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第412話 戦い終わって日が暮れて

 階段でしばらく私たちはぶっ倒れていた。倒れてないのは蓮と中森くんだけ。

 うん、これは、気疲れですね。

 緊張の後の、弛緩が一気に来すぎたせいで動けなくなっている……。


「いやー、これで俺たちもドラゴンスラッシャーか!」

「スラッシュしてねえだろ、スレイヤーだよ」


 相変わらず素でボケる中森くんに、室伏くんが律儀に応えていた。


「でも、びっくりしたよ。あそこでまさか火攻めとか思わなかった。よく準備してたね」


 私が一番驚いたことを須藤くんに向かって話すと、須藤くんは少し真顔に戻って頷いた。


「大山阿夫利ダンジョンでさ、デストードの痺れ毒使ったじゃん? あれいいなと思って。敵が動けないならフルボッコできるし、火だるまにして置けば勝手に死ぬしさ」

「そうそう、2班合同戦闘だから、須藤とふたりでそういうの準備してたんだよ。でもドラゴン相手に痺れ毒使ったらつまらないだろ? モンスターハウスとかあったら使うつもりで持ってきてたんだけど」


 須藤くんの言葉を千葉くんが補足する。なるほど、クラフト後衛コンビで事前にいざというときは火攻めができるように準備してたんだ。

 ドラゴンに痺れ毒を使ったらつまらない、か。今回はチャレンジアタックだったからそうなんだろうね。


「でも、動けないドラゴンが火に包まれて矢が刺さっていくの、見てて鳥肌立ったよ。映画のシーンみたいだった」

「だろ、だろ? もっと褒めて良いんだぜ!」


 私が褒めたら、須藤くんはへへへと照れ笑いをして、千葉くんは盛大に天狗になった。


「訂正、MVPは千葉と須藤のW受賞」

「異議なーし」

「異議ありー!」


 中森くんが焦ってじたばたとしているけど、「運よりも事前準備の方が大事なんだよ」と金子くんに完封されていた。


「おーい、どうだったー?」


 階段の上から倉橋くんが覗き込んで声を掛けてくる。私たちは一度顔を見合わせて、笑顔で拳を突き上げた。


「ドラゴン討伐、成功ー!」

「でも疲れたー!」

「……いいじゃん、疲れるほど戦えたなら」


 彩花ちゃんの独壇場で何もさせてもらえなかった倉橋くんの言葉が、やけに寂しく響いた。



 24層と23層、ふたつの階段に分かれてお昼ご飯を食べ、私たちは帰路についた。

 これでもまだ午後1時だよ。さすがにのんびり帰ることはできないけど、行きに拾えなかったドロップを回収するくらいはできる。


 滝エリアはまだ氷が溶けていなくて、物凄く寒かったけども行きと同じくアイゼンを装着して楽に通り抜ける。

 その後の絶壁エリアも、氷は半分くらい溶けていたけど縄ばしご自体は落ちていなかったから、凍らせ直してトンボとカラスを迎撃しつつ通過した。


 後は、本当に来たときと同じ最短距離を進みつつ、所々に落ちている魔石とアイテムを回収する。


「結構稼げてない? ドラゴンの魔石ふたつあるし」

「でかいよなー。あ、俺と金子の防具、それで買い直してもらえない?」


 室伏くんの言い出したことに関しては、対応が真っ二つに分かれた。

 私と蓮の班メンバーはだいたいが頷いたのに対して、彩花ちゃんの班のメンバーはしっぶい顔をしたのだ。


「ドラゴンと戦えた上に、防具買い換え?」

「甘えだろ……俺たちなんか全く戦えなかったんだぞ」


 何もかものおいしいところを彩花ちゃんに奪われたメンバーの、切ない恨み節が響く……。


「まあまあ、どうしても再戦したいって人は奥多摩ダンジョンに行けるようにパパに頼むからさ。金子くんと室伏くんの防具は……どうしようか」

「この稼ぎをそのまま持って帰って、残りの奴らから賞賛の目で見られる方に一票」


 笑い混じりの蓮の言葉で、みんなの目の色が変わった。――特に、妖怪「カノジョホシイ」の目が怖い!


「安永の案採用!」

「ドラゴンの魔石って確か150万くらいしなかったっけ?」

「俺たちの稼ぎだけで修学旅行費お釣り出るの凄くね?」


 やばっ、みんな真顔だわ!

 でもそれも良いと思うな。昨日チャレンジ失敗した班にも恩恵が出るし、今日ダンジョンに挑む前に「稼ぎと経験値は別の機会に回そう」ってことにしてたしね。


 結局、神奈川に帰ってからみんなで大山阿夫利ダンジョンで稼ごうという話にまとまり、その場は丸く収まった。

 なんで大山阿夫利ダンジョンかっていうと、今回敢えてデストードの痺れ毒を封印してドラゴンと戦ったことで、あの有用性を一部が凄く実感したからだって。


「毒シート量産してさー、『ゆ~か御用達』って言えば、NeNe工房に発注たくさん来たりしないかな」

「柳川、今度ダン配の時に使いまくって宣伝してよ」


 クラフトズが声を揃えてねだってくるので、私はうーんと考え込んだ。

 ダン配で私が痺れ毒を使うと、ウケがあんまり良くないんだよね。便利なのは理解してもらえるんだけど、華がないって言われちゃう。

 私に求められているのは、毒を使った手堅い攻略法じゃなくて、ヤマトの暴走とか私の無双とかトラブルとか、そういう要素だと思うんだよねえ。


「ああ、それはなるほどねって思うんだけど……そうだ、バス屋さんに頼むべきじゃない? あの人寧々ちゃんから情報もらう見返りに宣伝請け負ったって言ってたし」

「それだ!」


 彩花ちゃんと倉橋くんの声がぴったり重なった。このふたり、対バス屋さんに関しては凄い息が合ってるな……。


「バス屋に毒付き棒手裏剣だけでダンジョン攻略させる配信しよ?」

「楽しそう。俺現場で見たい」


 彩花ちゃんと倉橋くんは悪い顔で笑い合ってるけど――うーむ、バス屋さん、倉橋くんにこんな顔させるの本当にある意味凄いな。



 そして、トラブルもなく順当にダンジョンを攻略した私たちは、北峰高校冒険者科歴代最高の稼ぎをぶっちぎりでたたき出し、伝説に残ったのだった。

 どのくらい伝説かというと、ドラゴンの鱗以外のドロップを全て売却した金額を大泉先生に提出したら、虚無顔で3分くらい笑い続けられたくらい……。


 この「3班でドラゴン2体討伐」の記録は、後に「大泉先生錯乱事件」として後輩たちに語り継がれることになった。


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