模試の結果が想定より良かった
ただそれだけのこと
いちいち喜ばないよ
みっともない
初めて合格圏内に入れた
たったこれだけ
ほんのわずか
いつもよりなにかが
よかったのかどうか
詳細は不明です
おまけに理由も不明なんだけど
おれは足早にビルの屋上に向かった
レストラン街よりさらに上の
さびれた遊園地が風に吹かれている
ああ
うれしいや
潮の香りがまじっているから
海に行こうか考えちゃうけど
どのみちこのあと自由なんだ
それなら気にせず旅に出よう
名残惜しくて振り向いたけど
観覧車は停止したままだ
エスカレーターもあるにはあるが
このまま階段一気に駆け下りる
息を切らして舗道に出れば
ヒメシャラの種が落ちていた
夏には白い花が咲く
なんでだろう待ちどおしい
ひたすら階段を登るしかなくて
この一段が歩幅と合わなくて
ちょこまかと
ああ一気に駆け登りたい
そう思いながら
ちょこまか登る
定期券の範囲外でモノレールの切符を買った
たまたまにしろ誰もホームにいなくて
思わず貸切状態だ
宙にぷらさがり
カーブで傾けば
なぞの飛行物体に乗ってる気分で
あることないこと空想する
あることないこと空想してると
ふと なにか ぽっかり あいた
痛い
つらい
いきぐるしい
窓あけたい
いきぐるしい
いつになったら自由になれるか
待っているのは見当違いだ
不自由のなかで
わめけ
さわげ
ありとあらゆる暴力を妄想しながら
いちばん望む方向へすすめ
せめて
涙が流れてくれればいいのに
涙があふれて嗚咽に酔えば
ちょっとは救われた気分になるのに
途中で降りた
知らない名前
知らない空気
手をのばせば届きそうな花壇
改札への階段で
人が来る
こっちへ
あれ
あら
え なぜ
なになにどうしたの
まさか なに 待ち伏せしちゃった?
いや たまたま気まぐれで乗っただけ
乗らないでしょフツウたまたまとかでモノレール
乗るよ
どうして
模試の結果が良かったから
「いちおうきくけど、まさかぶらり旅に出たまま約束すっぽかすつもりなにんかじゃ?」
「ないよ」
「うん。ならいいけど」
「たまたまだよ、たまたまだし。ただ往復して戻って、それで間に合うよ」
「じゃあさ、私が結果受け取ったら、いつものお店じゃない場所にしない?」
「いいけど他なんにも知らないよ」
「うん、それでいいの」
また予備校に戻ってきて広いロビー
タイル張りの壁に夏期講習のポスター
彼女は模試の結果を受け取ったけどすぐには見ないで
「いこうか」とだけ
いこうかってどこ
どこかって どこか
だからどこ
だからどこか
また駅で またモノレールで またがらんとした車内は貸切か
スピードあげるカーブで
おおっとっとっと と?
派手に彼女がよろめいた
危なくないのはわかっているけど
「おーい」と適当こいて腰に手をまわし抱き寄せたら
「さんきゅ」と笑顔を向けられて
なぜかドギマギしてしまったけど
さらにスピードでよろっとしたとき
つい反射でまた手を出したら
ふれてしまった
え あ ごめ
と言えず
だからってごまかせるものでもなく
ただ その あ
ねえ どうしてこんなにすいてるのに
わたしたち立っているのかな
こうしていると踊ってるみたいじゃんか
いつかディスコいきたいねー
クラブっていうんだっけ
どっちでもいいけど さ
どっちでも
一瞬だけ海が見えた
水平線の気配が眩しくて
知らない街へまぎれていくけど
なんだかどこも高そうなメニューだ
おれからフツウに誘えない
むしろもうこのまま歩いているだけで
一銭たりとも使いたくない
こういうの好き?
言われてきみのほうを見れば
細い指先に
派手な色彩の水着がならぶ
そっか
予備校通うだけの日々だけど
足を延ばせば手に入る世界
こんな近くにあったんだ