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第407話 ドラゴンを探せ



 氷の上を渡りきって、階段で私と蓮と彩花ちゃん以外はポーションを使って疲労を回復。ここで改めて武器を装備して、ドラゴンとの戦闘準備をすることになっている。

 そしてみんながポーションを飲んでいる間に、私たち班長は作戦の最終確認をした。


「まず、トップバッターはうちの班ね」


 アイゼンを外しながら鼻息荒く彩花ちゃんが宣言する。

 そう、ドラゴンを発見した場合の戦闘優先権は、彩花ちゃんの班が1番だ。


「俺たちは26層、柚香たちは25層へ回って、ドラゴン捜索だな」


 うちの班と蓮の班は合同討伐。私と蓮が直接戦闘に参加しないから、そのくらいで良い。


 彩花ちゃんたちは24層、私たちは25層、蓮たちは26層を捜索する。そして、発見次第連絡を取り合って、現場に集合の予定。

 ここまで猛スピードで突っ切ったから、奇跡的に時間は12時ちょっと過ぎだ。

 モンスターのリスポーンは、早くて30分、遅くて4時間くらいかかる。ドラゴンはレアモンスじゃないから、運が良ければリスポーンする。


「一番いいのは、複数いることだけどなー」


 楽観的過ぎることを室伏くんが言ったけど、みんなうんうん頷いている。

 ドラゴンはレア湧きじゃないけど、準レアみたいな存在みたいだ。

 普通のモンスターのように、同じフロアにわらわらと湧いたりしない。1匹いたら、同じフロアに2匹目はいないらしい。


 でも、私たちにはドラゴンと遭遇できるという勝算がある。

 なんといっても今は修学旅行シーズン! つまり、ここにくるのは高校生ばっかりで、下層はほとんど手つかずってこと!

 奥多摩ダンジョンと同じような条件が満たされてるから、高確率でドラゴンはいるはず。


「じゃあ、長谷部班は頑張って探してね。私たちは森林破壊せずに下に行くから」

「りょー」


 また木を切り倒して突っ切っても良いんだけど、進行ルートは24層の索敵も兼ねてる。とにかく早く1匹目のドラゴンを倒すのが私たちの目標だ。


「サモン・ファミリア!」

「サモン・ファミリア。……うえー」


 私と蓮は使い魔を出して、索敵効率を上げる。本当に便利だよ、サモン・ファミリアは!


「ちなみに、俺この魔法使ってると、他の魔法使えないからよろしく」

「うっわ、姫じゃねーか。俺たち護衛?」


 浦和くんが多分悪気無く言った一言で、周囲が凍り付いた。ニタリとしたのは彩花ちゃんひとり……。


「お、おい浦和、何言ってんだよ。安永様のご機嫌を損ねるんじゃないよ。こいつそういうことに関しては、メンタル弱いんだから」


 浦和くんと同じ安永班の千葉くんが、蓮を庇って逆に止めを刺している。あああ、もう……。


「あっ……悪い、言い過ぎた! ごめん!」

「どうせ、俺は柚香にお姫様抱っこされたよ……最悪の姫だよ」

「サモン・ファミリアは向き不向きがあるんだよ! 聖弥くんも確か他の魔法使えなくなるよ!」


 浦和くんが慌てて謝ったけども蓮がやさぐれ始めたので、慌てて私がフォローする。んもー、こんなことで時間食っていられないのに。


「そうだよ、俺に文句言うのは、サモン・ファミリアと他の魔法を併用できる奴だけにしろ」


 蓮が「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず石を投げなさい」みたいな事を言いだしたので、他の男子は全員沈黙した。

 このメンバー、見事に魔法使いがいないんだよね。


「時間がもったいないから移動始めようよ。長谷部班は右、うちと蓮のところは、最初は一緒で次の分岐を左右に分かれよう。行くぞー!」


 問答無用で私が走り始めると、まずうちの班員が、そして次に蓮が慌てて走り始めた。

 彩花ちゃんも「ドラゴンを探せー!」と発破を掛けて、本気で攻略モードに入ったみたいだ。


「じゃあ、私たちは右ね!」


 次の分岐は、大きな部屋の外周をぐるりと取り巻く形になっている。

 階段の直前の合流地点に、そちら側からしか入れない大部屋への入り口があって、噂によるとモンスターハウス化しやすいらしい。


 モンスターハウスになってたらいろいろと美味しいんだけど、私たちの今の狙いはドラゴン。走りながら自分の視界で前方を確認しつつ、ナツに壁抜けさせて大部屋の様子も確かめる。


 うん、モンスターハウスでもないし、アルミラージとかダイアウルフとかアルラウネとか、小さいのしかいないね!

 ドラゴンはノーマルモンスターとしては破格にでっかいから、すぐ判断できるところがいい。


「蓮、メイルシュトロム撃つから、アブソリュート・ゼロで凍らせて」

『オッケー! でも合流してからな』


 オリハルコン・ヘッドギアで通話を繋ぎっぱなしにしてる蓮に頼んだら、注釈付きの承諾が返ってくる。

 そうだ、蓮は魔法の並行使用ができないもんね。魔法と言えば蓮、蓮と言えば魔法だから、「魔法で蓮にできないことがある」のは不思議な感じ。


 木でできた通路を、ファイアーボールを撃って前方の敵を一掃して駆け抜ける。


「ホント、柳川が魔法撃ってるの、何度見ても慣れない」

「ぼやく余裕があったらスピードあげて!」


 軽く私をディスった須藤くんを一喝して走ることに集中させ、大部屋の中にいたナツを編成最後尾に回して後ろを警戒する。

 ……まあ、思った通り追いかけられてたけどね。でもエルダートレントだったからファイアーウォールで足止めする。


 エルダートレントは「木なんだから走るなんて無茶するな」って言いたくなるくらい足が遅い。その上ファイアーウォールに突っ込んでくるようなことはしない。植物だから。


 思い出すなあ、奥多摩ダンジョンで「退避が遅い」って言ってエルダートレントにアグさんのブレス使ってたママのことを。

 確かに、進行ルート上にいると邪魔でしかないのはわかるんだけども。


「ルート確保に追撃阻止とか、至れり尽くせりで気持ち悪い」

「その分、ドラゴンと遭遇したときには手助けしないからね」


 室伏くんも褒めてるようなディスりをしてきたけど、しゃべったくらいでスピードが落ちるような人じゃないからギリギリ許してやろう。


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