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第408話 イベント大渋滞

 大部屋をぐるりと迂回し、私と蓮の班が合流地点に到着したのはほぼ同時だった。

 私の顔を見た蓮は、あからさまにホッとした顔で使い魔コウモリを消した。


「柚香のナツがいれば俺のは使わなくて良いよな」

「いいけど、26層に着いたらまた蓮は出さなきゃいけないんだよ?」

「……だよな。切実に25層で出てくれることを祈るわ」


 げっそりしている……蓮は余程サモン・ファミリアが嫌いなんだな。


「じゃあ、ここの経験値だけもらおう。メイルシュトロム!」


 私が最上位魔法のメイルシュトロムを撃つと、大部屋の中心に渦巻く巨大な水が現れた。途端に「おおおおお!」と男子たちが叫びまくる。

 まあ、ドドドドシャッ! と水が地面に落ちた音で大体がかき消されたけども。


 そして蓮がアブソリュート・ゼロで一気に水を凍らせる。ピキピキと水が凍り付いていく音だけが部屋を支配していた。

 これで、この部屋のモンスターは経験値と化したよ。アイテムドロップはないけどね。


「何これ……」

「水没させて凍らせると,倒した扱いになるんだよ。滝エリアのモンスも全部それで倒してるから、結構経験値はいったんじゃないか?」

「うわー、俺LV上がってる。マジかー」


 金子くんが半笑いで尋ねてきたので、蓮がちょっと得意げに説明してくれた。それでダンジョンアプリを確認した浦和くんが驚いている。


「安永は今のなんとかっていう魔法使えないの?」

「メイルシュトロムはワイズマンになると習得する魔法なんだけど、本人の属性毎に覚える魔法が違うんだよな」


 蓮が明かした、授業ではまだ習わないワイズマンの話にみんながざわつく。

 確かに、魔法使いじゃないと普段属性ってあまり気にしないからね。水中の敵には雷とか、植物系には火とか大雑把な括りでしか認識しないし。


「自分の属性とか気になるー」

「なにそれ、めっちゃかっこいいじゃん」

「柚香は水属性で、俺は氷属性。だから俺が覚えたのはフロストジャベリン。俺のアクアフロウより、柚香のメイルシュトロムの方が圧倒的に水量多いんだよ」


 急に魔法に興味を持ちだした面々が、高二から中二に逆戻りしている。

 属性がわかるとなんかかっこいいっていうのは,微妙に同意するけど……。


「柳川って水属性なのか!?」

「風か火だと思ってた」

「なにそれ! どういう意味? 村雨丸も元々ちょびっと水属性だったもん!」

「だって、『火は短気、風は気分屋、氷はかっこつけ、水は優柔不断、雷はキレ芸キャラ』だろ?」


 何故か、私が水属性ということに対してのブーイングが飛び交った!

 確かに、イメージと属性がぴったり一致するわけじゃないかもしれないけどさ!

 それに、そんな性格診断みたいな属性分類は聞いたことがないよ。


 風か火――短気か気分屋って……まあ、風と言われても仕方ない気は、自分でもちょっとわかる。

 でも私の水属性の由来は、多分弟橘媛の走水入水事件なんだろうな。それはちょっと説明しにくい。


 雑談ができるのは、私たちの分担している24層のエリアはチェックし終わったからだ。

 目の前は階段だし、そんなちょっとだけ気が緩んだ瞬間にあちこちから着信音が鳴り響いた。


「どうした!?」

『ドラゴンいた! 場所は、えーと』


 千葉くんがそれに応答した瞬間、スマホ越しに彩花ちゃんの高笑いが飛び込んでくる。いや、通話の相手は倉橋くんっぽいけど、その側にいる彩花ちゃんの声がでかいんだよね。


『マップB3エリア!』


 長谷部班のマップ担当・石田くんが叫んでいる。

 今回私たちはドラゴン出現フロアにだけはグリッド付きのマップデータを採用してるんだけど、これが結構細かい。

 でも、そうしないと正確な位置データを共有できないからね。即座に「B3」って言えた石田くんは凄い。


「私が今そっちに行くから!」


 近くにいた中森くんを掴んで、スマホに顔を寄せて叫ぶ。長谷部班はライトヒールまでしか回復手段がないから、もし誰かが大怪我をしたら大変!


「蓮たちは先に下に行ってて」

「わかった」


 真っ直ぐB3まで突っ切ろうと、私は壁を形成している木を村雨丸で切り倒した。その間に、バタバタと他のメンバーは階段を降りて行く――と思ったら。


「こっちもドラゴンいる!」

「階段のすぐ前にいるぞ!?」

「やめてくれ! 俺たちが処理落ちする!」


 こっちはこっちで別のドラゴンがいる!?

 下の階だからいてもおかしくはないんだけど、どうして同時に遭遇しちゃうの!?

 準レアでしょ? 自分のレア度をわきまえてよ!


 こういうイベントは、ひとつずつ片付けさせてください!! そんな都合よく行かないのはわかってるけどさ!


「こっちは大丈夫だから、柚香は長谷部たちの方に行け。階段利用してヒットアンドアウェイができる」

「ラジャ!」


 ヒーラーとして超優秀な蓮がいれば、こっちは大丈夫だろう。いざというときのためにインフィニティバリアがあった方が良かったけど、ままならないもんだわ。


 一直線に突っ切ろうとして最初の曲がり角を曲がったところで木を切ったら、上からヘビが落ちてきた。それも返す刀で切り捨てる。

 そして、3本目辺りで「もしかしてウィンドカッターの方が早い?」と気づいた。

 しまった、蓮にウィンドカッターを撃ってもらえば良かったよ……。


「ウィンドカッター!!」


 見えない風の刃が木々を薙ぎ倒す。私の魔法は蓮みたいな威力はないけど、村雨丸で切るよりはやっぱり早い……くう、刀からソニックブームとか出たら一番早いのに!


 私ひとりが通り抜けるのがやっと程度の道を作って、彩花ちゃんたちの元へと急いだ。早く行かないとと思えば思うほど、ショートカットしてるはずなのに進みが遅いことに焦れる。


 遠くに聞こえるドラゴンの咆吼が、今まさに戦闘中だと否応なしに現実を突きつけて来る!


「お願いだから、誰も怪我したりしないでよ!」


 何度もウィンドカッターを撃って、私はようやくB3エリアの小部屋に辿り着いた。


「みんな、大丈夫!?」


 私の目に飛び込んできたのは、立ち尽くす4人の男子。

 そして――。


「はーっはっはっはっは! ドラゴン討ち取ったりぃ!」


 今まさに斬り落とされたばかりっぽいドラゴンの首を持って踊る彩花ちゃんだった……。


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