている。
「よーし。わらび餅買ってって部屋でみんなと食べようっと」
「あ、俺も」
食後に「本日中にお召し上がりください」なわらび餅を買って、私たちは待ち合わせ場所へ向かう。その途中、蓮が立ち止まった。
「ちょっと待ってて。買ってくる物思いついた」
何故か蓮はドラッグストアへ入り、すぐに戻ってきた。「思いついた」って何? ここではさすがにお土産は買わないよね。
「ドラッグストアを見た途端、『倉橋に胃薬買ってってやろう』って思ってさ。同じ部屋だし」
「ああ……私も買ってこようかな。ライトさんとタイムさんの分」
「長谷部と倉橋の班、きっと今日もバス屋さんがさらっと混じってるんだよな……」
「うっ、私まで胃が痛くなってくる」
想像すると本当に胃がキリキリするわ。倉橋くんにまとわりつくバス屋さんと、バス屋さんの存在で殺気をビシバシと放つ彩花ちゃん。もう最悪だ。私も慌ててドラッグストアへ駆け込んで胃薬を買った。
そしてまた全員が合流したんだけども、ここで問題が。
この後どこに行くかが、何故か決まっていないのだ。
行動表には一応書いてあったよ、錦市場から八坂神社行って高台寺とか。でも、誰も実は行く気がない。私も面白さがわからない。
そして、1時間後……。
「よっしゃ、パーフェクトゲーム!」
「ずりぃぞ金子ー」
「ボウリングの力加減、以外にむずっ!」
「ははははは! 精密コントロールはクラフトの独壇場だぜ!」
気がつくと私たちは室内型アミューズメント施設でボウリングをしていた。
おっかしいなー、ここ1時間の記憶がないわ。
ラウワン行こうぜーって誰かが言い出して、修学旅行でラウワン? と思ったけども、そういえば普段全然そういうところ行く余裕なんてないよねって気がついて、気がつくとノリノリで向かってたことは覚えてるけど!
ボウリングをして、卓球をして、カラオケをして――いや、本当に久々すぎて驚いた。
高校に入ってから、みんなトレーニングとかダンジョンとか忙しくて、こういう「みんなで行く遊び」って全然してこなかったよ。平塚まで行かないとラウワンないしね。
これ、まさに修学旅行の意義じゃない? 普段できないことをするって!
……という言い訳をしつつ、4時間遊び倒してから私たちは京都駅でお土産を買って宿に帰った。
「ラウワン……柚香たち、修学旅行で何やってるの?」
かれんちゃんはわらび餅を食べながら心底呆れたって顔で私を見てきたけども!
いいんだ、本番は明日のダンジョンだもん!
なお、彩花ちゃんの機嫌が悪かったことについては言うまでもない。