氷の上を渡りきって、階段で私と蓮と彩花ちゃん以外はポーションを使って疲労を回復。ここで改めて武器を装備して、ドラゴンとの戦闘準備をすることになっている。
そしてみんながポーションを飲んでいる間に、私たち班長は作戦の最終確認をした。
「まず、トップバッターはうちの班ね」
アイゼンを外しながら鼻息荒く彩花ちゃんが宣言する。
そう、ドラゴンを発見した場合の戦闘優先権は、彩花ちゃんの班が1番だ。
「俺たちは26層、柚香たちは25層へ回って、ドラゴン捜索だな」
うちの班と蓮の班は合同討伐。私と蓮が直接戦闘に参加しないから、そのくらいで良い。
彩花ちゃんたちは24層、私たちは25層、蓮たちは26層を捜索する。そして、発見次第連絡を取り合って、現場に集合の予定。
ここまで猛スピードで突っ切ったから、奇跡的に時間は12時ちょっと過ぎだ。
モンスターのリスポーンは、早くて30分、遅くて4時間くらいかかる。ドラゴンはレアモンスじゃないから、運が良ければリスポーンする。
「一番いいのは、複数いることだけどなー」
楽観的過ぎることを室伏くんが言ったけど、みんなうんうん頷いている。
ドラゴンはレア湧きじゃないけど、準レアみたいな存在みたいだ。
普通のモンスターのように、同じフロアにわらわらと湧いたりしない。1匹いたら、同じフロアに2匹目はいないらしい。
でも、私たちにはドラゴンと遭遇できるという勝算がある。
なんといっても今は修学旅行シーズン! つまり、ここにくるのは高校生ばっかりで、下層はほとんど手つかずってこと!
奥多摩ダンジョンと同じような条件が満たされてるから、高確率でドラゴンはいるはず。
「じゃあ、長谷部班は頑張って探してね。私たちは森林破壊せずに下に行くから」
「りょー」
また木を切り倒して突っ切っても良いんだけど、進行ルートは24層の索敵も兼ねてる。とにかく早く1匹目のドラゴンを倒すのが私たちの目標だ。
「サモン・ファミリア!」
「サモン・ファミリア。……うえー」
私と蓮は使い魔を出して、索敵効率を上げる。本当に便利だよ、サモン・ファミリアは!
「ちなみに、俺この魔法使ってると、他の魔法使えないからよろしく」
「うっわ、姫じゃねーか。俺たち護衛?」
浦和くんが多分悪気無く言った一言で、周囲が凍り付いた。ニタリとしたのは彩花ちゃんひとり……。
「お、おい浦和、何言ってんだよ。安永様のご機嫌を損ねるんじゃないよ。こいつそういうことに関しては、メンタル弱いんだから」
浦和くんと同じ安永班の千葉くんが、蓮を庇って逆に止めを刺している。あああ、もう……。
「あっ……悪い、言い過ぎた! ごめん!」
「どうせ、俺は柚香にお姫様抱っこされたよ……最悪の姫だよ」
「サモン・ファミリアは向き不向きがあるんだよ! 聖弥くんも確か他の魔法使えなくなるよ!」
浦和くんが慌てて謝ったけども蓮がやさぐれ始めたので、慌てて私がフォローする。んもー、こんなことで時間食っていられないのに。
「そうだよ、俺に文句言うのは、サモン・ファミリアと他の魔法を併用できる奴だけにしろ」
蓮が「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず石を投げなさい」みたいな事を言いだしたので、他の男子は全員沈黙した。
このメンバー、見事に魔法使いがいないんだよね。
「時間がもったいないから移動始めようよ。長谷部班は右、うちと蓮のところは、最初は一緒で次の分岐を左右に分かれよう。行くぞー!」
問答無用で私が走り始めると、まずうちの班員が、そして次に蓮が慌てて走り始めた。
彩花ちゃんも「ドラゴンを探せー!」と発破を掛けて、本気で攻略モードに入ったみたいだ。
「じゃあ、私たちは右ね!」
次の分岐は、大きな部屋の外周をぐるりと取り巻く形になっている。
階段の直前の合流地点に、そちら側からしか入れない大部屋への入り口があって、噂によるとモンスターハウス化しやすいらしい。
モンスターハウスになってたらいろいろと美味しいんだけど、私たちの今の狙いはドラゴン。走りながら自分の視界で前方を確認しつつ、ナツに壁抜けさせて大部屋の様子も確かめる。
うん、モンスターハウスでもないし、アルミラージとかダイアウルフとかアルラウネとか、小さいのしかいないね!
ドラゴンはノーマルモンスターとしては破格にでっかいから、すぐ判断できるところがいい。
「蓮、メイルシュトロム撃つから、アブソリュート・ゼロで凍らせて」
『オッケー! でも合流してからな』
オリハルコン・ヘッドギアで通話を繋ぎっぱなしにしてる蓮に頼んだら、注釈付きの承諾が返ってくる。
そうだ、蓮は魔法の並行使用ができないもんね。魔法と言えば蓮、蓮と言えば魔法だから、「魔法で蓮にできないことがある」のは不思議な感じ。
木でできた通路を、ファイアーボールを撃って前方の敵を一掃して駆け抜ける。
「ホント、柳川が魔法撃ってるの、何度見ても慣れない」
「ぼやく余裕があったらスピードあげて!」
軽く私をディスった須藤くんを一喝して走ることに集中させ、大部屋の中にいたナツを編成最後尾に回して後ろを警戒する。
……まあ、思った通り追いかけられてたけどね。でもエルダートレントだったからファイアーウォールで足止めする。
エルダートレントは「木なんだから走るなんて無茶するな」って言いたくなるくらい足が遅い。その上ファイアーウォールに突っ込んでくるようなことはしない。植物だから。
思い出すなあ、奥多摩ダンジョンで「退避が遅い」って言ってエルダートレントにアグさんのブレス使ってたママのことを。
確かに、進行ルート上にいると邪魔でしかないのはわかるんだけども。
「ルート確保に追撃阻止とか、至れり尽くせりで気持ち悪い」
「その分、ドラゴンと遭遇したときには手助けしないからね」
室伏くんも褒めてるようなディスりをしてきたけど、しゃべったくらいでスピードが落ちるような人じゃないからギリギリ許してやろう。