風の冷たさは心を温かくしてくれる
世界は凍える話に満ちて親を不安にさせるから
どんなに真面目に生きていても
娘も息子も疑われるよ
とはいえ不思議
なにやら組み合わせなのか
寛容な親のもとで悪事を働く娘がいたり
慈愛あふれる親のもとで息子が壊しまくる
どんなに大丈夫だよと説得しても
うちは疑われてばかりだけどね
ニュースで不安をあおられて
びくびくしているのは父だ
おいおまえ 大丈夫なんだろうな
ひとりごとのように家族を責めて
ここにいないモンスターを警戒してばかりだ
信じてくれとはいわないけれど
朝も夜も疑われて追い込まれてると
だったらいっそそうしてやろうか
それをお望みなんでしょう
と
なきたくなる
潮の香りは濃いほうがいい
せきこむくらいのべたつき
体が痛くてきしんでいるけど
心を暖かくできるのは
見晴らしのいいここだけ
カツンカツンと響く靴音は
なさけないおれを知る彼女だろう
近づいてくる
会える嬉しさ
こんな顔を見せたくない
約束したわけじゃないのに
缶コーヒー持ってきてくれてないかな
なんて期待してる
あ
その笑顔
ちょっと心配してそうでも
やっぱり笑顔
嬉しくて
こんな顔を観察されたくなくて
駆け寄って抱きしめた
どんな顔で話せばいいのか
わからないよ
すべて聞いてほしいのに
なにも訊かないでほしい
どんなウソでごまかせばいい
どんなウソで安心してくれる
なにも癒えない
冷たい真実だけが治してくれるのだから
風の冷たさが心を温かくしてくれる
世界の凍える話が散って
すべての繁みが枯れ落ちたら
今度こそ自分たちの芽を育ててみせる