いやなことを忘れようと
ほかのことにうつつをぬかす
いやなことを忘れるどころか
なにげに思い出してヤバイ
思い出せば思い出すほど
記憶は定着しつつあり
それならいっそ別のテーマで
意味のない羅列を繰り返す
たとえば英単語
たとえば年号
たとえば元素表
たとえば料金表
たとえば過去問で間違えた問題の正解
たとえば
いやなことを忘れようとして
忘れようとしていたことさえ忘れていて
気づいたら
暗記科目は得意になっていた
けど
そんなこと覚えてなんになるの?
って責め問われたり
あんなもの覚えたって役に立つかよ!
って不気味に説教されたり
わけのわからない連中が来る
ついこのまえまで
よぉ ゃあ って
ハイタッチしてた間柄
たとえば孤立して
たとえば屋上で
たとえば中庭の大理石
たとえば帰りに寄る喫茶店
じゃあまぁせっかくだから
と
参考書を広げてみれば
うらやましいほど自由な世界につながれた
たまたまだよ たまたま
約束?
するわけないじゃん
で
同じ予備校で一緒の子
たまたまな 目が合って
初めてだ 気が合うかも
で
こっちこっち こっちだよ
と
蚊のなく声で呼びかける
向かい合えば
謎の表情
深刻そうになられてもだし
意味のない言葉を連打する
なんかあった
なんか聞いた
なんか見てる
なんかこのまえ
かみあわない会話が続いたあとに
沈黙が来る
それは知ってる
これも知ってる
こんなとき
打開しなくちゃと思わない
こんなとき黙りあい
いっそうんざりしてもらおうか
知ってるなら教えてほしいんだけど
このまえの模試あったでしょ
ターヘルアナトミアのくだりと
鎖国したメリットってなに
それならたぶん
コーヒーの香りが消えていないのに
すっかり冷たくなっていた
おまえさこのまえ彼女といたろ一緒に裏路地の喫茶店
制服だったよな
なにあれまじ本気でアレなん?
と
詰め寄られたとき思わず言い返してみたら
それきりなにも言われなくなった
でも あのとき おれ なんて言ったんだっけ
そや あのとき おれ なんか言ったような
なにもしていないから
なにかしているような匂わせ
なにもしていないからこその
なにかしているそぶり
なにもしていないから
なにかしたくなるような
なにもしていないからこその
なにもしていないフリができない
カラーン
扉があくたび鳴る鈴が
セーラー服を歩かせる
こっちこっち こっちだよー
と声に出さずに呼んでみたら
あ
なんかいま
以心伝心ぽいなにか