「いわゆるアカシックレコードの接続成功者です」
上野さんが自己紹介をしたときも、会議室はしんと静まりかえっていた。
私たち「存じております勢」もいたし、職員さんのなかにはあからさまに驚いた顔で上野さんを見つめている人もいる。
「マナ溜まりは地球を流れるエネルギーがダンジョン内で表出してしまった場所――ということを、俺はそこの赤城さんから教わったわけですが」
上野さんに対して驚いてた職員さんが、ぐりんと音がしそうな程首を巡らせ、「かいちょおおおおおお!!!???」と叫びそうな顔を赤城さんに向けた。
「これはあくまで俺の推測ですが、赤城さんはアカシックレコードに繋がっていません。繋がっていたら、俺と同様に異変を察知しただろうから。
現在、地球上にあるダンジョンは我々が神と呼んでいるものの意思により作り出されたもの。マナ溜まりはその巨大な意思エネルギーへのアクセス端末です。事前にそれに呑み込まれない覚悟をしていた俺のようなものか、あるいは柚香ちゃんのような特異な耐性をもった人間だけが生還する事ができる」
「あっ! そうよ、ゆ~かちゃん、あそこに落ちて!」
毛利さんと一緒に座っていた女性の職員さんが驚きの声を上げた。けれどすぐに我に返ったのか、「失礼しました」と咳払いをする。
私の事知ってたんだ。うーん、神奈川の有名人って奴だから仕方ないかな。
上野さんはそれから淡々と、神々がダンジョンを作り出した意図や、ダンジョンが独自のプログラムで動いている事、マナ溜まりから得た情報でそれを理解した上野さんと赤城さんが新宿にダンジョンを作った事を話した。
赤城さんは終始腹の底が見えない笑顔を浮かべていて、職員さんたちの厳しい視線はそちらに向かっていた。
……理事長のくせに、なにも話していなかったんだなあ。
「俺はまだシステムに繋がっていますから、今回のコード書き換えをすぐに察知しました。詳細を探ろうと横須賀ダンジョンのマナ溜まりに向かう途中で、モンスターが地上に溢れ出るスタンピードが起きている事を知った。
再度変更された部分を上書きすれば事態の収拾が付けられると確信したのでライトニング・グロウに護衛を頼んでマナ溜まりに向かい、モンスターの行動原理と制限に関する部分を書き直して、高度に暗号化を掛けてロックしました。これをしたのはヘル陣営の神でしょうが――」
一度言葉を切った上野さんは、赤城さんとどこか似た食えない笑顔を口元に浮かべた。
「既存の記述を簡単に弄っただけの実に稚拙な改変だった。俺の仕掛けたロックを解除するには100年掛けてもまだ足りない。これが本職の天才って奴ですよ」
「よくやった」
赤城さんが妙に響く拍手をする。赤城さんと上野さん以外は、そんなふたりを呆然と見ていた。
「ついでに、ダンジョン生成のログを確認して、エーリューズニルの内部構造を確認しました。全40層でエリアパターンは
「ほう、なかなかいい手じゃないか。死者の国の館をホテルにするなど」
上野さんと平然と話しているのは赤城さんだけで、もう、みんなぽかーんとしてる……。
できるんだ、ダンジョンに後から隠し部屋を生やすとか……。
「攻略の時には拠点となる安全地帯が必要だと思ったので。それと、ダンジョンシステムをもう一度総チェックしたところ、実行化されていない設定を見つけたのでそれをオンにしてきました」
「ほほう?」
赤城さんがまた片眉を上げた。上野さんがわざわざオンにしたってことは、人間にとって有利になる設定ってことだよね?
「具体的には、魔法系に確認されていたのにファイター系には存在していなかったジョブシステム、それと様々な効果を持つ称号システムの有効化です。ダンジョンアプリをお持ちの冒険者の方は、ステータスを確認してみてください。以前とは変わっているのがわかると思います」
ファイター系ジョブの解放!? 私が密かに「なんでないの!?」って思ってた奴じゃん!
私は慌ててスマホを取り出し、震える指でダンジョンアプリを起動した。
そして、私の目に飛び込んできたステータスは、確かに変わっていた。
ゆ~か LV86
HP 1032/1032
MP 263 /263
STR 370
VIT 326
MAG 224
RST 131
DEX 451
AGI 457
ジョブ【ワイズマン】【テイマー】【ソードベテラン】
称号【海神の愛し子】
スキル【初級ヒール】【中級ヒール】【上級ヒール】【最上級ヒール】【回復力アップ】【護りの祈り】【初級攻撃魔法】【中級攻撃魔法】【上級攻撃魔法】【最上級攻撃魔法】【MP自然回復力アップ】【初級補助魔法】【中級補助魔法】【上級補助魔法】【最上級補助魔法】【ユニーク魔法:インフィニティバリア】
装備 【――】
従魔【ヤマト】
た、確かになんか増えてるー!