「ドラゴン討ち取ったりぃ!」
彩花ちゃんが、ドラゴンの首を持って楽しそうに踊っている。そして、すぐにドラゴンの首は消えた。当たり前だよね、倒されたら消えるのがダンジョンのモンスターだもん。
「あ、柳川」
力の抜けた声で倉橋くんが私の名前を呼んだ。他のメンバーは、武器を構えたまま棒立ちだ。
「もう倒したの? 速くない!?」
「遭遇してちょっと睨み合ってたんだけど、長谷部があっという間に倒しちゃったよ」
「僕たちは何もできなかった」
「……というか、何かする隙を与えてもらえなかった」
みんなが無事なのはよかったけど、彩花ちゃん以外は魂抜けてる!
しょうがないかなあ、彩花ちゃんはバーサーカーだし、LV91だもんね。
奥多摩ダンジョンで私と聖弥くんがドラゴンと戦ったときも、聖弥くんは一撃で首を落としてた。
そう考えたら、彩花ちゃんがひとりでドラゴンを倒せるのは納得。
「ドラゴンに……一太刀だけでも浴びせてみたかったな……」
ああ、倉橋くんが刀を持った手をだらんと下げたまま遠い目をしている……。
「彩花ちゃん、ちょっとは自重するべきじゃなかったの? みんなドラゴンと戦ってみたいって言ってたんだし」
あまりに他のメンバーがしょげているので、思わずちょっとだけ責める響きが混じっちゃったよ。
私の言葉に、彩花ちゃんはドラゴンの魔石を拾い上げながら唇を尖らせた。
「えー、前回ゆずっちと由井聖弥に譲ったんだから、今度はボクの番でしょ! 10ヶ月も待ったんだよ?」
「それはそう! なんかごめんね、みんな!」
それを言われたら私には反論できない! なんか違うよねって思いながら謝るしかできなかった。
「奥多摩ダンジョンにも出るから、今度行ったらいいと思うよ」
いつかみんながリトライできるようにと思ってドラゴンが出る一番近場のダンジョンを挙げたら、倉橋くんが乾いた声でハハハと笑う。
「……あんなとこ行けないよ、リアタイ配信見てて驚いた」
「ソウデスネ! あそこは確かに、車で近くまで行った上で徒歩じゃないと普通は行けない。私たちの場合、あの時はヤマトが他の人に確保されないように山登りする時間すら惜しんで、ヘリから飛び降りたわけだけども」
「ヘリから飛び降りたの? 何をやったら高校1年でそんな人生送る羽目になるわけ?」
石田くんが、「物凄く稀少だけど模様が嫌な感じの蝶」を見たような凄い顔で私を見ている。石田くんはクラフトだから、冒険好きな嗜好はないんだよね。
というか私もノリノリで飛び降りたけど、あれの発案ママだったわ。私の知ってる人の中で最高の冒険野郎だね。
「でも私と彩花ちゃんと聖弥くんは飛び降りたけど、蓮はテレポートしてた――ああああ!」
こっちが衝撃的すぎて一瞬忘れてたけど、蓮たちもドラゴンに遭遇してるんじゃん!
早くそっちに向かわなきゃ!
「25層の階段目の前にドラゴンがいたんだった! 私は戻るね! みんなは上り階段で待ってて」
「柳川! 今度俺たちもヘリで連れてってもらえるように、おじさんに頼んで!」
「4人しか乗れないけど、言っておくよ。テレポート!」
さっき道は作ったから、今度は見通せる範囲をテレポートで跳ぶだけ。一度のテレポートで階段の前まで戻る。
「ただいま!」
声を張り上げたら、蓮たちは階段の下の方で固まっていた。私の声に全員がこっちを振り向いている。
「まだ戦ってなかったの?」
「ヒットアンドアウェイしようと思ったんだけど、俺たちが階段にいる間にドラゴンがこっちに気づかずにサクサク前進しちゃって……」
「ファッ!?」
なんかみんな変な顔してると思ったらそういうこと?
私も階段の最下段まで降りて左右を見てみたら、左の細い通路の先に尻尾をリズミカルに振りながら歩いて行くドラゴンがいる。
お散歩感覚なのかな、なんかご機嫌そうだな。テイマーとしての勘がそう言っている。
「誰か、あれをテイムしてみようって猛者はいない? なんかご機嫌そうだよ」
「神様テイマーの無茶振りが出たぞー!」
「ドラゴンをテイムするって、とんでもないこと言うよな!?」
「ていうか、テイムしたとして、どうやって神奈川まで連れ帰るわけ?」
ドラゴンの雰囲気から「なんとなくテイムしやすそうだな」と思って提案しただけなのに、非難囂々……。
確かに、京都から神奈川まであれを連れ帰るのは凄い大変そう。アグさんと違って飛べなさそうだし、セミナーハウスに預けるにしても大きすぎだもんね。
「うちのママ、フレイムドラゴンをテイムしたけども……」
「さすが柳川の親だよな」
「伝説のテイマーの一歩下のことを要求しないでくれよー」
中森くんには変な風に感心され、浦和くんにはやさぐれられ。
結局誰も、テイムしようという人は出てこなかった。
「で、どうする、あれの攻略法」
「通路にいるからなー。他のモンスいないし、遠距離から一撃当ててタゲ取って、これ以上進まないようにしとく?」
「これ以上進まれるとヤバいぞ!」
ドラゴンが角の側まで進んだので、金子くんが急に声を荒らげた。それに呼応して須藤くんがフロアに降りてボウガンを構え、すぐさま矢を放った。
ほとんど狙いも付けてない速射だけど、矢はドラゴンの頭のすぐ上をかすめて飛んでいった。
「グルルル……」
今までルンルンだったドラゴンが、急に不機嫌そうな唸り声を上げながらこちらを振り向く。
「蓮、バックアタック警戒! 私はいざとなったらインフィニティバリアを張るから! みんな頑張れ!」
「うおおおお、俺の斧が唸るぜ!」
室伏くんと中森くんが階段を一足飛びに降りて、同時にドラゴンに向かって駆けだした。