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第403話 清水寺ダンジョンへダイブするぜ!

 ゆうべは彩花ちゃんの愚痴が止まらなくてヤバかったから、スリープを唱えて強制的に落とした。

 巻き込まれたあいちゃんやかれんちゃんからクレームが来るかと思ったら、案外寝落ちる瞬間のことは覚えていないらしくて、何も言われなかった。


「今日はー、ダンジョンダンジョン。今回こそはドラゴンをぶっ倒す!」


 お味噌汁を飲みながら彩花ちゃんが物騒な発言をしてたけど、前回ドラゴンに遭遇したときは私と聖弥くんに譲ってもらったからね。


「柳川……」


 食べ終わって食器を下げようとしたら倉橋くんが話し掛けてきたけども――ひえっ! 一日でげっそりしてるぅぅぅ!


「バス屋さんって今日も来るのかなぁ?」

「あーっ、来ると思うけど、こっちも保護者に連絡しておいたから大丈夫だよ」

「保護者ってバス屋さんの保護者?」

「そうそう」

「成人済みの人の保護者……」


 倉橋くんは哲学し始めちゃったけど、一応昨日の夜もライトさんからちゃんと連絡は入ってるから、バス屋さん対策は取ってある。

 どうやって連れ帰るのかな? バス屋さんは一番背が高いから、あれで暴れられたら結構大変そうだけど。


 一昨日みたいに、私と蓮と彩花ちゃんの班メンバー15人で清水寺に向かい、今日は参拝をしてから清水の舞台に向かう。


「ドラゴンに遭遇できますように」


 彩花ちゃんがそんなお願いをしてるけど、仏様に願うこととしては物騒すぎないかな。

 実は昨日清水寺ダンジョンに挑んだ4パーティーは、どれもドラゴンに遭遇できなかったのだ。


 理由は割と単純で、下層に出現するドラゴンのところへ辿り着く前にタイムリミットが来てしまったから。

 それを聞いて、「強い奴らは後回しな」って分け方をされたのを黙って受け入れたけど、それは失敗だったかもと思ったよ。


 聖弥くんを魔法使いとして運用するって、聖弥くん自身が思いつかなかったら多分誰も思いつかない。だって、見た目がバリバリファイターだもん。

 私と蓮は氷コンボを使えるし、私はインフィニティバリアも使える。

 下層へ短時間で到達するには、それが必要だよ。


 それについては1層での作戦会議の時に提案しようと思いながら、私たちは清水の舞台から下を覗き込んだ。

 ちょっと離れたところからだと木が鬱蒼と茂ってるように見えるけど、清水の舞台から見れば、そこにダンジョンハウスとダンジョンの入り口があるのがわかる。


 一応、舞台の端っこに「冒険者以外使用禁止」と書いてある立て札があって、そこにはしごがある。

 行きは飛び降りてショートカットできても、帰りははしご上らないと凄い回り道になるからね。


 清水寺ダンジョンは上級だから、それなりにステータスが育ってないと挑むのは難しい――ってことは、大体みんな飛び降りちゃうんだよね! 私も飛び降りるけど!


「テレポート」


 だけど蓮は魔法でダンジョンハウスの前に直接移動してた。……そんな気はしてた。前に颯姫さんにトルネードで打ち上げられたとき絶叫してたから。


 奥多摩ダンジョンにヤマトを探しに行って、ヘリから飛び降りた時のことを思い出す。でも高さは全然違うけどね。こっちは楽勝。


「テレポートずるい」

「いや、普通に飛び降りたくないよ、こんなところ」


 4階分の高さを軽く飛び降りた私がツッコむと、蓮は愚痴を言いながらダンジョンハウスに入っていく。

 他のメンバーもどんどん降りてきて、ダンジョンハウスで着替えをしてからダンジョンに向かう。

 うん、ここまででバス屋さんに遭遇してないな。ダンジョンハウスにいるかと思ったんだけど。


 もしかしたら、振り切れるか!?

 ……という考えをちらっと持ったけど、やっぱりそれは甘い考えで!


「オッス! おはよう!」


 うわああああ! 芋ジャージ初心者の服に木刀持ったバス屋さんが駆け込んできた!

 この人、新撰組って書いてある木刀買ってきたのかー! それでダンジョンで戦おうとする人見たことない!


 というか、その木刀だったら初心者の剣の方がまだマシでは!?


「おはよう、バス屋」


 私が慄いていたら、ダンジョン1層の壁際から声がした。

 驚いてそちらを向いたら、入り口からは見落としがちなすぐ横の壁にくっつくように、ライトさんとタイムさんがいる!


「えっ、ライトさんとタイムさん!? こんなとこで何やってるの?」

「ゆ~かちゃんに頼まれてね」


 うっ、久々に見たタイムさんの腹黒スマイル……。バス屋さんは尻尾を振る犬のようにふたりに近寄っていく。


「もしかして、俺と一緒にダンジョン潜ってくれるの? でもなんで普通の服?」

「俺たちがここにいるのは」

「おまえを連れ帰るためだよ」


 タイムさんが後ろ手に隠していたボウガンの矢で、バス屋さんの手をぶっすり刺したー!


「ライトヒール」


 そしてすかさずライトさんが回復魔法を唱えてるけど……何が起きた?

 いつもだったら「タイムさん酷い!」とか叫びそうなバス屋さんも、何故か黙ってるし。


「デストードの痺れ毒だよ。これで3時間は動けないから、このまま回収していくよ。こいつが迷惑掛けてごめんね」

「じゃあ、修学旅行楽しんで」


 ライトさんが縦長なバス屋さんをひょいと担ぎ、私たちに片手を挙げてタイムさんと一緒に去って行った。


「デストードの痺れ毒……って、あれか。柳川が使ってる奴」

「うっへえ、容赦ない」

「今の人たち、誰?」

「バス屋さんが元々所属してたライトニング・グロウの、ライトさんとタイムさん。つまりバス屋さんの保護者だよ」


 私が説明したら、大体の人は「ほー」くらいの反応だったけど……。


「デストードの痺れ毒」

「超有効じゃん。3時間動けなくさせるって。思いつかなかったボクの不覚!」


 倉橋くんと彩花ちゃんは、なんか別のところに反応して目がぎらついているね。

 物騒物騒。


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