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第52話 言い切る

大学キャンパスを利用して開催される模試が好きだ

ほぼ毎週なんやかんや模擬試験を受けているわけだ

うまくスケジュールを調整できさえすれば月一回は

おそらく最初で最後となるかもしれないチャンスも


単純だから遊びたいだけ

試験だから勉強だけど

ついでにぶらりと気分は旅

ひとり旅でかまわないけれど

友だちと一緒に待ち合わせするのも

面倒だけれど好きなんだ


模試は普段の予備校の授業料とは別料金なので

すべてに参加できるとは限らない

そういう意味では父に感謝している

教育に金は惜しまないという豪語はだてじゃなかった

もちろん過干渉で束縛されるが

そのあたりを割り切ることができれば

面倒だけれど上出来さ


割り切れないよ


大学キャンパスを自由に歩き回ったとして

そもそも学生じゃないのだから

広場や舗道を歩くくらいで

食道や売店のうわさは聞くけど

入ったことがない

図書館には興味があるけれど

その大学の学生証を提示しないと入れないらしい


そうそううまいことばかりじゃない


「あのね。うち、親がきびしいから…友だちってことにしてくれる?」

「かまわないよ。ただし」おれは伝えることにした「もしもうちに電話してくるとしたら『友だちです』はご法度だよ?」

彼女は不思議顔で「どうして?」

おれは答える「うちは恋愛禁止じゃないけど友だちづきあいは禁止なんだよ」

「うそ。なにそれ」

「ほんと。まじで」

「え。だってこのまえ友だちと映画観にいったって。喫茶店でアイスコーヒー飲んだって」

「うん、それ部活の仲間ってことだからおおめに見てもらえてる」

「え。バンドやってるよね?」

「うん、部活の仲間とだから、ギリその延長線上…かなりピリピリしてるよ」

「じゃあわたしは、どういう扱いになるの」

「もし紹介するなら『恋人です。交際させていただいております』って説明する」

「ちょ」

「わるい。うちでは『まずはお友だちから始めましょう』とかないから。友だち毛嫌いしてるんだよ」

「…それってどうなのって感じ」

「ああ、どうなのもなにも、どうしようもないんだよ」

「それでいいの?」

「よくないね。説得できなかったし説明しても理解してもらえないし努力すべて泡っていうか無駄だった」

「まさかとは思うけど…友だちの家に遊びにいったりとかは…」

「あるよ」

「あるんだ」

「遊びに来られたことは、ない。ぜんぶ親が断固拒否」

「…」

「そういうことだから気分もし害するようなら先に遠慮なく言って…」

「あのね」彼女は困惑顔で「恋人としてつきあえるのはうれしいけど、うちの親の前では…」

「ご法度なんだね」

「ごめ」

「親の都合なら、しかたないよ。バイトすら軽がると認めてもらえない立場なんだから」

「不自由だね」

「なんとかうまくやってくさ」

「そうだね」

「ところで、きみのご両親というか『友だちとして』っていうのはフツウていうか常識的だと思うんだけど」

「けど?」

「うちみたいなのはどう思う?」

「困るといえば困っちゃうけど、ある意味フツウの範囲内。常識ったっていろいろあるし」

「そっか。そう思ってもらえると助かるよ」

「こちらこそ…ウソにつきあわせるみたいでごめんね」

「ウソか」

「だって『友だち』じゃないのに『友だち』って」

「ウソも方便だよ」

「でもウソはウソだよね?」

「誰も傷つけないウソだから、むしろ、いいウソだと思う」

「ウソに、いいわるいなにんてあるのかな」

「あるよ」おれは少しだけ小学生のときを思い出す「ひとを傷つけ、自分も傷つき、ただ親だけが満たされるんだけど、親だってまんぞくしているわけじゃない…むしろ常に不満なんだ」

「なにに不満なの」

「おれのこと、おれのすること、おれの存在そのもの」

「そんな」

「ごめんちょっと言い過ぎた。言い過ぎた。わるい」



おしゃれなカフェの雰囲気が台無しになるような会話をして

さっきの模試のわからなかった問題をつきあわせて

来月の模試どうしようか

って打ち合わせ


あるとき同級生が舌打ちしながら近づいてきておれにそっと小声で

「見たよ昨日きみガールフレンドと一緒だったろ?」

ガール、フレンドか

フレンドな

この場合どういう反応をしていいのか困る

だから

「見られちゃったか」

と真面目な顔になる

「誰にもいわないよ」

「そっか」

「いいねえ、彼女とデートなんて、日曜日」


模試もデートにいれていいみたいです

おれは便乗することにした


それからおれは彼女と会うときすべて

予備校の授業でも喫茶店の勉強会も

ましてや大学キャンパスまででかける模試なんて


デートです。言い切る。誰にもいわないけれど

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